環境設計による安全・安心のまちづくりの推進について【広島修道】

【1】
■近年、身近な犯罪の急増を始めとする治安情勢の悪化がみられるが、それに対し、市民が望むのは犯罪に遭わないことである。また、被害に遭った場合は、被害がそれ以上拡大しないことを望んでいる。この市民のニーズには、警察として重要なことは、未然防止により、犯罪に遭いがたい地域社会を形成することだと考える。
■具体的には、警察が従来取り組んできた地域安全活動等のソフト面の施策がまず挙げられる。それに加え、犯罪が発生しにくい道路、公園等の環境設計というハード面の施策が行われるべきである。
■この環境設計の考え方は、欧米では既にその研究の成果が生かされてきており、新しいものではないが、これまで日本では治安の良さなどという要因もあって、ほとんど重視されてこなかった。しかし、最近の急激な治安悪化をかんがみれば、「環境による犯罪抑止」に基づく対策の推進が不可欠だと考えられるのだ。そのために、現在、警察庁及び各都道府県警察において、この種の対策が鋭意取り組まれているところである。
■だが、環境設計による安全・安心街づくりの施策には、様々な課題がある。それは、まず、具体的な犯罪実態に応じた、犯罪抑止に効果的な施策の立案である。これには、警察の防犯と捜査が一体となることが必要だ。次に、警察以外の他の行政機関等による一層の協力である。つまり、ハード整備が関連するため、財政的支援や民間に対する法令による規制が必要とされる。それらの必要性を政府及び地方公共団体に訴える必要がある。さらに、市民に対し、コスト負担と各種規制の必要性を説明し、納得してもらうことが必要だといえよう。
■最後に、これらの課題を確実にこなすためには、その業務量に見合った警察における推進体制の整備と、防犯に関する基本法の制定も求められていると考える。

【2】
■「監視社会」化は国際的にも、日本でも今日強化される傾向にある。特に2001年のアメリカでの同時多発テロは、市民監視強化を促進する契機となり、市民的自由を大幅に制限する措置が相次いで取られることになった。具体的には、盗聴法の成立、住基ネットの稼動、個人情報保護関連法の成立などが挙げられ、これらによって、日本の「監視社会」は整備されたといえる。
■この「監視社会」の典型的装置としては、各種の監視カメラがある。街頭などに設置された監視カメラは、バイオメトリックスの技術と連動すれば、特定の個人の照合・識別から、その行動の追跡・補足まで容易く行うことができる。このことは、個人の肖像権やプライバシーといった重要な人権にかかるものであるにもかかわらず、明確な法的根拠もなく、また、関係住民の合意も濫用防止の手立てもないままに、監視カメラは増殖しているという問題があるのだ。
■その他にも、現代の監視には、警察などの国家権力によるものだけではなく、商店街等の民間でも広く運用されつつあることにも注意が必要である。なぜなら、権力が監視を推進する際に、市民の不安を巧妙に取り込み、その要請に応える形をとっているとも考えられるからである。そして、気づいたときには、既に息苦しい社会が到来していたということになりかねないのである。
■こうした「監視社会」にはどう対抗すべきであるのか。まずは、監視の強化に対して、プライバシーなどの基本的人権保護の観点から原理的な批判を提起し続けることである。また、警察などの権力に絡め取られることなく、自立した市民と市民社会を再構築することが必要となる。そして、監視をめぐる市民社会のなかの異なった利害に関し、各々をどう両立し、どう調整を図るかについて、より説得的な法理を生み出す努力が求められているのである。