鳥取県 片山義博知事 「地方が抱える課題とその解決策」

 『採点!47都道府県政 (平凡社新書)』において、全国1位の評価。そして、最新の調査で県民からの支持率が全国第2位であった片山知事。「地域から実践する地方自治」ということでのお話でした。

■参考 http://www.kabashima.com/pr/saiten.html
 http://news.goo.ne.jp/news/asahi/seiji/20040704/K0004202518051.html


 地方自治に関して、従来のあり方ではダメ!という考えをもっている。つまり、国中心、中央集権であったため、知恵もお金もただただ待つ姿勢であるにすぎなかった。やはり、自立して、場合によっては国を動かすというあり方とならなければならない、とのこと。

  • 財政の自立に向けて…現在、鳥取県は6,000億円の借金がある。今年度は670億円を返済するのであるが、税収は500億円とたいへんキビシイ。 こうした状況は、全国ほとんど例外ないところとなっているが、財務省は「地方に自浄能力がなかったから」、総務省は「(市町村の)規模が小さいから」とその要因を説明している。 しかし、その説明は正しいとは思えない。ウソです。 なぜなら、そもそもバブル後における景気対策のために財政出動を政府が行うにあたって、地方をまきこんで、「後々交付税措置するから借金しなさいよ」としたこと、つまりは、国がモラルハザードをおこすようなシステムをつくったことが原因といえるからである。 「後々面倒をみる」と言いながら、交付税として交付される金額は、今年は去年と比べて200億も減らされた。 このままでは「財務省総務省地方自治体の『三位一体』の財政破綻」となってしまう。 にもかかわらず、国は市町村合併の推進に伴い、また「合併特例債」とアメを用意して「いつか来た道」同じことの繰り返しをしているのである。 なお、鳥取県では、財政再建のため、職員給与の5%カットや、長野県よりも先にダム計画の中止を行っている。特にダム計画中止については、キチンとした情報公開を行い、科学的知見に基づきデータを示して議論した結果(ダムには240億円、代替案の河川改修には40億円と、その費用負担額に大きな差異があったため)、県議会も全員一致で賛成してもらった。
  • 行政組織及び運営のノーマライゼイション…日本の自治体は、基本的なところでズレているというしかないトコロがある。これを正常化するには、透明化・情報公開が最もよい方法である。 それも、根回しによって事実上決定してから、その結果を情報公開しても何の意味もない。政策形成プロセスまで透明化することこそ肝要である。 例えば、予算編成過程に関しては、まずペーパーレスに取り組んだのであるが、それによって容易に情報共有が可能になったとともに、情報公開も何の手間暇かけることなく行うことができた。 そして、そこまで公開されれば、当然、外から人も入ってきていいということになり、実際にマスコミも入ってくるなど、予算編成過程が従来とガラッと様変わりしたといえる。 また、組織のあり方にしても、今までは中央省庁対応型として補助金の種類に合わせて、土木部にも農林部にも道路関係課が存在していたのであるが、それを現場対応型として、道路は道路としてひとまとめにしている(国からの反対もあったが。)。 さらに、年功序列を改める−これは、年功序列とは基本的に内部の融和・調和が保たれるための慣行であるのだが、県庁という組織は仲良しクラブではない、住民のための組織であるとの認識から、適材適所を心がけている。 さらに、男女共同参画の観点からも、組織のあり方を見直している。一例として、予算編成を担当する財政課は男性ばかりの職場であったが、男性のほうが仕事ができるからといった差は全くなく、女性であっても当然にこなせる仕事であることは間違いない。 男性ばかりとなる理由に、深夜残業が続くようなハードワークの職場だからという意見もあったが、それは、そのような状態にかる職場環境が悪いだけの話である。 男性だったら、家庭も顧みず、長時間残業ばかりしていていいのか? 職場環境を可能な限り改善することによって、現在では財政課20名中7名が女性であるとのこと。
  • 議会と協同する地域経営…この「議会と協同する地域経営」という取組みは、非常に重要。 議会の質が向上しないと、ホントウの意味では地域自治にはならない。 現在でも多くが「根回し待ち」していないか? この「根回し待ち」が、すなわち「交換条件やバーゲニング」のネゴシエーションの場となってしまっているのである。 片山知事は、その就任当初に「根回しはしません。異論反論は議場でお願いします。」と宣言したとのこと。「知事提案議案が通らないかもしれませんよ。」という声もあったが、それこそ望むところとしており、実際、議会による修正や否決もあった。 だが、その修正・否決は、健全な議会のチェック機能の発揮と考えられるし、1回の議会において20人から25人が質問に登壇するなど活性化につながっている。 やはり、議員からの質問等は、地元の声を直接すくい上げてきていることがほとんどであって、たいへん説得力があるケースが多い。 議会の質をあげるには、ひとりひとりの市民が良識をもって選挙すればいいのである。 
  • 鳥取県日野郡民行政参画推進会議」…なお、議会の構成について自営業や農業従事者の割合が高く、一般サラリーマンや主婦層の意見が反映できないという偏りがあるのではないかという見方もある。 このことについては、ひとつの試みとして、「鳥取県日野郡民行政参画推進会議」の設置を行った。 日野郡は、今後、過疎化に伴って問題が増えていくにもかかわらず、地元出身の県議会議員の数が少なくなる/議員がいなくなるという事態に陥る。 このことに対応するのが郡民会議であって、委員の選出は、推薦を受けた人びとのなかからの抽選によることにしている。 抽選方式によると、従来の選挙による議員選出方法よりも簡便であるし、なにより、老若男女、職業もバラエティ豊かな委員が集まることになった。 会議はすごく活き活きした議論が行われ、議論の内容も、子育て・教育・IT・環境といった実際の生活に根付いたものとなっている。 こうした新しい会議の場というものは、今後の地域自治のあり方のひとつのヒントになるのではないだろうか。 
  • 教育と人づくり−現場からの改革…これまで教育は中央集権で、文部省から都道府県、市町村に、そして実際の現場という上下関係ができており、現場が末端となっていた。しかし、そもそも問題が存在するのも、その問題を解決するのも、現場なのであって、現場からの改革を行わなければ、何も発見できないし、何も進まないのである。 ひとつのアイデアとしては、図書館の機能に着目しており、知の拠点としての機能を確立していきたいと考えている。


■【情トラ】まとめ
 今日の講義のなかで特に興味をもったのは、鳥取県日野郡民行政参画推進会議のこと。まるで、くじ引きにより各種の政務ポストへの就任を決めた、古代ギリシアはアテナの民主政やないか!っていう印象をもった次第です。
 私見ですが、今日の地方議会は、個別の地元利益や支持を受ける職業団体等の利益を代表する一面を持っており、この役割から導かれるものとして、議員は個別利益を代理さえすれば当選できると言えなくはない現状があるのではないでしょうか。 もちろん既得権益に縛られず国や地域全体の利益を考える議員も多数いるが、そういった議員であっても、住民の声を集約するリソースは、個人後援会や地縁、血縁、職域団体に頼ることがほとんどだと考えられます。 つまりは、多様な利益追求に対し、議会がリソース不足と言わざるを得ないわけです。 その対策として、住民参加が期待されるところとなったのだと思います。
 そこに選挙ではなく、抽選によって委員を選出する方式の導入。 抽選だと誰に当たるかわからないわけですから、誰もが心構えをし、それ相応に政治を知っている必要があります。 ただ日野郡会議の場合は推薦が前提とのことですから、たとえば2009年度から導入される裁判員制度とは異なりますけど、この裁判員制度と同様に、これまでのお上に頼るという統治客体意識から、自らが重い責任を負うという統治主体意識への転換が図られることになる期待があります。
 ちょっとこの日野郡会議には注目して、いろいろと考えてみたいと思った【情トラ】なのでした。