司法の役割とその現状【J】

■司法には、次の3つの役割があると考える。
■まず、第1は憲法の番人としての役割である。国民主権とか基本的人権の尊重といった大きな憲法の理念を実現していくために、様々な場面で主体的関与や観察する役割があるといえよう。
■しかし、実質的に様々な場面で主体的関与ができるかどうかと問われれば、疑問が生じざるを得ない。たとえば、最高裁判所の予算は年間3,000億円ほどあり、法務省の予算は6,000億円ほどあるが、国家予算全体からみると、三権分立に相応しくないほどに少ない。また、いわゆる法律補助の金額は、年間30億円程度あるが、オランダの400億円、イギリスの1,500億円と比べると非常に少ない。法曹人口にしても、人口比でいうと、アメリカの25分の1、ヨーロッパで最も少ないフランスの4分の1程度しかないといった現状なのである。
■第2は、立法・行政のコントロールとしての役割である。国会がつくる法律が憲法に適合しているかどうか、また、行政が憲法や法律に適合しているかどうかということをチェックする役割が、三権分立の原則の下で求められている。
■しかし、この役割も十分に果たされてきたかというと、否と答えざるをえない状況がある。たとえば、国会のつくる法律が憲法に合致しているかどうかを審査する違憲立法審査権が裁判所に与えられているが、最高裁判所違憲判決を出した例は10件程度しかない。さらに、行政の執行が憲法や法律に適合しているかどうかを審査する行政訴訟は、現状では2,000件程度しかなく、ドイツの50万件、フランスの12万件、韓国、台湾の5万件と比べて、たいへん少ない数字である。また、その行政訴訟における原告の勝訴率も10%ぐらいしかなく、そもそも訴えの約3分の1は原告としての適格性がないとか、行政訴訟の対象になる処分とはいえないといった形式的な門前払いが行われている現状にある。一般に、原告の勝訴率は通常の民事裁判で70%、いわゆる医療過誤裁判で40%(一部勝訴を含む。)あるという状況に比べると、あまりにも行政訴訟の勝訴率が低いと考えられ、司法が行政に対する審査、チェック機能を十分に果たしていないのではないかと疑問が生じるところである。
■そして、第3は、民事事件において適正に紛争を解決し、刑事事件において刑罰法令を適正に適用するという役割である。
■だが、この役割もまた十分に機能しているとは言いがたい状況にある。たとえば、日本では、民事裁判が簡易裁判所地方裁判所あわせて年間42万件ほど提起されているが、アメリカは1,500万件、ドイツは230万件、フランスも200万件を超える民事裁判があることに比べると、利用件数が大変少ないといえる。また、刑事裁判については、無罪率が非常に低くて0.1%未満であり、逮捕拘留状の請求を却下した件数の0.34%だと言われている。これは、十分に調べて確実なものしか裁判にかけていないとの声もあるが、果たして本当にそれでよいのかという批判もあって然るべきであろう。