わが国の統治構造の課題と展望

 京都政治スクール第2講。コーディネーターは、松井こうじ 参議院議員。ゲストは、飯尾潤 政策研究大学院大学教授。現在、【情トラ】が勉強しているところの憲法の統治構造に関する論点に関わるテーマでもあって、たいへんわかりやすくイロイロと刺激的なお話を伺うことができました。
 なお、本日は、この京都政治スクールだけではなく、別の場所で開かれた、学生さんたち中心の勉強会においても、このお二人に引き続きお話を伺い、質問などもさせていただきました。ありがとうございましたっ。

(※以下は、あくまで【情トラ】の個人的なメモの概要です。講義内容及び配布資料等の情報をもとに、【情トラ】の私見も入れつつ構成しています。当然ながら私の誤解等もあると思いますので、その旨ご注意ください。)

  • 日本においては、「(1) 議院内閣制」が採られているというが、その実際は「(2) 官僚内閣制」ともいうべきものである。
  • つまりは、大臣が選ばれる際において、「(1) 内閣総理大臣が、『国務大臣』として選ぶ」のではなく、「(2) 族議員・派閥・当選回数などといった背景によって、『各省大臣』として選ばれる」状況にあるわけである。
  • したがって、大臣がどのような意識をでその任務をこなすかといえば、「(1) 内閣の一員として、国益を考えて行う」のではなく、「(2) 各省のリーダーとして、省益・業界益を考えて行う」ことになってしまう。
    • (1) 議院内閣制とは/ [国民・議会・内閣] ⇒ [官僚] ⇒ [行政職員] ⇒ [国民] (= [議会・内閣による政策の作成・立案・決定] ⇒ [官僚による政策の実施又は政策立案等における補助])
    • (2) 官僚内閣制とは/ [国民・議会] ⇒ [内閣・大臣・官僚] ⇒ [国民]
    • ※この図式の理解には、次のエントリーが有用だと思います。
    • 【おべんきょ情トラ】身につくロースクール/憲法4 - 【情トラ】附゛録゛
  • 与党事前審査等が政策を支配することにより、閣議や国会に提出される段階では、法律案等は、調整・妥協の結果としてできあがった「ガラス細工の芸術品」となる。それゆえ、閣議や国会の場で一言一句を修正したり、追加したりすることはできないとされる。
  • また、そのように閣議や国会の場で実質的議論が行われないことは、意思決定の責任の所在を不透明にすることでもある。
    • そもそも日本のように、一言一句決まってから法律案が出されるような国はない。 議会で議論をしたうえで、案がまとまりそうになった段階で、法制局が呼ばれ、当該議論の結果を成文化させるとの手続をとっている場合が多い。
  • 政権交代は、そのときの政権党にとっても利点となりうる。
  • つまり、次のようなフローが考えられることになるからである。
    1. 政権党は忙しく、新たな政策等をじっくり検討する暇もない
    2. 自らが過去に決定した政策が失敗したとしても、失政を認め修正することは難しい
    3. いろいろな垢がたまることになる
    4. 政権交代で刷新する
    5. 下野して充電することによって、よりよい政策を練り上げることが可能となる
    6. 次なる政権交代を狙うことになる
    7. ・・・・
  • 細川政権を評して、日本にも政権交代があったとみる向きもあるが、あれは、あらかじめ細川政権を樹立すると明らかにして、その政策を提示し、そのうえで選挙で選ばれたわけではないので、本当の意味での政権交代とはいえない。
  • 選挙に投票に行かないことについて、「投票したい人がいない」という人びとがいるが、それならば、「立候補すればよい」し、「投票したい人を担ぎ出せばいい」し、「投票したいと思わせるような立派な候補者になるよう意見する」ことが大事なのではないか。
  • ただし、有権者が絶対なのではなく、候補者にも媚びない態度が必要なのであって、両者の対話が求められることになるだろう。


■【情トラ】まとめ
 以上に掲げただけではなく、多くの情報量を吸収することができた内容で、勉強になりました。(ここには掲げませんでしたが)特に外国の事例との比較などは、【情トラ】は決定的に不足している知識やなーって、前から思っているところであり、非常に参考になった次第。

 ところで、日本の立法過程におけるプレイヤーのお話も、今までに蓄積してきた知識を、改めて整理し直すことができて参考になったものでした。【情トラ】の理解を簡単にまとめると以下のとおり(非常にデフォルメしている理解ですので、その旨は留意してください。)。

  1. 立法においては、まず、その内容がどこの省庁局部課係の所管に属するかを決定することから始まる。
  2. 所管が決まれば、基本的にはボトムアップ型で、関係業界の意見も取り入れつつ、案の作成を行っていく。なお、法律案の内容によっては、外部の有識者等を集めた審議会を設置し、諮問答申を経ることもありうる。
  3. その過程において、与党担当部会にも情報提供し、調整等といったやりとりが行われる。
  4. スパイラル的に、担当省庁内部をボトムアップしていき、それに伴って与党担当部会もボトムアップしていく。
  5. ある程度、案が練りあがっていくなかで、必ず、確認・調整を行う対象が、内閣法制局(及び財務省(予算措置を伴うものに限る。))であり、ここで法律の文言の一言一句の確認から、他の法令との整合性チェック等がなされることになる。
  6. 事務次官会議に案があげられるときには、既にすべての関係者への協議・調整は済んでしまっていることが前提となる。
  7. 閣議決定、国会審議も「通過儀礼」となる。
    • ※以上は、あくまで一般的な過程であって、たとえば、トップダウンの立法過程ということもありえます。

 ここで【情トラ】が気になるのは、こうした立法過程のスパイラルのなかで、「パブリックコメント」という制度がどのように活用されることになるのかという問題。現在、「http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16205072.htm」が国会で審議(平成17年6月16日までに衆議院審査及び審議結果可決、参議院審査結果可決)されているところであり、この制度が法制化されることで、プレイヤーとして「一般市民」も登場してくることになるはずなのですね(これまでも閣議決定により、パブリックコメントを行うよう定められていましたが、法制化されると、その重みが違ってくることになるはずです。)。
 しかし、いざ「一般市民」が意見を提出するとしても、やはり困難が伴いますし、そもそも、上記のフローに掲げたうち、どの段階での案がパブリックコメントの対象となるのか明らかではないということも気になるところです(つまり、上記フロー中「2.」の段階ならまだしも、「6.」の段階でパブリックコメントにかけられても意味がないのではないかということ。)。

 そこで、「市民がこのパブリックコメント制度を活用しようと思ったときに、どれだけの有効性が持てるか?」といった質問をさせていただきました。
 その趣旨をもう少し補足しておくと、「(ア) パブリックコメントを行うことで、一体どのような政策を行おうとしているのかという「情報共有」の側面では意義があると考えられる」、しかし、「(イ) 専門家でもない一般市民が、政策形成過程への参画という意味で、その意見を反映させようとするには難しいのではないか」といったような問題意識からの質問です。

 それに対しては、おおよそ次のようなお答えをいただきました(といっても、私の理解でまとめますので、その旨留意されてください。)。

  • まず、パブリックコメントパブリックインボルブメントを区別して理解する必要があること。
  • 前者は、あくまで「知恵」を求める趣旨であり、外国の事例ではあるが、よい意見には報奨金をだすこともあるとのこと。つまりは、市民参加といった側面は、あまり強調されるものではないが、別の側面で大きな意義をもつものがある。
  • 対して後者は、その政策に利害関係を有する人びとの参加を、手段として保障するとの趣旨であること。つまり、利害関係者が参加してくれない限りは、意味をもたないものであって、そのためのアウトリーチもしっかりなされるものである。

 このことを換言すると、「パブリックコメント=市民参加の手段」という意義だと強調することは、そもそもの趣旨からズレるものであるともいえるのでしょう。この点、実は【情トラ】の理解とも合致するところです。
 そして、そうではあるが、「パブリックコメント=行政が一面的な視点で立案する政策等に対し、多面的な視点からの意見・検討・知恵を導入する制度」という意義があって、当該制度自体は歓迎すべきであるということも確かであるということ。この点についても、【情トラ】の理解と合致するところで、そのことを上手に整理して表現し、お答えいただいたなぁと思い、感謝する次第です。

 なお、少しだけ補足を。一言で「パブリックコメント」といっても、その内容は非常に様々であって、非常に専門的知識を求めるものがあれば、一般市民の素朴な反応を知りたいというものもあると思います。実際には、国政に関しては前者がほとんどであると思いますが、地方自治においては後者のものもありうると考えられます。
 その意味では、「パブリックコメント=市民参加の手段」という意義が全くないわけでもないでしょう。行政側にとっても、「市民からどんな意見が提出されるかわからない」からこそ、公平・公正な案を示そうとする緊張感にもつながることにもなるわけでしょうし。
◆参考として http://www.geocities.jp/joho_triangle/ronkou.html

 また、このパブリックコメントは、ひょっとしたら、上述の立法過程のスパイラルをかえるキッカケ、具体的には、議会の場における法律案の「逐条審議」へとつながる契機*1にもなるかもしれません*2。このことについて、まとめてみることにしたいと思いますが、また、別の機会ということで。。


■追記
 パブリックコメントに関して意見提出することに興味がある方は、今まさに何が意見募集されているのかを確認してみるとよいのではないか、と。
【情トラ】パブリックコメント一気一覧 - 【情トラ】附゛録゛

*1:「本質性理論」に基づく考え方からの発想ですね。参考として、【おべんきょ情トラ】身につくロースクール/憲法6 - 【情トラ】附゛録゛

*2:って願望ですが。