法曹制度のあり方【S】【中京】

■グローバルな市場経済の拡大は、国際的競争を激化させ、個人と企業、企業と企業、企業と行政間の紛争を短時間で公平に判定する制度が必要となった。つまり、従来型の行政による「事前調整」に任せていては、国際競争に立ち遅れると判断されたため、司法による「事後救済」で解決することが、司法改革の目指すところとなったのである。その実現の一方策が、ロースクールによる法曹人の育成とその人数の増加である。
■また、市民社会の成熟と多様化は、個人の権利を尊重した国民主権による社会秩序を必要とし、「法による支配」を確立することが求められるようになった。つまり、国民主権を守るために司法が果たしてきた役割は、現状のままでは不十分だとされたため、司法の役割の充実をもって国民主権を実現することが、司法改革の方向性となったのである。その実現の一方策が、国民が裁判官とともに裁判体を構成する裁判員制度の導入である。
■これらは、前者が「個人と企業活動のニーズに対応する法的サービスの向上」であり、後者が「三権分立による国民主権と人権の保障」であると換言できる。そして、この両者の関係は、まずは後者があってこその前者という関係であるということができよう。なぜなら、前者が後者の理念を忘れて先走りしてしまうと、法曹という専門家集団の自己利益追求のイデオロギーに堕することもありうると言えるからである。
■たとえば、相手側から巨額な民事裁判を連発されると、裁判費用も巨額なものになる可能性がある。当事者にとってみれば、大変な経済的・心理的負担となるため、結果として、「法の支配」が及ぶ以前の裁判外での和解が増えかねない。また、サービス業を前面に押し出した弁護士は、ニーズが多い都市部に集中することになり、地方の社会的弱者に対する人権の保障を軽視しかねない。
■こうした司法の独善ともいえるあり方は、法曹の業界だけの自己活動の自由と権益を守るためのイデオロギーともいえる。法曹が、社会的紛争の原因を自分でつくり出し、訴訟社会をつくり出そうとしているとも受け取られかねないのである。
■司法制度は、行政や立法と同様、国民主権を実現するためにあって、法曹は主権者としての国民の権利を保証することを第一として考えなければならない。国民が統治の主体であり、個人の基本的権利の尊重が憲法の命ずる基本原則なのである。そのうえで、法曹の活動対象である紛争当事者のニーズを考えることが要求されよう。
■これからの法曹の課題とは、法律や判例から人々の紛争に対して「正解」を見つけ、個人や企業のニーズに「正解」を迅速に届けるという「正解発見問題」にあるのではなく、正義や国民主権、個人の基本的人権の尊重についての「合意達成問題」にあるといえるのである。