「市場化テストの導入【I】

市場化テスト」の導入の推進について、官庁側の反対は根強い。しかし、対象となる公共サービスのそれぞれは、今後、より一層の効率化とサービスの質の向上が求められている。この相反する2つの目標を達成するための方策がこの「市場化テスト」であって、たとえ反対があろうが導入する必要があるのである。
■これまでもっぱら官庁が提供してきた公共サービスは、官庁でなければならないという理由が存在していたからこそ、官庁の独占を許してきたといえよう。その理由は、大きく2つにまとめられる。すなわち、ひとつめが公平性の確保であり、ふたつめが機密性の維持である。前者については、確かに私的利益の代償により、何らかの申請にかかる許可不許可が決定するようでは、公益は実現されない。同様に後者についても、個人情報の保護がしっかりなされないようでは、当該個人の人権侵害にもつながりかねない。だからこそ、公的機関である官庁しかサービス提供主体になれないとの主張には一理ある。
■しかし、今回の「市場化テスト」導入の対象は、公平性の確保及び機密性の維持が、民間に開放されても担保され得るサービスなのである。たとえば、貨幣の鋳造・日銀券の印刷といったサービスには公平性は必要ない。偽札づくり対策のための機密性の維持の必要はあろうが、これは一般的な民事の契約においてもみられる例であろう。また、車庫証明や不動産・商業登記事務には機密性は必要ない。公平性についても、そもそも証明や登記を行う基準があらかじめ明確にされているため、裁量が入る余地がないのである。さらに、国税・年金保険料の徴収は、決まった額を単に徴収するだけなので公平性に配慮する必要はない。機密性は個人情報保護の観点から、その維持の必要性は認められるが、これについては、個人情報保護法の制定などの法整備により対策されているものである。このように、今回、対象とするサービスは「すでに決定したもの、または、あらかじめ明確な審査基準が示されているもの」であるため、公平性の確保ができる。そして、「すでに法整備がなされているもの」であるため、機密性の維持ができる。それゆえに、官庁が反対するところの2つの理由に該当しないといえるのである。
■なお、もうひとつ、これまで専ら官庁が公共サービスを提供してきた理由が考えられる。それは、戦後、長らく民間の力が、広域かつ多量の事務を処理するほどには成長していなかったということである。しかし、今や民間の活力のほうが、官庁を上回るところとなった。民間に開放しても、担当できるだけの資力、能力が備わったといえるのである。
■今回の市場化テスト」は、本来的には、官業の民間開放促進策である。しかし、何も無条件に官庁から仕事を奪い、民間に与えるということではない。あくまで、競争の結果、価格と質の両面で優れているほうに仕事を任せる制度である。その意味では機会を平等に与えているのだし、何よりもこれまでのノウハウは官庁の方にある。官庁にこそ、より一層の効率化とサービスの質の向上という困難な目標の達成への努力を期待しているところでもあるのだ。
■官が全てを取り仕切る社会から、官民が協働して、紛争は法に基づき当事者同士で解決する社会への転換が、日本の活性化に必要とされる。官庁が率先し、その範を示してほしいと切に希望するところである。