平成17年7月25日/意見提出

 次のとおり、長崎県地域振興局観光課あてに、意見提出いたしました。

  • 1. 観光基本法(昭和38年法律第107号)との関連をいかに考えるのか

 国において制定されている観光基本法ですが、昭和38年6月20日に公布・施行されているにもかかわらず、一般国民にとってはほとんど認知されているとは思えないものといえます。そして、40年以上の時間が経ているにもかかわらず、その法が制定されたことで、果たして、「外国人観光旅客の来訪の促進、観光旅行の安全の確保、観光資源の保護、育成及び開発、観光に関する施設の整備等のための施策を講ずることにより、国際観光の発展及び国民の健全な観光旅行の普及発達を図り、もって国際親善の増進、国民経済の発展及び国民生活の安定向上に寄与し、あわせて地域格差の是正に資する」ことができたか、または、できているのか、ほとんど明らかではないのではないでしょうか。
 もちろん、「観光基本法の子法にあたる日本観光協会法、旅行あつ旋業法、国際観光ホテル整備法のそれぞれ一部改正等により、海外観光宣伝体制の強化、旅行あつ旋業者の信頼度の向上、政府登録ホテル、旅館の施設および外客接遇についての水準向上等の措置がとられた(※)」とはされますが、おそらくは、これらの措置は、今回の観光振興条例には、あまり関係がないものと考えられます。
 今回の条例案においては、このような国の観光基本法の在り方と何がどう違うのか、それとも在り方自体は違わないのか、そして、そのいずれにせよ、40年前とは異なる、今、この現在の状況を、どのようにふまえた上で制定するのか等をきちんと整理しておくべきではないかと意見します。
(※)cf. http://www.mlit.go.jp/hakusyo/transport/shouwa39/ind110103/000.html

  • 2.行政計画の指針としての条例の性格及び具体的な規定の提案について

 本条例案は、県民に対し「義務を課し、又は権利を制限する(地方自治法14条2項)」条例内容ではないと考えます。それでは、どのような性格をもつ条例といえるのでしょうか。そもそも、条例で制定すべき内容であるのでしょうか。万が一、条例として制定すれば、「地域が一体となって観光の振興に取り組む」ことの法的根拠ができるといった考えがあるとすれば、それは本末転倒ではないかとも思われます。
 実質的に条例として制定すべき内容を有するからこそ、形式的に条例制定手続を経ることが、本来的な条例制定の姿であるはずです。その意味では、観光振興が、県政運営の中心的かつ重要な課題であることから、議会という公開の場で多様な議論が要請される結果として、条例で制定すべき内容となり、条例の制定手続でなければならないものとなるとの位置づけが可能ではないかと、個人的に考えています。そして、だからこそ、県民が観光振興に関する県政に参画できる制度又は手続を、県が確立しなければならない等、県の行政運営に、県民参画等の制度設定を義務付ける条例という性格も要請されるのではないかと思うところです。
 今回の素案においては、あくまで印象に過ぎませんが、特に前文ばかりが目立って、単なる宣言文と変わりないような感じがあります。前文とは、その条例の趣旨、目的又は基本的立場を述べた文章をいうに過ぎず、あくまで条例の本旨は、具体的な条項及びその内容の実効性にこそあるはずと考えます。
 この点、おそらくは、具体的な観光振興に関する施策及びその実効性は、観光振興基本計画とそれに基づく基本的施策・具体的施策で実現されるのでしょうが、この観光振興基本計画を、より実質的な位置づけを行うために、条例において次のような規定を設けることはできないか、以下に具体的な提案を行います。

  • 2-2.観光振興基本計画の作成手続を、より詳細に定めることはできないか

 素案では、第2の2(3)において、「知事は、計画を定めるに当たっては、あらかじめ県民の意見を聴き、観光審議会に諮問するとともに、議会の議決を経なければならない」と定めるだけです。これを、より詳細に規定することはできないでしょうか。単に「あらかじめ県民の意見を聴」くと規定するだけでは、具体的にどのような意見公募が行われるのか、全くわかりません。そこで、行政手続法の一部を改正する法律(平成17年法律第73号)により、新しく規定されることとなった、行政手続法の意見公募手続に類似した観光振興基本計画作成における意見公募手続規定を設けることを提案します。
 なお、この改正後の行政手続法における意見公募手続と本件における意見公募では、その性格が異なること、また、長崎県行政手続条例及び長崎県政策県民参加制度(パブリックコメント)実施要綱との関連があること等、様々な検討が必要となることは、重々承知しておりますが、「提出された意見の考慮」や「提出意見を考慮した結果及びその理由を示す応答義務」等について、本件条例案に含めることは有意義であると考えております。

■参考として < 改正後行政手続法 >

 (意見公募手続
第三十九条 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければならない。
2 前項の規定により公示する命令等の案は、具体的かつ明確な内容のものであって、かつ、当該命令等の題名及び当該命令等を定める根拠となる法令の条項が明示されたものでなければならない。
3 第一項の規定により定める意見提出期間は、同項の公示の日から起算して三十日以上でなければならない。
4 次の各号のいずれかに該当するときは、第一項の規定は、適用しない。
 一 公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、第一項の規定による手続(以下「意見公募手続」という。)を実施することが困難であるとき。
 二 納付すべき金銭について定める法律の制定又は改正により必要となる当該金銭の額の算定の基礎となるべき金額及び率並びに算定方法についての命令等その他当該法律の施行に関し必要な事項を定める命令等を定めようとするとき。
 三 予算の定めるところにより金銭の給付決定を行うために必要となる当該金銭の額の算定の基礎となるべき金額及び率並びに算定方法その他の事項を定める命令等を定めようとするとき。
 四 法律の規定により、内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項若しくは国家行政組織法第三条第二項に規定する委員会又は内閣府設置法第三十七条若しくは第五十四条若しくは国家行政組織法第八条に規定する機関(以下「委員会等」という。)の議を経て定めることとされている命令等であって、相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的として、法律又は政令の規定により、これらの者及び公益をそれぞれ代表する委員をもって組織される委員会等において審議を行うこととされているものとして政令で定める命令等を定めようとするとき。
 五 他の行政機関が意見公募手続を実施して定めた命令等と実質的に同一の命令等を定めようとするとき。
 六 法律の規定に基づき法令の規定の適用又は準用について必要な技術的読替えを定める命令等を定めようとするとき。
 七 命令等を定める根拠となる法令の規定の削除に伴い当然必要とされる当該命令等の廃止をしようとするとき。
 八 他の法令の制定又は改廃に伴い当然必要とされる規定の整理その他の意見公募手続を実施することを要しない軽微な変更として政令で定めるものを内容とする命令等を定めようとするとき。
 (意見公募手続の特例)
第四十条 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合において、三十日以上の意見提出期間を定めることができないやむを得ない理由があるときは、前条第三項の規定にかかわらず、三十日を下回る意見提出期間を定めることができる。この場合においては、当該命令等の案の公示の際その理由を明らかにしなければならない。
2 命令等制定機関は、委員会等の議を経て命令等を定めようとする場合(前条第四項第四号に該当する場合を除く。)において、当該委員会等が意見公募手続に準じた手続を実施したときは、同条第一項の規定にかかわらず、自ら意見公募手続を実施することを要しない。
 (意見公募手続の周知等)
第四十一条 命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定めるに当たっては、必要に応じ、当該意見公募手続の実施について周知するよう努めるとともに、当該意見公募手続の実施に関連する情報の提供に努めるものとする。
 (提出意見の考慮)
第四十二条 命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定める場合には、意見提出期間内に当該命令等制定機関に対し提出された当該命令等の案についての意見(以下「提出意見」という。)を十分に考慮しなければならない。
 (結果の公示等)
第四十三条 命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定めた場合には、当該命令等の公布(公布をしないものにあっては、公にする行為。第五項において同じ。)と同時期に、次に掲げる事項を公示しなければならない。
 一 命令等の題名
 二 命令等の案の公示の日
 三 提出意見(提出意見がなかった場合にあっては、その旨)
 四 提出意見を考慮した結果(意見公募手続を実施した命令等の案と定めた命令等との差異を含む。)及びその理由
2 命令等制定機関は、前項の規定にかかわらず、必要に応じ、同項第三号の提出意見に代えて、当該提出意見を整理又は要約したものを公示することができる。この場合においては、当該公示の後遅滞なく、当該提出意見を当該命令等制定機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしなければならない。
3 命令等制定機関は、前二項の規定により提出意見を公示し又は公にすることにより第三者の利益を害するおそれがあるとき、その他正当な理由があるときは、当該提出意見の全部又は一部を除くことができる。
4 命令等制定機関は、意見公募手続を実施したにもかかわらず命令等を定めないこととした場合には、その旨(別の命令等の案について改めて意見公募手続を実施しようとする場合にあっては、その旨を含む。)並びに第一項第一号及び第二号に掲げる事項を速やかに公示しなければならない。
5 命令等制定機関は、第三十九条第四項各号のいずれかに該当することにより意見公募手続を実施しないで命令等を定めた場合には、当該命令等の公布と同時期に、次に掲げる事項を公示しなければならない。ただし、第一号に掲げる事項のうち命令等の趣旨については、同項第一号から第四号までのいずれかに該当することにより意見公募手続を実施しなかった場合において、当該命令等自体から明らかでないときに限る。
 一 命令等の題名及び趣旨
 二 意見公募手続を実施しなかった旨及びその理由

  • 2-3. 観光振興施策の目標達成等評価手続は、定める必要はないのか

 素案では、第2の3(1)において、「知事は、毎年度、計画に基づく観光振興施策の実施状況を議会及び観光審議会に報告するものとする」と定めるだけです。これを、より詳細かつ実効的に規定することはできないでしょうか。単に「報告するものとする」と規定するだけでは、評価を行うことに関して、何も想定されていないのではないかと考えます。たとえば、審議会がその評価に基づいて、県に対して計画の変更を要請するなどといったこともありうるのではないでしょうか。また、県民に対する報告・公表もなされてよいのではないかと考えます。そこで、観光振興施策の実施状況報告にあわせて、議会及び観光審議会が、その報告を評価する等の手続規定を設けることを提案します。
 なお、平成17年2月に長崎県政策評価システム改善委員会から、包括的な規程としての政策評価制度の条例化が提言されていること(※)等は、重々承知しておりますが、たとえば「観光審議会は、知事からの実施状況の報告を受けて、それを評価するものとする」といった定めを、本条例案に含めることは有意義ではないかと考えております。
(※)cf. http://www.pref.nagasaki.jp/singi/singi_index.php?sgno=203

  • 3. 国や九州各県との連携については規定できないのか

 素案では、第2の1(1)⑦において、「県内外において、広域的に連携した取組を促進すること」とありますが、これは何を意味するものか明らかではないと思います。もし可能であるならば、たとえば九州各県や国との連携などと具体的に規定したほうがよいのではないかと考えます。

  • 4.その他

 その他にも個人的に考えるところは少なからずあるのですが、取り急ぎ、以上の点についてだけは参考として意見を提出させていただきます。
 なお、私は長崎県民ではないため、長崎県政策県民参加制度(パブリックコメント)実施要綱が定める意見募集対象に含まれているか定かではありません。よって、この意見に関しましては、特に要綱の手続等に従った取扱いをしていただかなくても結構ですので、その旨もふまえていただいて、ご査収のほどよろしくお願いいたします。