「こども第一主義条例」(仮称)案へのコメント

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 先般,次のエントリーで,とある条例案が市長側から示された旨が掲げてあり,少しばかり興味を覚えたので,簡単にではありますが,当該条例案に対して個人的に気になる点をコメントしてみることに。ただし,あくまで単なる印象に過ぎないコメント又は細かいツッコミにとどまるものでしかなく,検討とまでは言い難いものですので,その旨はご了解ください。


【参考として】

(仮称)こども第一主義条例案

  • 条例の制定に関して
    • 市民らの権利・義務に影響しない条例であって,単に政策目的を表明すること,施策実施の根拠を定めることだけを目的としている条例は,それを制定した時には何らかの意味が認められうるとしても,時間が経ってしまうと意味をほとんど持たなくなるのではないか。
    • それゆえに,条例を制定するまでの必要性が乏しいのではないか,なぜ条例を制定しなければならないのかとの必然性がないのではないか,との疑問がある。
    • 実質的に条例として制定すべき内容を有するからこそ,形式的に条例制定手続を経ることが,本来的な条例制定の姿なのではないか。
      • 参考として,閣議決定http://www.ndl.go.jp/horei_jp/kakugi/txt/txt01435.htm )においては,次のようなことが掲げられている。
      • (一)法律の規定によることを要する事項をその内容に含まない法律案は、提出しないこと。
      • (二)現に法律の規定により法律事項とされているもののうち、国民の権利義務に直接的な関係がなく、その意味で本来の法律事項でないものについては、法律の規定によらないで規定しうるように措置すること。
    • ただし,私的な考えにすぎないが,次のように考えることもできるのではないか。すなわち、本条例の制定については,「こども第一主義」が,市政運営の中心的かつ重要な課題であること,だからこそ議会という公開の場で多様な議論が要請されること,そして,これらの結果として,条例で制定すべき内容となるとの位置づけが可能ではないか。
    • もっとも,やはり「実質的に条例として制定すべき内容」を含むよう努める必要があるのではないか。

前文
(条例制定の背景、趣旨)
 子どもは、浜松市の未来の宝であり、明日への活力の源です。
 子どもは、一人ひとりが様々な個性や能力、夢を持ったかけがのない存在で、家族や地域のぬくもり、自然の中でのびのびと遊び、学び育っていきます。
 豊かな自然と温暖な気候に恵まれ、また、子どもの誕生を祝う浜松まつりなど、脈々と受け継がれてきた様々な伝統、文化、歴史に、培われ、活気あふれる“やらまいか精神”に満ちあふれるこの浜松市で、いきいきとした笑顔が輝く子どもの健やかな育ちは、私たち浜松市民すべての願いです。
 しかし、結婚や出産に対する個人の意識の多様化や、未婚化、晩婚化の進展などにより急速に少子化が進行し、地域社会では人間関係や社会意識の希薄化が見受けられ、家庭においても養育力教育力の低下、児童虐待の問題が危惧されるなど、子どもをとりまく環境が大きく変化しています。また、少子化の進行は経済活動の停滞や地域社会の活力低下など、市民生活の全般に深刻な影響をもたらすことが懸念されています。
 このような状況に歯止めをかけ、誰もが安心して子どもを生み育てることができ、子どもの笑顔が輝く社会を実現するためには、それぞれの家庭はもちろん、学校、地域社会、事業主、市民及び市がそれぞれの役割と責任を果たし、お互いに連携することにより社会全体で出産や子育て、子どもの育ちをしっかりと支えて、子どもの生きる力を育んでいかなければなりません。
 子どもは、学びや遊び、異年齢の子ども同士や多様な文化・経験を持つ人々との交流、様々な社会活動への参加などを通して、豊かな心や創造性を育むことができます。大人は、愛情と理解、厳しさをもって子ども向き合うことにより、子どもの成長から明日への夢や希望を感じ、自らも成長します。
 この条例を制定するに当たっては、子どもから大人まで幅広く市民の声を伺いました。子どもからは、「将来は明るく楽しい家庭を築きたい」、「子どもには愛情も厳しさも必要」、「優しさと活力に満ちた、元気な浜松になるといい」など、大人からは「子育てや子育て支援には、親の視点だけでなく、子どもの視点を大切にしなければならない」、「家庭を始め、子育てにかかわる様々な人が、お互いの気持ちや役割を理解しあうことが大切」、「家庭だけでなく、地域社会全体で子どもたちを育んでいくことが必要ではないか」など、自分自身や浜松の将来に向けた多くの声が寄せられました。
 この条例を生かすのは、子どもから大人まで一人ひとりの市民であり、子どもが健やかに育っていくよう、家庭、学校、地域社会、事業主、市民及び市がそれぞれの役割を担い、社会全体で取り組んでいくことが必要です。
 ここに、子どもは浜松市の未来への宝であり、地域のあらゆる力を結集し、子どもを育て、守っていく「こども第一主義」の意識の下、子どもの笑顔がいきいきと輝き、子育てがしやすく楽しいと感じられる社会の現実を目指して、この条例を制定します。

  • 前文に関して
    • この前文に重きを置き過ぎているがために,条例ではなく単なる宣言文と変わりないように感じられなくもない。つまり,この前文に記載されている内容を広く市内外に知らしめたいがために,条例を制定しようとしているのではないか,という主客逆転があるとの印象を受ける。

第1条 目的
(条例制定の目的)
 この条例は、未来を担う子どもの健全な育成について、その基本理念を定め、家庭、学校、地域社会、事業主、市民及び市の役割を明らかにするとともに、市の基本的施策を定めることにより、子どもの笑顔がいきいきと輝き、子育てがしやすく楽しいと感じられる社会を実現することを目的とします。

  • この目的は,「楽しいと感じられる」といった個別的で主観的な評価によるものとされている。このような目的では,いったいどのような状態となれば,その目的を達成すると考えられるのかが明らかではないのではないか。
  • それゆえ,本条例に基づく計画・施策に関する目標達成等評価手続を定める必要があるのではないか。
    • 14条で「計画の策定」について定めるだけで,「計画・施策の実施状況にかかる評価を行うこと」について,何も規定していない。しかし,そうした評価を行うための手続規定等を設けることこそが必要とされるのではないか(15条関連)。
      • このような本条例に基づく計画・施策に関する目標達成等評価手続の規定などは,「実質的に条例として制定すべき内容」といいうるはずである。

第2条
 (子どもの定義)
 この条例において「子ども」とは18歳未満のすべての者をいいます。

  • ほかにも定義を設けるべきものがあるのではないか(以下,個別の条項において具体的に指摘する。)。

第3条 基本理念
(未来を担う子どもを健全に育成するにあたって)
 未来を担う健全な育成は、次に掲げる事項を基本理念として行うものとします。
(1) 未来を担う子どもの健やかな成長を支えるに当たっては、すべての子どもが社会の一員としての尊厳を有し、かけがえのない存在として尊重され、子どもにとって最善の利益が考慮されることを十分認識し、行動すること。
(2)子どもは次代の社会を担う主体であり、未来を築くいきいきとした子どもに育成を図ることが重要であるという認識の下に、家庭、学校、地域、事業主、市民及び市がそれぞれの役割と責任を果たすため、子どもが育つ喜びを分かち合い、相互に連携を図りながら協力して取り組むこと。
(3) 一人ひとりの子どもが夢と希望をもち、将来の自分や社会のために様々な経験や学習を通じて大きく成長していく中で、自らの大切を認識し、自らが生きる力を身につけ、他者への思いやりの心や浜松市を愛する心が育まれること。
(4) 自立した市民を育成するために、一人ひとりの子どもの力を引き出し、いきいきとした子どもの育ちを育む環境を整え、子どもの可能性や個性を十分に伸ばすこと。
(5) 子どもを暖かく見守り、向き合うとともに、日頃の言動において自らが範を示すことにより、子どもと大人の信頼関係を築くこと。
(6) 子どもが安全で安心して育つことができる社会環境づくりに、社会全体で取り組むよう努めること。
(7) 結婚、出産、子育て及び家庭に関する個人の価値観や多様な意識に配慮すること。

  • それぞれについて,一体,何ものが主語/主体なのか,判然としていないのではないか。

第4条 未来を担う子どもの育ち
 (浜松市の未来の宝であり、明日への活力の源であるこどものそだち)
 1 一人ひとりの子どもは、夢と希望を持って学び、豊かな心と健やかな体に成長することにより生きる力を身につけ、自立した市民に育つことを目指します
 2 一人ひとりの子どもは、自他の命を大切にし、他者への思いやりの心を持った市民に育つことを目指します。
 3 一人ひとりの子どもは、家庭や地域社会の一員として、自らの力で未来を切り開いていく市民に育つことを目指します。

  • 「一人ひとりの子どもは,〜目指します」といった定め方が,いわゆる規範であるところの条例において果たして可能か。
  • 第1条においては,「基本理念を定め」(第3条),「家庭、学校、地域社会、事業主、市民及び市の役割を明らかにする」(第5条から第10条まで)とあるが,子どもに関して特に掲げるところはない。これはいかなる理由からか。
  • 「地域社会」とは,いかなる意義を有するものか。

第5条 家庭の役割
 (子育てに対して第一義的責任を有する家庭の役割)
 1 父母その他の保護者は、家庭が子どもの生きる力や豊かな人間性を育む基盤であり、自ら子育てに対して第一義的責任を有し重要な役割を担っているという認識の下、深い愛情を持って子どもが健やかに育つよう努めるとともに、お互いを尊重し、理解するよう努めるものとします。
2 父母その他の保護者は、家庭において子どもに基本的な生活習慣や社会規範を身につけさせるとともに、子どもとの日常的なふれあいを通して、子どもの心身のよりどころとしての家庭環境づくりに努めるものとします。
 3 父母その他の保護者は、家庭において子どもの育成に最善を尽くすとともに、集団生活が子どもの豊かな人間性や社会性を育むことを認識し、地域社会や学校と子どもの育ち及び子育ての関して適切な連携を図るよう努めるものとします。

  • 「その他の保護者」とは,いかなる者を意味するのか。

第6条 学校の役割
 (学校生活、教育活動などを通した学校等の役割)
 1 学校等は、子どもが将来への夢と希望を育むことができるよう、特色ある学校づくりに努めるものとします。
 2 学校等は、すべての教育活動を通して、子どもが豊かな心と健やかな体、生涯にわたって学び続ける基礎・基本の力を身につけられるよう努めるものとします。
 3 学校等は、子どもの健やかな成長のために、家庭や地域との連携を積極的に図るように努めるものとします。

  • 「学校等」とは,いかなることを意味するのか。
    • 学校基本法(昭和22年法律26号)においては,学校とは「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校」(同法1条)とされている。
    • 学校基本法21条,23条,51条等との関係は,いかに考えるのか。

第7条 地域社会の役割
 (子どもの豊かな人間性や社会性育む地域社会の役割)
 1 地域社会は、子どもの豊かな人間性や社会性を育む大切な場であり、子どもが様々な体験や経験を重ねることで成長し、社会の一員としての役割を自覚する貴重な場であるという認識の下、家庭や学校との連携し、地域の中で子どもが健やかに育つ環境づくりに努めるものとします。
 2 地域社会は、様々な活動を通じて日常的に子どもとのふれあいを深めるとともに、子どもの気配りや目配り、声かけを通して、子どもが地域社会で安全で安心して生活できるよう努めるものとします。

  • 「地域社会」とは何か。これを主語とし努力義務の主体とすることができるのか。

第8条 事業主の役割
 (仕事の生活の調和推進に向けた事業主の役割)
 事業主は、家庭や地域社会の役割を十分に認識し、雇用する労働者の仕事と生活の調和の推進が図られるよう必要な雇用環境の整備や、職場における労働者の相互理解が促進されるよう努めるものとします。

  • 「事業主」とは,いかなる者を意味するのか。
  • この規定が果たして「子どもの健全な育成」といかなる関連性を有するのか,必ずしも明らかではない。

第9条 市民の役割
 (社会全体で子どもを育むための市民の役割)
1 市民は、基本理念に対する理解を深め、子どもは様々な人とのかかわりの中で豊かな人間性や社会性が育まれるという認識の下、未来を担う子どもの育成に関心を持ち、子どもに関わるすべてのものが相互に協力して取り組むよう努めるものとします。
2 市民は、市が実地する子どもの育ち及び子育て支援に関する施策に協力するよう努めるものとします。

  • 「市民」とは,いかなる者を意味するのか。子どももまた市民に含まれるはずであるが,市民に子どもを含まないかのような印象を受ける。

 第10条 市の役割
 (子どもを育むための総合的な施策を推進するための市の役割)
1 市は、基本理念やそれぞれの役割、目指すところなど、条例の普及啓発に努めるものとします。
2 市は、未来を担う子どもの健全な育成について、家庭、学校、地域社会、事業主、及び市民が相互に連携並びに協力が図れるよう調整を行うとともに、社会全体で、子どもを育むための相互的な施策を推進するに当たっては、市民の理解や協力が得られるよう努めるものとします。

  • 13条との関連が明らかではないと考えられる。
  • 「条例の普及啓発に努める」とあるが,普及啓発すべきは「条例」であるのか。

第11条 市民運動
 (子どもを育み、子育てを支える気運の醸成)
1 家庭、学校、地域社会、事業主、市民及び市は、社会全体が連携・協働することで未来を担う子どもを育成し、子育てを支える気運の醸成を図るための活動(以下「市民運動」という。)を行うよう努めるものとします

  • そもそも,この規定が何を定めているのかが,また,その具体的内容などが,必ずしも明らかではないと考える。

第12条 家族ふれあいの日 (検討中)
 (家族の大切さを考え、家族のふれあいを深める日)
 1 家族の大切さを考え、家族のふれあいを深める日として、毎月第3日曜日(仮)を浜松市家族ふれあいの日(以下「家族ふれあいの日」という)とします。
 2 市民は、家族ふれあいの日に家族の大切さを考え、互いを思いやり、ふれあうことにより、家族の絆を深めるよう自発的かつ主体的に取り組むよう努めるものとします。

  • 本条例は,「子どもの健全な育成」に関する条例なのではないか。それが,なぜ「家族の大切さ」・「家族のふれあい」に関する日を設けることにつながるのか。

第13条 基本的施策 
 (未来を担う子どもの健全な育成に資ずる基本的施策)
 市は、未来を担う子どもの健全な育成の推進に資するため、次に掲げる施策その他必要な施策を講ずるものとします。
(1) 地域社会における子育て支援
(2) 子育て中の親子・思春期の子どもの健康の確保及び増進
(3) 心身の健やかな成長を願う教育環境の整備
(4) 子育て支援をする生活環境の整備
(5) 職業生活と家庭生活の調和の推進
(6) 子ども等の安全の確保
(7) 保護を必要とする児童へのきめ細やかな対応

  • それぞれ具体的内容が,必ずしも明らかではないのではないか。

第14条 計画の策定
 (未来を担う子どもの健全な育成に資する施策その他必要な施策を総合的かつ計画的に推進するための計画を策定)
 1 市長は、前条に定める未来を担う子どもの健全な育成に関する施策その他必要な施策を総合的かつ計画的に推進するための計画を策定します。
 2 市長は、計画を策定し、又は変更しようとするときは、広く市民の意見を聴くとともに、当該意見反映させるよう努めるものとします。
 3 市長は、第1項の計画を策定したときは、速やかに、これを公表するものとします。 
 4 第2項の規定は、計画を変更する場合において、準用します。

  • 計画の策定・変更だけではなく,その計画・施策の実施状況についても,広く市民の意見を聴くよう努める旨の定めを設けてはどうか。

第15条 庁内体制
 (施策を総合的に推進するための庁内体制の整備)
市長は、未来を担う子どもの健全な育成に関する施策について総合的に推進するための庁内体制を整備するものとします。

  • 財政上の措置を講ずる必要もあるのではないか。

附則
1 この条例は平成22年4月1日から施行します。
2 この条例の施行の際、現に次世代育成支援対策推進法(平成十五年法律第百二十号)第8条第1項目の規定により策定されている計画は、第14条第1項目の規定により策定された計画とみなします。