選挙運動用自動車の上で行う「候補者の名前だけを呼ぶ」連呼行為は,やはり許されないのではないか

 保坂展人議員のブログにて取り上げられている「驚きの公選法選挙カー走行中は『連呼』以外は許さず」との問題について。

 私たち政治家は、先輩から「選挙カーの走行中に連呼をしてはいけないことになっているから、名前を続けて言ってはいけない(これぞ連呼)。政策やキャッチフレーズの合間に名前を差し挟むように」と聞いてきた。私は自分の選挙を過去4回、また、参議院選挙や地方選挙も数限りなくやってきて、そう信じていた。しかし、これは公選法を逆さに読んでいた誤解、公選法が求めているのは「選挙カーの走行中に許されているのは連呼だけ」というシュールな規定だったのだ。


 しかし,わたしが確認した限りでは,この保坂議員の理解には「『連呼』の意義がいかなるものであるか」について「誤解」があり,やはり先輩からの伝え聞きのほうこそが「正しい理解に近い」と思わなくもない(※もっとも,保坂議員は「国会図書館の専門家と総務省選挙課に問い合わせたら」としており,私のほうにこそ誤解や確認不足があることも十分に考えられるので,その旨ご注意下さい。/やはり私のほうに確認不足があったと思われますので,【追記】を掲げています。/さらに【追々記】を掲げました。)。


 すなわち,公職選挙法改正に関する調査特別委員会(昭和35年10月14日)議事録によると,「選挙運動用自動車の上で行う連呼」については,「個人演説会及び街頭演説を行う場合の告知のために行うものであるときには,午前8時から午後8時までの間に限り,これを認める」として法改正がなされた経緯がある。

 それゆえ,「単に候補者の名前だけを呼ぶということは認められず,個人演説会及び街頭演説の告知のために,『(1)どこどこの場所で演説がある,そして(2)それがいつ何時からある,そして(3)その演説会はだれの演説会である』という少なくとも三要件が具備されてはじめて選挙運動用自動車の上で行う連呼が認められる」とされているのである。


 とすると,やはり「『選挙運動用自動車の上で行う』『候補者の名前だけを呼ぶ』連呼行為は,許されないことになっている」との先輩の理解のほうが正しい理解に近い。
 ただし,「政策やキャッチフレーズの合間に名前を差し挟む」のではなく,「個人演説会及び街頭演説を行う場合に,(1)場所・(2)何時・(3)名前をあわせて告知する」ことが正しい連呼行為であると考えられるから,先輩の理解は,若干あやふやだったといえるのではないだろうか。


 以下,関係部分を抜粋。

○三浦法制局参事
 (略)
 連呼行為の問題につきましては、先般の小委員会におきましては、選挙運動の始まりました最初の五日間と終わりの五日間、一定の限られた時間内でこれを許すということになっておりましたが、その後いろいろ検討されました結果、連呼行為は、現行法通り原則として禁止する、こういうことにいたしまして、ただし、個人演説会及び街頭演説――それ以外の演説も含むことにいたしまするが、そういう場合の告知のために選挙運動用自動車の上でいたします場合におきましては、午前八時から午後八時までの間に限りましてこれを認める、こういうことにさきの小委員会において決定になったわけでございます。それからなお、連呼行為につきましては、自動車の上において今の個人演説会及び街頭演説、これには演説を含むことになりまするが、その告知のために連呼行為をすることもいい、こういうことになるわけでございます。その関係条文といたしましては、百四十条の二のただし書きを修正いたしますることと、百四十一条の三のただし書きを修正いたしますることでございまして、その点は、九月二十六日の委員会で決定になりました法律案を今の範囲において訂正していただく、かようになっております。
 (略)

○長谷川(峻)委員
 (略)
 今の三浦法制局次長の御説明によりますと、連呼行為の場合に、個人演説会、街頭演説会の告知をする午前八時から午後の八時まで、その場合、実際活動として、従来ならば何々党の公認候補何の何がしということを流したわけです。従来は連呼しないでとまってそれだけやっていたわけですが、そういうこともやれるかどうかということが一つ、(略)

○三浦法制局参事
 私から、わかっておる範囲においてお答えいたしまして、なお実際の取り扱いにつきましては、自治省の選挙当局から説明をしていただくといいかと思っております。
 第一の連呼行為の問題につきましては、ただ単に候補者の名前だけを呼ぶということは、今度の改正の趣旨からいいましてこれに違反する、こういうことになります。と申しますのは、どこまでも個人演説会及び街頭演説の告知のためにする場合に限られるわけでございますので、どこどこの場所で演説がある、そしてそれがいつ何時からある、そしてその演説会はだれの演説会である、少なくともこの三要件が具備されておる場合におきまして個人演説会の告知のためにする連呼行為、こういうように私は解しておるわけであります。
 (略)


【追記】
 やはり,わたしの確認不足があったようで。先に掲げた公選法改正の後に,更なる法改正があった模様(※ただし,まだ詳細は確認していませんので,あとで追々記するかもしれません。)。
 現時点においては保坂議員の理解が正しく,以前の定めであれば先輩の理解のうち「名前を続けて言ってはいけない」との部分には誤りはなかったということか。

 (略)
○政府委員(皆川迪夫君)
 (略)
 連呼及び街頭演説に関する事項でございますが、車上の連呼行為をすべての選挙を通じて同一条件で認めることといたしました。また街頭演説の時間と車上の連呼行為の時間を一致させることにいたしまして、街頭演説であるか、あるいは連呼であるかということの判断をめぐりまするトラブルがなくなるようにいたしております。
 (略)


【追々記】
 追記に掲げたことは,あくまで「選挙運動のための連呼行為の制限を緩和し、衆議院議員参議院議員及び都道府県知事の選挙以外の選挙についても、車上の連呼を認めることとしたほか、街頭演説のできる時間を車上の連呼の時間と同様、午前七時から午後八時までといたしました」ということである模様。いかなる連呼も認めるという趣旨ではないようです。

 取り急ぎ,そのことだけ指摘を。