長崎県 金子原二郎知事 「歴史・文化遺産を活用した地域活性化」

 今年度はじめての全国知事リレー講座。暇さえあれば聴きに行きたいとは思ってはいるのですが、なかなか難しくて。
 そんななか、時間をつくって参加した本日は、長崎県の金子知事が講師です。なんでも、つい先日、中国に訪問されていたとのことで、中国と長崎県との関係から、離島が数多くあることもあって積極的に推進された市町村合併のこと、そして、それぞれの地域に残された、特色ある歴史・文化遺産を活用した行政施策などについて、お話を伺いました。


(以下、あくまで【情トラ】管理人の個人的なメモです。必ずしも全てが講義に即したモノとは限りません。また、事実誤認等があればゴメンナサイ)

 長崎市には中国の総領事館があり、今年で20周年を迎えている。この総領事館は、日本全国で4ヶ所しかないうちのひとつである。そもそもの縁は、日中間で国交が回復する前に全国の自治体に先駆けて長崎県が国交回復の決議を行っていたことや、国交回復後まもなく北京訪問をしていたことなどによるものである。
 金子知事は、15年間の国会議員時代には、2回しか訪中したことがなかったが、知事になってからは8年間で11回も行っており、地方自治体の首長としては突出した数になっている。しかし、長崎から上海までの空路は、長崎から大阪までの空路と同じ1時間10分の旅であるし、沿岸部に1億人といわれる中国の富裕層を相手に観光をアピールすることも考えると、その数も当然のことともいえるだろう。

 今まで、国は小規模市町村ほど手厚い保護をしており、それゆえに過大な行政経費がかかる結果をもたらしていた。市町村合併消極派からは、よく「?行政によるきめ細かいサービスができなくなる」とか、「?庁舎が遠くなり不便だ」、「?負債があわさることになるだけ」とかいった批判があるが、そうとは言い切れない。
 まず、「?行政によるサービスが行き届きすぎる弊害もあるのであって、行政職員に何でも頼ってしまう風潮がある」との懸念がある。ある島においては、現在、嘱託の市職員が1名しか駐在していないが、それゆえに地域のコミュニティがしっかりしており、地域の体育祭にしろ行政職員に「アレしろコレしろ」と言うのではなく、自分たちで作り上げるという雰囲気がある。
 また、「?昔と違って交通手段がないわけではない」と考えている。そもそも、安売りスーパーが郊外にできたら、そこまで人びとは通うではないかとして、それが行政になればできないのはいかがなものかともいえるのではないか。
 そして、「?少なくとも合併することにより、多くの議員数及び三役の削減ができる」ではないかと考えている。さらには職員数の削減も視野にいれ、そうしたことにより優秀なスタッフが育っていくことにもつながるはずである。さらに、国の法律の中で認められたものは最大限に活用しなければならない。たとえば合併特例債に対しては批判も多いようであるが、長崎市の事例でいうと、市立病院の立替は合併があろうがなかろうが避けられない財政負担であったが、合併特例債の存在により、自らの負担が100%から3割負担へと削減された。
 こうした市町村合併のような問題に関しては、取り組むか取り組まないかの違いであって、首長がリーダシップをもって対応すれば、自ずから成果は出てくるものである。
 なお、長崎県においては、79市町村が23市町に減少したことによって、県の役割を再考する必要がでている。これに対しては、どうしても47都道府県のうち、自前の財源でやっていけるところは12、13都府県ぐらいではないかと考えられるし、それ以外は国から支えてもらわないといけないことになろう。そのためには道州制を視野に入れる必要がある。
 現在、九州各県では、具体的に、研究機関の共有化や観光PRの一体化、産業廃棄物に関する税条例の共通化及び同時施行等に取り組んでおり、それらは将来の道州制などにもつながる動きといえよう。

 県土の4割が離島の長崎県。594の島があり、そのうち74の島に人が居住している。
 対馬は、韓国は釜山のほうが地理的には近く、50kmしか離れていない(長崎県本土からは147km離れているとのこと)。そうした利点を活かして、対馬には県立高校に「国際文化交流コース」を設けて、島外からの離島留学生を受け入れたりもしている。また、釜山からも多くの人びとが対馬に訪れていて、その数は約4万人。さらに釜山の外国語大学の入学時オリエンテーション対馬で開催され、その際には、1900人が来島していただいている。
 壱岐には「http://www.harunotsuji.org/」があり、対馬と同様に県立高校に「原の辻歴史文化コース」を設けて、離島留学生を受け入れている。また、各県に埋蔵文化財センターという施設があるが、長崎県にはまだなく、これを他県においては通常設置される県庁所在地にではなく、壱岐に建設することとしている。
 五島には、明治時代から昭和にかけて、日本で建築された教会が108あるうちの56もの教会が現存している。こうした教会めぐりは貴重な観光資産となっているところである。
 その他にも、「軍艦島」などといった貴重な歴史遺産もあり、こうした遺産を中心にしてストーリー性をつくりあげることが大事だと考えている。

 先日オープンした美術館と、オープンまで着々と準備をすすめている歴史文化博物館がある。いずれも箱物ではあり反対もあったが、議会のみなさんとご相談をして建設を決定したものである。
 美術館に関しては、従来から所蔵していたスペイン美術品コレクションがあったため、自らの所蔵品だけで開館イベントができ、地方自治体の美術館としては、初めてともいえるようなオープニングが迎えられた。ここの運営は、財団が主体となっているが、スタッフは学芸員以外は民間出身の中途採用ばかりで構成されており、ミュージアムショップやカフェも非常によい売れ行きをみせている。
 博物館については、当初は、美術館と同じ財団に管理運営を任せようという話があったが、指定管理者制度の活用を考え、どうしても民間に任せるように指示した。当初は、プロポーザル応募が1件もなく、部下からはまた「財団ではどうか」と言ってきたが、それでも民間管理にこだわり、結局は5件の応募がなされることになり、検討の結果、「乃村工藝社 NOMURA : 「空間」を創り、そして活かす」を指定管理者として指定する運びとなった。どこの自治体においても、民間主体の管理運営とするにしても学芸員自治体から出向させることが通例であるが、この博物館は完全民間主体であり、学芸員まで?乃村工藝社で用意するようにとしている。こうした取扱いは、現在、全国から問い合わせがきているところであり、いろいろな意味で先例となるのではないかと考える。

  • トップとして

 政治家になるまでに10年ほどの民間経験があり、様々な交渉等も行ってきた経験がある。そうした経験をもとに部下にもあれこれ細かいといわれるが、人任せではだめだと考えているし、トップ次第で行政はかえられると思うところである。新しい時代にあった新しい行政というものがあるはずである。国に対して物を言うのも結構だが、自分がトップを務める自治体のなかで実績をあげることこそ必要ではないか。


■【情トラ】まとめ
 イロイロな歴史・文化遺産をもつイメージが強い長崎県。それらを活用した地域づくりを行うという狙いは(、長崎県に限らず)、情トラも頷くところ。ただし、お話を伺う限りでは、いわゆる「箱物」が多いのね、って感じはしなくはなかったわけですが。なお、この点については、「知事就任時に、それまでに計画されていたハコモノ建設予定をすべて中止・撤回し、ゼロから議論し直した結果、着手したものである」旨のお話がありましたので、納得したということで。
 そして、行政のトップとしてのスタンスについては、よく全国的に注目を集める方は、「従来の中央集権的なあり方に対して、モノ申す」との姿勢が垣間見られますが、それとは違う切り口から、「国会で法律として定められた制度を最大限に活用して、地域づくり」との姿勢も、また、ひとつのスタンスとして評価されるべきなのでしょう。
 少なくとも、現在は、トップたる首長が各々の執政について、確固たるビジョンを示す必要がある時代であり、「制度に矛盾があるから、その制度を変えていこう」とするスタンスと、「制度に矛盾があるけど、それを運用によって上手く活用していこう」とするスタンスには、それほど違いはないのかもしれません*1
 いずれにせよ、民間企業での経験を活かした視点と、政治家としての気概というものを感じさせていただき、たいへんタメになった本日のお話でありました。

*1:違いがあるのかもしれませんが。