年金国会、気になったこと

参院本会議を舞台にした徹夜の与野党攻防の最大のポイントは、民主党出身の本岡昭次副議長による「散会宣告」だった。民主党の「秘策」のはずだったが、不発に終わり、それをきっかけにしてその後の議事が与党ペースで進む結果となった。
 本岡副議長は5日午前4時20分すぎ、2回目の休憩を終えた本会議を再開した直後、「これにて散会を宣告します」と声を張り上げ、議長席から立ち去った。議場内の野党議員も退席した。国会法117条の「議長は、議場を整理しがたいときは、休憩を宣告し、または散会することができる」との規定を根拠にした「散会宣告」だった。 
 ところが、衆院ならば可能な散会が、参院ではできない仕組みになっていることを見落としていた。参院議事規則82条は「議事日程に記載した議事を終わったときは、議長は散会を宣言することができる」と定めている。つまり、議長が散会宣告できるのは議事がすべて終わった時点で、それ以外の場合は延会手続きしか取れないことを意味している。本岡氏は事務当局の静止も聞かず、同規則に反する宣告をしてしまったことになる。
 民主党は正当性を訴えたが、事前に民主党の「秘策」を察知していた与党は「院の規則で散会はできないことになっている」(幹部)と受け付けない構え。参院自民党幹部は「民主党は策におぼれた。内部でもめるんじゃないか。こっちは救われた」と余裕の表情を浮かべた。
毎日新聞)[6月5日15時9分]]【情トラ】一部省略

 野党・民主党出身の副議長が抜き打ちで参院本会議の「散会」を宣言すれば、不信任を突き付けられた与党・自民党出身の議長がこれを取り消す−。徹夜となった年金制度改革関連法案をめぐる与野党攻防は、ルールなき戦いに発展、「憲政史上前例がない」(参院関係者)という大混乱に陥った。
 事の発端は、民主党倉田寛之議長の不信任決議案処理のため、議長席に座った本岡昭次副議長に本会議の「散会」を宣言させる作戦に出たためだ。与党は議長への不信任案提出を受け、通常は職務執行ができないはずの倉田議長が急遽(きゅうきょ)議場に戻り、散会の無効を宣言。与野党ともに憲政史に汚点を残しかねない異例の「奇策」の応酬となった。
 野党側が本会議を散会させる根拠としたのは国会法21条「議長に事故があるときは副議長が議長職務を行う」と、参院規則85条「議長が散会宣言した後は、何人も議事について発言できない」の規定だった。一方、与党は倉田議長を議長席に戻し、議事日程にのぼっている年金法案の採決が終了していないことから「議事が終わったときは議長が散会を宣言できる」とした参院規則82条を理由に散会宣言を無効とした。倉田議長は退席した本岡副議長について「事故」があったとして本会議を休憩し、その後仮議長の選任手続きに入った。
 「臨時代理」の副議長が、議長の「伝家の宝刀」を抜く形で、重要法案の採決を封じるため本会議を終了させようとしたことは、権利の乱用との批判を招きかねず「憲政史上例のない禁じ手」(参院民主党幹部)。これに対し、不信任案提出を受け職務執行ができないはずの倉田議長が議場に登壇し、議事を進行したことなど議長側にも法的な疑問点が残った。
 副議長が議長席に座ったところで本会議を打ち切る−との筋書きは年金法案成立を遅らせる「秘策」として民主党側がひそかに練っていた。「牛歩戦術」など物理的抵抗に限界がある中、参院の議事権を奪取したいとの焦りもあったようだ。しかし、これを察知した自民党側も不信任決議案の処理が終わるまで議長席に戻れないとみられていた倉田議長を議場に戻す奇策で対応。7月の参院選をにらんだ自民党民主党の“党利党略”ばかりが目立った。
 民主党岡田克也代表は5日未明、本岡副議長の散会宣言が「無効」とされたことについて「与党のやり方は瑕疵だらけだ」と採決無効の提訴を行う考えを表明。与党側も「今後は野党に副議長ポストは渡さない」(参院自民党幹部)と強く反発、今後の議会運営に禍根を残す結果となった。
産経新聞)[6月5日15時34分]【情トラ】一部省略

 ・国会法117条
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/guide/houki/2.htm
 ・参議院規則82条
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/guide/houki/3.htm

「気になったことメモ」(思いついたコト並び立ててみました。)

  • 散会は無効?
  • そもそも国会法より参議院規則が優先することがありえるのか?前者は法律であり、後者は議決はするが、内部規程にすぎないものではないのか。
  • 散会ではなく延会とした場合はどうなるのか?(延会とはどういう効果をもつもの?)
  • 延会って1日だけの延期? それとも日程さえ決めれば、何日かあとまでできるのか?
  • 延会がOKとしても6月5日(土)午後4時を過ぎないとだめなのか?
  • 延会したときも、会議を開く旨の宣告があるのか?
  • 議長が開議を宣告しなければ、何人も、議事について発言することができない。果たして、ずっと宣告しないままでいることができるの?
  • 散会がダメでも、延会がよくって、開議の宣告をしないことが可能であれば、6月4日(金)午後4時過ぎに、議長の不信任を出して、副議長が議長席に着き、そのまま議長(←副議長)が延会を宣告し、再開の開議を宣告しなかったらよかったのでは?(民主党としては)
  • だが、根本的な問題としてそのようなことを法的に支障がなくても、やっていいことなのか??

【情トラ】まとめ(らしきもの)
 まず、「そもそも国会法より参議院規則が優先することがありえるのか?」から「散会は無効?」という疑問について。
 憲法58条2項本文に「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め・・・ることができる」として、いわゆる議員手続準則は、形式上、各議員が独自に定めるとするのが憲法の建前とされる。現在この議員手続準則については両議院規則・同傍聴規則などもあるが、むしろ国会法で定めるところが多い。そこで議員規則の定めと国会法の定めとの関係が問題になるが、国会法のうち院内事項を定めた部分は、もともと運営自律権をもつ両議院の間で取り決められた「紳士協約」以上の意味をもつものではないと考えられる。したがって、国会法と議院規則との間に抵触が生じた場合には、規則が有効とされるのである。
 これは特に参議院規則について、国会法が優先されることになると、法律の制定において憲法59条2項に「衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる」とあるために、参議院の運営が衆議院の意思に左右されて、参議院運営自律権がまったく認められないことになりかねない。この意味からも、参議院規則が国会法と抵触したときは、参議院規則が有効とされると考えられるのである。なお、議院運営自律権は、議院の運営について、事前に他の機関による統制をうけないのみならず、事後にも同様に統制をうけないというのでなければ、完全ではない。この点、衆議院における運営を違法と主張して、会期延長の議決の効力を争った(議院は有効として処理した)事件において、判例は、このような問題については議院の自主的決定権を尊重すべく、裁判所が議事手続に関する事実を審理して有効か無効かの判断をおこなうべきでないとしている(最高裁昭和37.3.7<警察法改正事件>)。

 次に「6月4日(金)午後4時過ぎに倉田寛之議長の不信任を出し、本岡昭次副議長が議長席に着き、そのまま本岡昭次議長が延会を宣告して、その後の再開の開議を宣告しなかったら、何ら参議院規則に反することなく、民主党が想定していた展開どおりになったのではないか。」という【情トラ】案については、単に参議院規則や国会法を読む限りは大丈夫のような気がするのですが。。しかし、延会ということは、一旦閉会(散会)にするわけではないので、開議の宣告というものがないのかもしれませんね。それでどうしても「散会」にこだわられたのかもしれません。また、そもそもそのようなことを法的に問題がなくても、やっていいことなのか、やって国民の支持が得られるか、と疑問もあるのでしょう。

 あと、疑問にもうひとつ追加。参議院って投票はボタンで行ってなかったかな?? どうして牛歩なんてできたのでしょうか??