平成17年12月19日/提出意見について

 次のとおり、意見を提出しました。なお、12月16日付で公開した提出意見案に、いくつかの追加をしています。

  • 前提として/県民意見提出制度の目的をどう考えるのか

 いわゆるパブリックコメント制度(意見提出制度、意見公募制度)の目的に関して、改正後行政手続法では、「行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資すること」と掲げられています。
 この目的を、より詳細に、かつ、具体的に考えてみることとした場合、パブリックコメント手続によって行政上の意思決定過程へと住民らが参加することの目的とは、大きくいって次に掲げる3点にあると考えられるのではないでしょうか。

  1. 利害関係人が権利義務を防御等する機会を確保すること/①利害防御目的
  2. 住民一般による行政の民主的コントロールを確保すること/②住民参画目的
  3. 行政機関が有していない生活情報・専門知識・多面的意見等を収集すること/③情報収集目的

 それぞれの場合について、行政−住民間の関係は、次のようなものとなると思われます。すなわち、「①利害防御目的」の場合とは、住民のうち、ある程度特定の範囲内の個々人が、具体的な権利の主体として行政が策定する命令等に相対するという関係であり、また、「②住民参画目的」の場合とは、住民が住民としての立場から、行政主体の意思形成に対し、その意思を反映させるという関係です。そして、「③情報収集目的」の場合とは、行政機関自体が、専門的知識を踏まえた意見・情報を(ある意味、一方的に)住民から募るという関係にあるといえるでしょう。
 「パブリックコメント制度(意見公募制度、意見提出制度)」のあり方を考えるにあたっては、まずは、これら3つの目的のうち、いずれを重視して制度目的とするのかを検討する必要があるのではないかと考えます。もちろん、三者のうち1つだけを選択しなければならないということではありません。これら三者は相互矛盾するものではなく、相互に補足しあい、共立することも当然ながら考えられるからです。
 また、意見の提出を求める案件の具体的内容も、「利害関係人の利益保護を重視しなければならないが、住民一般にはあまり関係ないという案件」もあるでしょうし、また、「住民一般すべてが利害関係人となりうる内容であって、多面的意見等を収集する必要性も高いという案件」もあると思われます。そのほか実に様々な組み合わせがありうるのであって、それらの組み合わせとともに、その重視する程度も濃淡がありうると考えられます。
 なお、そもそも改正後の行政手続法が「意見公募手続」の目的をどう想定しているかについては、次のように考えられます。すなわち、あくまで「意見公募手続」であって、「意見提出手続」や「国民参画手続」ではないということから鑑みると、基本的には「③情報収集目的」としているのではないでしょうか。換言すると、行政処分の名宛人となりうる利害関係人からの意見提出に関しては、不利益処分をしようとする場合において、聴聞又は弁明の機会の付与という意見陳述のための手続を執らなければならないと定めることで足りると考えているのでしょうし、また、国民一般に対して、意見提出権といった権限を保障しているとまではいえないとしているものと思われます
 しかし、こうした考えをそのまま地方自治体におけるパブリックコメント手続の目的に導入すればよいのかといえば、そうではないのではないといえるはずです。「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて(日本国憲法92条)」行うとされているのであって、地方自治体がパブリックコメント手続を制度化する場合においては、やはり、住民自治のよりよい実現が目指されるべきではないかと思われます。したがって、「②住民参画目的」をより重視したパブリックコメント手続の制度化が図られるべきではないかと考えます。
 ただし、行政事件訴訟法の改正を受けて、原告適格の判断に関する9条2項の規定が設けられたことや、いわゆる「差止訴訟」が認められたこと等を鑑みると、単に不利益処分の際に当該不利益処分の名宛人に意見陳述の機会を与えるだけではなく、その規律制定の際においても意見陳述の機会を与えておくべきとの考えもありえます。したがって、「法令制定前(又は事業計画決定前)において、多面的な観点から当該法令案(又は事業計画案)を検討するという『パブリックコメント手続』によって、その法令(又は事業計画)の趣旨及び目的等を、可能な限り客観的に明らかにしておくこと」が重要視されるべきとして、できる限り「①利害防御目的」をも重視したパブリックコメント手続の制度化・運用がなされて然るべきだとも考えるところです。

 参考までに、次のようなアンケートを実施してみましたが、この結果は、三者がそれぞれ目的として求められていることを示していると考えられるところです。

【1,000人アンケート】都道府県や市町村といった地方自治体において、いわゆるパブリックコメント手続が実施される目的として、次のどれが最も相応しいといえますか。1.【利害防御目的】/行政機関の意思決定に直接利害関係をもつものが、不当な決定がされないよう意見を提出するため2.【住民参画目的】/地域住民が、行政機関の意思決定過程に参画するため3.【情報収集目的】/行政機関が、住民や有識者・専門家から意見や情報を収集するため4.【その他】/(いわしに書き込んでいただければアリガタイです。)

1.利害防御目的 276
2.住民参画目的 409
3.情報収集目的 230
4.その他 85

  • 検討案/続いて、群馬県側から参考として示されたポイント指摘に従って、検討することとします。

(意見募集の対象について)
1 県民意見提出制度運営要綱(平成12年12月12日制定)の第1条で、重要な政策の立案の際(※1)には、この手続きを経て実施するよう努めるとしていますが、これら以外にも県民意見提出制度を経て行うべきものはありますか?

                                                          • -

(※1)
第2 県が行う政策のうち次に掲げるものは、本制度に基づく手続(以下「本手続」という。)を経て実施するものとする。
 (1) 規制の設定又は改廃に係る条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)及び規則の制定又は改廃で、広く一般県民に適用されるもの
 (2) 県の行政計画のうち、各局等の業務に関する基本的な計画及びその上位計画の制定又は改正に係るもの
2 前項の各号に掲げるもののほか、県が行う重要な政策の立案に当たっては、本手続を経て実施するよう努めるものとする。

 要綱第2(1)及び(2)に掲げられた場合以外にも、県民意見提出制度を経て行うべきものがあると考えます。具体的には次のとおりです。

    1. 【利害防御目的】規制の設定又は改廃に係る条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)及び規則の制定又は改廃であって、広く一般県民には適用されない場合ではあるが、特定の利害関係者が存在するときには、当該利害関係者を対象(の中心的存在)として、意見提出制度を経たうえで当該条例等を制定すべきと考えます。
    2. 【情報収集目的】また、県の行政計画のうち、各局等の業務に関する基本的な計画及びその上位計画の制定又は改正に係るものではなく、個別計画・下位契約である場合としても、必ずしも行政が専門的知識や具体的知見等を有していないときは、各分野における専門家や具体的経験等をもつ有識者を対象の中心的存在として、意見提出制度を経て行うべきと考えます。

 そして、これらの目的をもって実施する場合は、たとえば、「利害防御目的」型手続とする場合には、特に対象者となる方々への周知徹底がはかられるべきでしょう。公聴会を開く、または、具体的な対象者を予め把握しているときには、個別に通知を出すなどの対応が必要となるかもしれません。
 また、「情報収集目的」型手続とする場合には、何も対象者が、県民等に限られるべきではないということも考えられるところです。

(意見を募集する案について)
2 県民意見提出制度では、一般の人にわかりやすくするために、意見を募集する対象として公表する「案」に加え、案を作成した趣旨や関連資料を可能な限り公表することとしていますが、どのようなものを、どんな方法で公表すればわかりやすいですか?

 最低限必要な事項だけをあらかじめ定めておき、それ以外(または、それ以上)は、案件によって個別具体的に検討すべきことだと考えます。
 なお、その最低限必要な事項に関しても、どのような段階で県民意見提出制度に付するかによって全く異なってきますし、何を目的とするのかによっても幅広く考える必要があるといえますが、基本的には、行政機関において参考にした資料を全て掲載することは、原則にすべきだと考えます。

(県民意見提出制度の実施予定の公表について)
3 県民意見提出制度の実施予定の公表を行う場合、どんな方法で、どのくらい前(の時期)に行われるべきと考えますか?

 原則として、年度の初めにおいて、当該年度内に実施予定のものを一覧化したうえで公表すべきであり、例外として、年度当初に実施するものについては、前年度当初に次年度実施予定として掲載すべきではないかと考えます。
 なお、これら実施予定一覧に関しては、「(新年度はじめの)県民への公表前に(、旧年度末の)県議会へとあらかじめ報告しなければならない」といった条例としての規定を設けることも提案します。
 これは、パブリックコメント制度のあり方を考えるにあたっては、3つ考えられる目的のうち、いずれを重視して制度目的とするのかを検討する必要があると個人的には考えていることから、個別案件に応じて、それらの目的を柔軟に組み合わせて、運用していくことが求められるのではないかということに基づきます。
 全ての案件を画一的に取扱うことは、確かに事務運営上は簡易であるかもしれませんが、いつしか、そもそもの目的を忘れ、単に定型的に処理すればよいとの意識を生み出しかねないおそれもありえます。常に何を目的としているのかを確認し、その目的達成のために、より適切な手法を選択すべきであるはずでしょう。
 しかし、あまりに柔軟な取扱いを許してしまうと、今度は、最低限の基準で運用しかねないという弊害も生じるのではないかとの心配もありえるところです。こうした声に対しては、次のような方策を提案したいと思います。すなわち、パブリックコメント制度に対して、議会を関与させるという方策です。具体的には、「①新年度始めの議会において、旧年度のパブリックコメント運用状況」、そして、「②年度末の議会において、新年度に実施を予定しているパブリックコメント案件」のそれぞれに関する議会報告を、行政(執行部)に義務付けることが、その内容となります。
 このような議会報告の義務付けは、行政の恣意的なパブリックコメント制度の運用を防止するとともに、「住民の代表によって構成される間接民主主義的な議会の役割」と「住民の生の声を反映しようとする直接民主主義的な住民参加」を両立させることへの一案でもあるわけです。

(意見を募集する期間及び意見の提出方法について)
4 県民意見提出制度では、意見を募集する期間は1か月を一つの目安として定めるとともに、意見の提出方法として郵便、ファクシミリ、電子メール等を用いることとしていますが、どの程度の期間で、どんな提出方法によるとすれば意見が提出しやすいですか?

 基本的には、この案に意見するところはありません。ただし、将来的には、たとえば、意見提出者が継続的に運営しているblogに掲載したエントリー(意見内容を記したもの)を、trackbackによってリンクを形成するなどの方法も検討されてみてはどうかと考えます。
【参考として】はてな住所登録パブリックコメントとは - はてなキーワード

(内容のわかりやすさ)
5 意見を出しやすくする為に、世論調査のようにYESかNOの選択や5者択一的な設問を取り入れたらとのよいのではないかという考えがありますが、どのような政策の立案時に採用することができると考えますか?  理由も併せてご回答ください。
 (1)行政計画(理由:                           )
 (2)条例・規則等(理由:                         )
 (3)大規模な公共事業の実施(理由:                    )
 (4)公の施設の設置(理由:                        )
 (5)その他(具体的に:         理由:              )

 (1)から(4)までに掲げる政策類型のいずれかに、2者択一又は5者択一的な設問が取り入れられると考えるのではなく、どの政策類型においても、個別具体的なケースによって、そうした択一的設問が取り入れられる場合と取り入れられない場合があると考えます。
 では、どのようなケースに択一的設問が取り入れられるかというと、これは、一旦、県民意見提出制度に諮ったところ、数多くの意見が提出され、結果として、2つから5つの案に集約された場合において、それらの集約された案をもって、改めて、県民意見提出制度に諮るときなどが考えられます。

(意見の閲覧)
6 ホームページの掲示板のように、その時点で提出されている意見を見ることができれば、それを参考に意見が出しやすくなるのではないかという考えがある一方で、行政機関が掲示板等の管理をする場合に、書き込みを削除することは問題があるのではないかという考えがありますが、適当な実施方法はありますか?

 たとえば、意見提出者が継続的に運営しているblogに掲載したエントリー(意見内容を記したもの)を、trackbackによってリンクを形成するなどの方法も検討されてみてはどうかと考えます。この方法であれば、たとえば、内容的に適切ではない意見内容の投稿があった場合においても、当該意見内容そのものを削除するのではなく、その意見内容を記したWebページへのリンクを削除するという対応を行うことになると考えられます。

(意見等を提出できる者の範囲)
7 意見等を提出できる者の範囲(※2)については、今までどおり県民等に限定すべきと考えますか?
(※2)県民意見提出手続実施マニュアルで、「原則として、県内に在住、在勤又は在学するものとする。」とされています。

 意見を求める政策の内容にもよりますが、利害関係者が必ずしも県内に在住・在勤・在学するものに限られないことや、情報収集という観点などから、原則として、県民等に限定すべきではないと考えます。
 この考えの背景は、(意見募集の対象について)の項目において、説明したものに共通するところとなります。

(審議会手続との関係)
8 重要な政策等の立案について審議会等への諮問が、個別法令や条例等で義務づけられている場合、又は、任意的に行われる場合、審議会手続と県民意見提出制度手続との関係は、どうあるべきですか?

 審議会手続は、原則として、県民意見提出制度手続に準じた手続で行われるべきであると考えます。

(結果の公表について1)
9 県民意見提出制度では、案を公表した実施機関は、提出された意見を考慮して意思決定を行うとともに、意見に対する実施機関の考え方を取りまとめ、提出された意見を併せて公表することとしており、現在、県のホームページを中心に公表していますが、どのような方法で公表がなされるべきと考えますか?
(結果の公表について2)
10 県民意見提出制度実施後の結果の公表について、いつの時点に行うことが適当と考えますか?  また、実際に立案された重要な政策について、いつの時点、どのような方法で公表すべきであると考えますか?
(県民意見の反映状況の公表について)
11 県民意見の反映状況の公表については、いつの時点、どのような方法で行うべきと考えますか?

 結果及び意見の反映状況の公表に関しては、基本的に県のホームページを中心に公表していただければ、それで構わないのではないかと考えます。ただし、その公表については、できる限り期間を区切らず、永続的にWeb上に掲載していただきたいことだけ希望します。
 なお、これら結果及び意見の反映状況の公表に関しては、「(新年度はじめの)県民への公表前に(、旧年度末の)県議会へとあらかじめ報告しなければならない」といった条例としての規定を設けることも提案します。
 この考えの背景は、(県民意見提出制度の実施予定の公表について)の項目において、説明したものに共通するところとなります。

(県民意見提出制度の実施の申し出について)
12 県民意見提出制度を経ないで立案する条例、規則等について、事前に公表する仕組みを作るべきだと思いますか?  その場合に、手続きを経ないで立案しようとしているものに対して県民が県民意見提出制度の実施を申し出る仕組みについて、制度化するべきだと思いますか?

 基本的には、県民意見提出制度を経ないで立案する条例、規則等についても、(県民意見提出制度の実施予定の公表について)の項目において記したように、その一覧表を「(新年度はじめの)県民への公表前に(、旧年度末の)県議会へとあらかじめ報告しなければならない」といった条例としての規定を設けたうえで、この議会報告を受けて、案件によっては議会(議員)が、県民意見提出制度の実施を勧告するなどといった仕組みの制度化も一案となりうるのではないかと提案いたします。