ニートが増える理由と具体的予防策/大学入試について【同志社】

【第1問】 ニートが増える理由と具体的予防策
ニートとは、一般的には「働く意欲を持たない若者」と表現されるが、実際は働く自分に対する自信の欠如から「働けない若者」といえる。この働くことへの自信の欠如は次に掲げるような理由に基づく。
■まず、就職活動をしたところで、不況の影響で採用されることがないからという理由である。また、いわゆる学歴社会のなか、良い学校に入れなければ良い会社に入れないとの価値観が、動かしようのないものとなっているからとの理由もある。さらに、核家族化や地域社会の都市化により人々の触れ合いが希薄となったことが、他人と交流を困難にしたからという理由もある。そして、90年代以降に強調された、仕事を通じた自己実現重視の風潮に対応し切れなかった若者が、自信をなくしたからとの理由もある。
■以上の理由によって、ニートが増加しているとされるのであるが、その中で著者が最も重視する理由は、最後に挙げた社会が要求する自己実現に疲れてしまったからというものである。このことに対する具体的な予防策としては、次の2つが考えられる。
■まず、ひとつ目が、自己実現を仕事における価値ばかりに求める社会のあり方を変革することである。従来の日本においては、経済的な豊かさばかりが求められ、精神的な豊かさがないがしろにされた面がある。これは、戦後に物資が欠乏した経験が反動となったがためともいえるのかもしれない。しかし、今日においては、たとえば、災害時のボランティア活動などの公益的な活動における自己実現も求められる価値となっている。必要なのは、仕事における自己実現に変わる新しい価値の創造であり、それに対する社会の評価なのである。
■そして、ふたつ目が、現在、受身でしかない職業紹介事業を、より民間開放を行って、ビジネスとして成り立つようにすることである。職業紹介事業がビジネスとして成り立てば、ニートに対する積極的な助言者も出てくることになる。こうした存在によって、新たな職業の需要と供給のマッチングが期待されるといえよう。
◆『論座』2004年8月号/玄田有史


【第2問】 大学入試について
問1
■大学入試において「まぐれ」が生じた場合は、出来の悪い学生がいわゆる銘柄大学に入り、出来の良い学生が非銘柄大学に入ることが起きる。このため、ひとつの大学のなかで出来の良い層と出来の悪い層が極端にわかれることとなる。それ故に、学生の顕在化した実績の分布は、最も優秀な層が他を圧倒し、その次の層がその半分以下に、そしてそれ以下は限りなくゼロに近い実績しか残せないというジフ分布がすぐに現れることになる。
■対して、大学入試において「ドングリの背比べ」が生じた場合は、学生の出来不出来が平準化されることになる。このため、互いに牽制しあうことが起きるために、なかなか実績が顕在化しない事態が生じる。しかし、時間をかけたうえで、ようやくジフ分布が現れることになる。
■以上のように、両者ともにジフ分布が現れるのであるが、それが顕在化するまでの時間に相違があるといえるのである。


問2
■「まぐれ」で入試を通ってきた学生がいるという理由により、大学入試が機能していないと見方がある。しかし、本当にこの「まぐれ」だけが、大学入試が機能しないという要因なのかどうかは疑問がある。たとえ入試において、出来が悪かったからといって、入学後のやる気と努力により、結果として、価値ある実績を残すこともあり得る。また、逆に、入試において、どれだけよい出来を示したからといって、入学をゴールと考えてしまい、入学後に何も努力をしなければ、何の実績も残すことなく、卒業すら危ぶまれることもあり得る。大切なのは、入学後にその学生がどういった実績をあげるかといったことなのである。
■私が考える大学入試制度が追求すべき目的とは、次に掲げるところにある。まず、大学が求める人材を的確に見極めることである。そもそも大学は義務教育ではない。大学は決して安くはない対価を得て、教育を提供する場である。そうであれば、大学側はどのような人材を求めているのか、どのような教育内容を用意しているのかについて明確にする必要があるだろう。
■また、大学が教育を行うにあたり、最低限必要な知識及び素養を有しているか見極めることである。たとえば、経済学や金融学においては、ある程度、高度な数学の知識及び素養が必要とされる。それにもかかわらず、その入試において、そうした数学の知識及び素養を持っているかどうかを問わないことは、入学してから無駄な時間を過ごさせることになりかねないのである。
■そして、大学に入学するにあたり、どのような志望動機で、どのような研究を行いたいと受験者が考えているのか見極めることである。これは、入学後に学生がどれだけ伸びていけるかを判断する材料になると考えられる。
■以上のことを踏まえ、大学入試制度を改善すべき点については、まず、その大学独自の入試問題の作成があげられる。他の大学との違いが見られないような、単に知識を問う問題などでは、その大学が求めているのはどのような人材であるのか明確にならない。はっきりとこのような人材がほしいと意図を打ち出した問題を作成すべきなのである。
■しかし、最低限必要な知識及び素養を有しているかどうかを図ることも、もちろん必要である。これには、センター試験にみられるような基本的知識を主体にした入試でもって判断することが、最もふさわしいだろう。つまり、センター試験の活用は必要であるが、それだけに終わってしまってはいけないのであって、その後の2次試験をより一層大学独自に行うことが求められよう。
■そして、そうした試験だけではなく、いわゆるパーソナルステートメントの提出を求めることが考えられる。入学前に入学後のことも含めて考えさせておくことにより、入学後のその学生の意気込みを見ることにつながるのである。
■このようなことによって、学生が個性として持つ能力を訓練により伸ばしていく教育を、大学が提供することに資する入試制度を築くことが必要だと考えるのである。
「出世」のメカニズム―「ジフ構造」で読む競争社会 (講談社選書メチエ) 「出世」のメカニズム―「ジフ構造」で読む競争社会 (講談社選書メチエ)/日置弘一郎