議院内閣制

  • 議院内閣制論の位相

 伝統的な統治機構類型においては、権力分立モデルによる機関間関係をみる。この場合における機関間関係は、組織上の関係および権限上の関係という2つの側面がある。まず、厳格な権力分立の原理にたつのが「大統領制」。組織上では議会と政府の構成員が別々に選出される特徴をもち、権限上では議会における議案提出権は議会のみ有し、相互に不信任も解散権もない関係にある。次が「議会支配制」であり、政府は議会に従属するとされる。この場合、組織上では政府の構成員は議会が選出し、権限上では議会が不信任を出すことも議会への解散権もない。そして、両者が独立で対等な地位にたつのが「議院内閣制」。組織上は内閣は議会の信任のうえ成り立つものであり、権限上は議会が不信任をつきつけることや解散権を行使することもできる。
 この議院内閣制を比較憲法史的類型にみた場合、その国家形態から「議会君主制」と「議会共和制」に区分するものと、その責任の所在から「二元型」、「一元型」、「新二元型」に区分するものと、不文と成文のあり方から「慣習法型」と「合理化型」に区分するものがある。
 まずひとつめの区分については、そもそも歴史的には君主制と議院内閣制が親和的であったのだが、のちにむしろ議会共和制が広まるようになった。次にふたつめの区分については、内閣は、最初は国家元首たる君主に対する責任と国民代表としての議会に対する二元の責任を有していたが、次第に内閣と国家元首が一体化していくとともに一元型となった。そして、現在のフランスにみられるように、国家元首たる大統領の力が強まり、内閣が大統領と議会に対する新しい二元の責任を有するようになったのである。みっつめの区分はそのまま不文であるか成文であるかの区分である。
 そして、以上のような伝統的な統治機構類型がもっぱら議会と政府の関係をみていることに対し、現代的な議院内閣制論においては、公民団として組織化された国民をひとつの権力機関ととらえるという民主主義モデルによる再構成がなされ、半直接民主制下の国民の位置付けをふまえた「国民内閣制*1」論などが説かれる。
 なお、日本国憲法下の議院内閣制を比較法史的類型にみると、「議会君主制」「一元型」の憲法にできるかぎり明文化された「合理化された」議院内閣制であり、衆議院議員選挙があるたびに(与党が勝利したとしても)内閣が総辞職して、総理の指名を行うことからもわかるように「議会支配制的要素」を含んだ「民主主義モデルによる再構成」がなされているといえる。特に「民主主義モデルによる再構成」には、「衆議院解散権」が対抗的解散(憲法69条*2)に限らず、裁量的解散(憲法7条*33号*4)も認められていることから、最新の国民意識に基づいたところで内閣が形成されることに認められるものである。

*1:内閣とその政策は選挙を通じて国民が直接的に選択するというモデル。このモデルにおいては、国民が選挙によって、政策プログラムと同時にそれを担う者、首相も事実上決定する。憲法上の手続としては国会が首相を指名することとなるが、誰が首相となるべきかは選挙の結果で事実上決まっているため、それに法的な効果を与える手続にすぎない、形式的なものとなる。

*2:内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

*3:天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

*4:衆議院を解散すること。