市民裁判員先行記第3回/鳥インフルエンザ感染隠ぺい事件判決公判

 すっかり忘れていましたよ、鳥インフルエンザ感染隠ぺい事件。9時45分開廷だったのね。
 浅田農産と同社社長の浅田秀明被告に対する京都地裁の判決要旨を、私的に保存。
http://kyoto-np.jp/article.php?mid=P2004081000083&genre=D1&area=K40京都新聞

 浅田農産は2003年ごろから業績を伸ばし、日本の養鶏業界では5本の指に入るまでに発展していた。韓国で鳥インフルエンザ発生が報告され、日本でも感染が確認された。
 04年2月17日ごろ船井農場8号鶏舎の担当従業員が、数十羽の鶏がまとまって死んでいるのを見つけた。被告は鳥インフルエンザではないかと不安になり、鶏の病気に詳しい岡山県内の農場責任者に診察を指示。責任者は獣医師の診察を依頼するよう進言した。被告は鳥インフルエンザだと判明するのを恐れ、腸炎に効果のある抗生物質の投与を指示するだけで、獣医師に診断を依頼しようとしなかった。
 同月20日には8号鶏舎での死んだ鶏の数が1000羽を超えた。解剖した農場責任者が鳥インフルエンザであると思うと被告に告げたが、被告は「あんたがそんなん言うたらいかんやろ。何で今更そんなこと言うの」と怒った口調で答え、抗生物質の投与を指示し続けた。
 22日には同鶏舎の死んだ鶏の数が3000羽を超え、鳥インフルエンザ以外にあり得ないと認識した。
 浅田被告は社長としての自負と、父親である会長に心配をかけたくないとの思いから、会長に鶏の大量死をまったく報告していなかった。しかし家畜保健衛生所に感染を届け出なければとの思いの一方で、届け出れば会社が倒産してしまうと恐れ、会長の指示を仰ぐしかないと考えた。
 会長は「何で早く言わんのや」「インフルエンザやったら会社つぶれる」などと激怒。同日午後10時ごろ、被告らと鶏舎に行き、解剖された鶏から鳥インフルエンザの症状である呼吸器症状を発見。会長は感染を確信したが、翌朝の状況をもう一度確認してから届け出るよう被告らに伝えた。被告は、後は会長や家畜保健衛生所の指示に従えばいいと思い肩の荷が下りたが、会社をつぶしてしまうのかとの迷いもあった。
 翌23日早朝、被告は船井農場の鶏卵の出荷停止などを従業員に指示。家畜保健衛生所の立ち入り調査が入った際、届け出をしていなかったことが発覚することを恐れ、22日分の生産日報に記載されていた死んだ鶏の数3713羽を1713羽に改ざんするよう指示した。
 しかし、22日の夕方から23日朝までの死んだ鶏の数が2007羽と報告を受けた被告が会長に伝えると、会長は「減っとるやんか」と言い出し、家畜保健衛生所への届け出について「そんなもん電話せんでいい」と答えた。被告は、会長が感染の事実を隠して会社存続を図るつもりと悟り、心の奥底にあった会社をつぶしたくないとの気持ちがよみがえり、隠す以上は徹底的に隠し通そうと考えた。
 同日昼ごろ、10数年間取引を続けてきた食肉加工販売業者アリノベの専務に電話し、船井農場を閉鎖しようと思っているなどとうそをついて同農場のすべての鶏約24万羽の取引を依頼。専務は申し出を了解した。
 一方、23日以降も死ぬ鶏の数は急増。26日、会長は幹部らを集めて緊急会議を開き、27日午前9時に家畜保健衛生所に電話して鳥インフルエンザの感染を届け出るよう告げたが、26日夜、匿名の電話で感染の事実が南丹家畜保健衛生所に通報され、船井農場への立ち入り調査が行われた。
 被告は27日、生産日報に記載された20日以降の死んだ鶏の数の改ざんを指示。会長とも「感染の事実には気付かなかった。腸炎だと思っていた」などと口裏合わせをし、実際行政機関などに「事実を知らなかった」などとうその釈明を続けた。
 被告は会社の存続ばかり考え、食品業者として国民の食生活の安全に社会的責任を負うとの自覚を怠り、鳥インフルエンザの害悪が拡散する危険性や社会に与える不安、動揺を顧みなかった。日本全国で警戒感や危機感が高まる中、会長の指示に安易に従い、数々の隠ぺい工作に走っていた。
 実際、低く見積もっても約1億3000万円の損害を生じさせている上、他の業者にも多額の損害を与えた。養鶏業界全体に大きな打撃を与えるとともに食の安全に対する不安感、不信感をも生み、社会的影響も大きい。会社と被告の刑事責任は重い。
 被告が届け出をすれば会社が倒産すると思い悩んだことも理解できないではないが、社会的責任の大きさを自覚していれば、山口県の養鶏業者らのように、異常を感じてすぐに行政に届け出ることも十分期待できた。
 他方、被告は逮捕当初から犯行の全容を素直に認め、真摯(しんし)に反省している。感染の事実の届け出るか否かという核心部分については創業者である会長が最終的な判断を下しており、被告は主犯とまではいえない。感染自体は会社、被告に責任はなく、まことに不運といえる。
 会長夫妻が自殺した日に子供の将来を考え妻とも離婚し、被告は平和な家庭をわずか10日間の出来事によって失ってしまったことなど被告、会社のためにくむべき事情も認められる。(共同通信