市民裁判員先行記第6回/あなたも私も裁判員

■本日は、裁判の傍聴ではなく、大阪弁護士会館で開催された「あなたも私も裁判員」というパネルディスカッションについて。現役の裁判官、検察官、そして弁護士という法曹三者が一堂に会しての催しだったので、興味深く聴いて来ました。

■会場に集まったのは、150〜160人ぐらいかな? グルッと見渡した限りは、ご高齢の方々と学生ぐらいの若い人がほとんどで、いわゆる働き盛りの年代はいなかったよーな。弁護士のみなさんもけっこーいらっしゃったようですね。

■最初に、大阪弁護士会副会長さんの開会挨拶のあと、裁判員制度紹介のビデオ上映から。その内容は、実際に市民のみなさんに刑事裁判の傍聴と、模擬裁判に基づいた裁判員審理のシュミレーションをしたことに対する感想など。曰く「関心を持つのは良いことである」、「罪を犯す人も少なくなるのではないか?」といった感想を持たれたとのことでした。

■その後、メインのパネルディスカッション。コーディネーターが、丸田隆氏(関西学院大学教授)、パネリストが、遥洋子氏(タレント・作家)、杉田宗久氏(大阪地方裁判所裁判官)、中村好春氏(大阪地方検察庁検察官)、西村健氏(大阪弁護士会弁護士)という顔ぶれ。このように法曹三者が集まって開催するイベントは、これまでなかったことだそーです。これも、そうした専門家の世界に、市民が裁判員として参加してくることによって、実現されたことだと言えるのではないでしょうか(ね)? このパネルディスカッションにおいては、ホントに様々な有意義なお話を聴くことができたわけなのですが、まずは、裁判員制度についての説明を、資料として配られたパンフレットのQ&Aを転載させてもらうことにします(一部【情トラ】による改変アリ)。なお、このパンフレットも、最高裁判所法務省、日本弁護士連合会の三者によるもので、これまた戦後初めてとゆー話でした。

  • Q1「裁判員制度とは、どのようなもの?」
    • A「裁判員制度は、国民のみなさんに裁判員として刑事裁判に参加してもらい、被告人が有罪かどうか、有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決めてもらう制度」
  • Q2「なぜ導入されるの?」
    • A「国民のみなさんが裁判に参加することによって、法律の専門家ではない人たちの感覚が、裁判の内容に反映されることになる。その結果、裁判が他人事ではなく、国民のみなさんで分担していくものとして、司法に対する理解と信頼が深まることが期待されている」
  • Q3「裁判員が参加するのは、どのような事件?」
    • A「代表的な例をあげると、次のような場合がある」
      1. 人を殺した場合(殺人)
      2. 強盗が、人にケガをさせ、あるいは、死亡させた場合(強盗致死傷)
      3. 人にケガをさせ、その結果、死亡させた場合(傷害致死
      4. ひどく酒に酔った状態で、自動車を運転して人をひき、死亡させた場合(危険運転致死)
      5. 人が住んでいる家に放火した場合(現住建造物等放火)
      6. 身代金を取る目的で、人を誘拐した場合(身代金目的誘拐)
      7. 子どもに食事を与えず、放置して、死亡させた場合(保護責任者遺棄致死)
  • Q4「裁判員はどのようにして選ばれるの?」
    • A「最初に、選挙人名簿をもとに裁判員候補者名簿を作成。裁判員は、この候補者名簿の中から1つの事件ごとに、裁判所における選任手続により選ばれる」
      1. 選挙権のある人の中から、翌年の裁判員候補者となる人を毎年くじで選び、裁判所ごとに裁判員候補者名簿を作る。名簿に載った人には連絡がいく。
      2. 事件ごとに、候補者名簿の中からくじでその事件の裁判員候補者を選ぶ。選ばれた人には、裁判所に来てもらう日時等をお知らせする。
      3. 裁判長から、裁判員になれない理由がないかどうか、辞退希望がある場合はその理由などについて質問。裁判員になれない理由のある人や辞退が認められた人は候補者から除外される。また、検察官や弁護人は、双方とも、法律で決められた人数の範囲内で候補者から除外されるべき人を指名することができ、指名された人は候補者から除外される。
      4. 除外されなかった候補者から、裁判員が選ばれる。
  • Q5「裁判員に選ばれたら、どのようなことをするの?」
    • A「裁判官と一緒に、刑事事件の審理(=公判)に出席し、被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどんな刑にするべきかを、裁判官と一緒に議論し(=評議)、決定する(=評決)」
  • Q6「裁判員になるために、資格はいらないの?」
    • A「衆議院議員の選挙権を有する人(20歳以上)であれば、原則として、誰でもなることができる。ただし、次のような人は、裁判員になることができない」
    • 欠格事由
      1. 国会公務員となることのできない人(成年被後見人など国家公務員法38条の規定に該当する人)
      2. 義務教育を終了していない人(義務教育を終了した人と同等以上の学識のある人は除く)
      3. 禁錮以上の刑に処せられた人
      4. 心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障のある人
    • 就職禁止事由
      1. 国会議員、国務大臣、国の行政機関の幹部職員
      2. 司法関係者(裁判官、検察官、弁護士等)
      3. 大学の法律学の教授、助教
      4. 都道府県知事及び市町村長(特別区長も含む)
      5. 自衛官
      6. 禁錮以上の刑に当たる罪につき起訴されて裁判中の人
      7. 逮捕又は拘留されている人
      8. その他
    • 事件に関連する不適格事由
      1. 審理する事件の被告人又は被害者本人、その親族、同居人等
      2. 審理する事件について、証人又は鑑定人になった人、被告人の代理人、弁護人等、検察官又は司法警察職員として職務を行った人
      3. その他
    • その他の不適格事由
      1. 裁判所が不公平な裁判をするおそれがあると認めた人
  • Q7「裁判員になることは辞退することはできるの?」
    • A「広く国民のみなさんに参加してもらう制度なので、原則として辞退できないことになっている。ただし、次のような人は、申し出をして、裁判所からそのような事情があると認められれば辞退することができる」
      1. 70歳以上の人
      2. 地方公共団体の議会の議員(ただし会期中に限る)
      3. 学生又は生徒
      4. 過去5年以内に裁判員、検察審査員等を務めたことがある人
      5. 過去1年以内に裁判員候補者として裁判所に行ったことがある人
      6. 一定のやむを得ない理由があって、裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難な人(例えば、重い病気・ケガ、同居の親族の介護・養育、事業に著しい損害が生じるおそれがあること、父母の葬式等)
  • Q8「裁判員は法律のことを知らなくても大丈夫?」
    • A「法律に関する知識や裁判の手続については、裁判官によって丁寧に説明されることになっている。また、検察官や弁護人も、分かりやすい裁判が行われるよう努力される」
  • Q9「裁判は時間がかかるんじゃないの?」
    • A「一概には言えないが、多くは数日間で終わるのではないかと見込まれている」
  • Q10「裁判員になったことでトラブルに巻き込まれない?」
    • A「裁判員の名前や住所は公にされないし、評議の際にどんな意見を述べたか明らかにされない。また、裁判員やその親族に対し、威迫行為をした者を処罰する規定が設けられている」
  • Q11「裁判員には日当や交通費は支払われるの?」
    • A「支払われるが、具体的な金額は今後決定」
  • Q12「裁判員となるために仕事を休むことは? また、仕事を休むことで会社から解雇されるようなことはないの?」
    • A「法律で必要な事項を規定している」
  • Q13「裁判員候補者として呼ばれる可能性はどれぐらい?」
    • A「1年間で約330人から660人に1人の割合」

■以上のような制度説明を中心に、非常に多岐にわたるお話を聴くことができました。そのなかで特に印象に残っていることをいくつか箇条書き。

  • イタリアの参審制度の場合、参審員の辞退を厳しく認めないと「多様な構成」になるが、緩やかに認めると「偏り」がでているとのこと。あるときは、全員が、女性で、40代、それも学校の先生だったということもあったそーです。
  • 法廷で何をやるのかというと、ほとんど事実認定。例えば、(めちゃめちゃ簡単に言うと)「①Aの部屋から高級時計が盗まれ、その1週間後、Bがその時計を質屋に持ち込んだ。このとき、Bは窃盗犯と考えられるか? ②それが1週間後ではなく、1時間後であればどうか?」といった感じで、本当に社会の良識が反映されるような議論がなされるとゆーことです。
  • 多様な裁判員が参加することにより、議論がまとまらないのではないかという声もあるが、評議を行うに当たっては、単なる「言いっ放し」ではなく、関係者を「説得する」態度が必要になる。だからこそ、議論は自然と集約されていくものと考えられる。
  • 刑事裁判においては、検察官が立証する証拠に「合理的な疑い」を差し挟む余地がない場合に、初めて「有罪」だと認定される。これは一般の人の感覚に基づくものでなければならず、つまりは、素人の胸にコトンと納得させることができるかという判断基準が求められている。それは今まで裁判官の頭の中だけで判断していたものであったが、裁判員制度の導入により、実際に議論して判断できることになるのは、大いに期待されるところである。

■【情トラ】の感想としては、参加されていた法曹三者のうち、最もフレンドリーな印象を受けたのは、なんとなんと裁判官。続いて、検察官。一番硬いのぉと感じたのが弁護士でした。一般的なイメージでは、順序は全く逆になりそうな感じなのですが、今日の参加者ではダントツ裁判官でしたね。しかし、だからといって、裁判官全員があんな感じであるはずもなく、ホントに個人個人の資質が問われることにもなるのではないでしょうか。 5年後の施行といっても、5年なんかすぐに経つもので、今後、こうした法曹三者が一堂に会して、市民が参加する形の催しが数多く開かれることを期待しますっ!