市民裁判員先行記第44回/Winny事件京都地裁判決

 京都地裁Winny開発者が被告人となった,著作権法違反幇助に係る事件。第26回公判/判決言渡しを傍聴に行ってきました。しかし,抽選の結果,傍聴はできずじまい。伝え聞くところによると,「技術自体の価値は中立的だが、著作権侵害への利用を認識し、弊害も知っていた。独善的かつ無責任な態度で非難は免れない。しかし侵害の蔓延を積極的に意図したわけではない」との理由により,「被告人を罰金150万円に処する。」との判決主文ということ。

 裁判長は「ウィニーはP2P(ファイル共有ネットワーク)技術の一つとして諸分野に応用可能で有意義なものであり、技術自体は価値中立だ」とした。ソフトの提供が違法かどうかは「利用状況や提供時の被告の主観面で判断される」と述べた。
 その上で、捜査段階の供述やホームページへの書き込みを基に「被告はファイル共有ソフト著作権を侵害する形で広く利用されている現状を認識し、(違法)利用が広がることで既存のビジネスモデルと異なる新しいモデルが生まれることを期待して、ウィニーを開発・公開した」と判断した。ウィニーは匿名性が高く、利用者の著作権侵害を容易にした点も挙げ「不特定多数へのウィニー提供は、ほう助に当たる」と結論付けた。
 一方、「著作権侵害をまん延させようと積極的に意図していたと認められない」と検察側の主張を一部退けて、「新しいP2P技術を開発するという目的もあった」と述べ、罰金刑にとどめた。
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2006121300067&genre=D1&area=K10 から抜粋

 技術自体は価値中立的であり、価値中立的な技術を提供することが犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助(ほうじょ)犯の成立範囲の拡大も妥当でない。
 結局、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様によると解するべきである。
 被告の捜査段階における供述や姉とのメールの内容、匿名のサイトでウィニーを公開していたことからすれば、違法なファイルのやりとりをしないような注意書きを付記していたことなどを考慮しても、被告は、ウィニーが一般の人に広がることを重視し、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を十分認識しながら認容した。
 そうした利用が広がることで既存とは異なるビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーを開発、公開しており、公然と行えることでもないとの意識も有していた。
(中略)
 ただし、ウィニーによって著作権侵害がネット上に蔓延(まんえん)すること自体を積極的に企図したとまでは認められない。
 なお、被告は公判廷でウィニーの開発、公開は技術的検証などを目指したものである旨供述し、プログラマーとしての経歴や、ウィニー2の開発を開始する際の「2ちゃんねる」への書き込み内容などからすれば、供述はその部分では信用できるが、すでに認定した被告の主観的態様と両立しうるもので、上記認定を覆すものではない。
http://www.asahi.com/national/update/1213/OSK200612130057.html から抜粋


 まだ本事件に関しては,控訴等々が控えているわけですが,第1回公判からこれまでのWinnyウィニー、ウイニー)事件公判傍聴録/【情トラ】まとめ(概要も含む。)を,次に掲げています。全てを読んでみるだけの価値はあるのではないかと考えていますので,ご参考まで*1
【追記】次のように,ご紹介いただけたことは嬉しい限り。

裁判の経過等については、公判の傍聴録をずっとまとめられてきたjoho_triangleさんの一連のエントリは必読だと思いますので、この問題にご関心の向きは、ぜひ。
[law][WWW]態度と大義‐Winny事件地裁判決


 ということで,ご関心の向きは,次のまとめから,ぜひ。京都地裁判決文も掲載していますので。

  1. 検察官起訴状朗読、被告人陳述、検察官の冒頭陳述及び証拠調べ請求等
  2. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その1
  3. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その2
  4. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その3
  5. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その4
  6. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その5
  7. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その6
  8. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その7/傍聴なし
  9. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その8
  10. 更新弁論等
  11. 検察側証人尋問/正犯(とされる方)/その1
  12. 検察側証人尋問/正犯(とされる方)/その2
  13. 検察側証人尋問/社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)担当者
  14. 検察側証人尋問/任天堂担当者/ゲームボーイアドバンスのゲームプログラムの真正・不真正の鑑定
  15. 被告人質問/被告人の「これまでの経歴」及び「つくってきたプログラム」
  16. 被告人質問/「Winnyの技術」
  17. 被告人質問/「Winnyの評価」及び「家宅捜索」等
  18. 被告人質問/「各種調書の任意性」及び「47氏としての2ちゃんねるへの書き込み」等
  19. 弁護側証人尋問/Winnyの技術等
  20. 被告人質問/Winny2の機能等
  21. 被告人質問/「Winnyの将来展望について」等
  22. 被告人質問/Winnyの開発意図等
  23. 証拠の整理
  24. 検察官論告・求刑
  25. 弁護人最終弁論・被告人意見陳述
  26. 【追記】Winny事件京都地方裁判所判決文


 そのほか,本日,金子 氏からのものとして,報道関係者等に配布されていた声明について,次のとおり,一部引用させていただくことといたします。

 私に対する著作権侵害幇助事件は、本日、有罪判決となりました。
 私は、Winnyは、将来的に有用な技術であって、将来、その技術は評価していただけるものと信じています。それだけに、今回の判決は残念でなりません。
(中略)
 今回の判決は、私だけはなく、日本のソフトウェア技術者が曖昧な「幇助」の可能性に萎縮して、有用な技術開発を止めてしまう結果になることが何よりも残念です。こうしている間にも時代は動いているにもかかわらず。
 今回の裁判に対しては、控訴して、技術開発のあり方を世に問うて行きたいと思います。今後もご支援のほどよろしくお願いします。


 あと,「京都地裁に入る金子勇被告=13日午前9時48分、京都市中京区で」,「ウィニー事件の判決公判のため、京都地裁に向かう金子勇被告=13日午前」とありますが,これは,それ以前から京都地裁内にいらっしゃったものの,報道陣のためなのかどうか,一旦,外にでて,あたかも今から入るかのように撮影等々していたことは,みなさんご承知のとおりということで。


※本エントリは,1回公開したあと,その内容をある程度書換えました。さらに,エントリのタイトルを「43」に「44」に訂正しました。


【追記】
 2009年10月8日,大阪高裁で開かれた控訴審判決公判においては,罰金150万円(求刑懲役1年)とした1審京都地裁判決が破棄され,金子被告は無罪を言い渡されています。

ほう助が成立するか
 ネット上のソフト提供で成立するほう助犯はこれまでにない新しい類型で、刑事罰を科するには慎重な検討を要する。
 原判決は、ウィニーは価値中立的な技術であると認定した上で、ホームページ上に公開し不特定多数の者が入手できるようにしたことが認められるとして、ほう助犯が成立するとした。
 しかし、2002年5月に公開されてから何度も改良を重ね、03年9月の本件に至るが、どの時点からどのバージョンの提供からほう助犯が成立するのか判然としない。
 利用状況を把握することも困難で、どの程度の割合の利用状況によってほう助犯の成立に至るかや、主観的意図がネット上において明らかにされることが必要かどうかの基準も判然としない。したがって原判決の基準は相当でない。


 被告は誰がウィニーをダウンロードしたか把握できず、その人が著作権法違反の行為をしようとしているかどうかも分からない。価値中立のソフトをネット上で提供することが正犯の実行行為を容易にさせるためにはソフトの提供者が違法行為をする人が出ることを認識しているだけでは足りず、それ以上にソフトを違法行為のみに使用させるように勧めて提供する場合にはほう助犯が成立する。
 被告はをネットで公開した際、著作権侵害をする者が出る可能性を認識し、「これらのソフトにより違法なファイルをやりとりしないようお願いします」と著作権侵害をしないよう注意喚起している。
 また、被告は02年10月14日には「コンテンツに課金可能なシステムに持ってゆく」などと著作権の課金システムについても発言しており、ウィニー著作権侵害の用途のみに使用させるよう提供したとは認められない。
 被告は価値中立のソフトであるウィニーをネットで公開した際、著作権侵害をする者が出る可能性は認識していたが、著作権侵害のみに提供したとは認められず、ほう助犯の成立は認められない。
http://www.47news.jp/47topics/e/134329.php から抜粋

*1:この連載の目的は,「この公判に関心がありながら実際に傍聴に行くのは難しい方々に,そして(『Winny』に興味がなくとも),刑事事件の公判とはどのようなものかといった疑問を抱かれるような方々に対して,情報を共有してもらえれば,などと考えて連載しています」というモノです。cf. http://d.hatena.ne.jp/joho_triangle/20060301/p1