物権法/第2講 物権の効力

<1>物権には、他の人間を排除して、その物の価値を独占的に支配(享受)できるという排他性がある。
■また、物権の効力は1つの物の価値については、1つの物権しか認められないという原則*1があることから、競合する物権相互間における優先的効力の問題を検討する必要がある。
■この場合、原則は時間順となるのであるが、どの物権を優先させることが望ましいかという政策的な問題から、物権一般については、対抗要件順とされる。これは、取引安全を確保するという政策的要請によるものである(ex.民法177条*2)。また、様々な政策的考慮に基づいて認められる物権もあり、これについてはそれぞれの立法に従った優先関係となる。
■次に、債権に対する物権の優先的効力を検討する必要があるが、これは、担保物権が一般債権の掴取力*3に優先するとされる。<2>「物権的請求権」とは、物権の実現が侵害され、または、そのおそれがある場合に、その侵害の排除・予防を求めることができるという権利のことである。こうした権利の不可侵性は債権についても同様であるのだが、特に物権においては、そもそも物権が、その物の支配が侵害され、または、そのおそれがある場合に、侵害の排除・予防が認められなければ、意味がないことから重要とされる。この物権的請求権については明文の規定はないが、文言上の手がかりとして「本件の訴(民法202条1項*4)」があることが前提とされる。
■この物権的請求権の相手方は、行為による侵害に対しては「当該侵害行為をしている者」であり、物による侵害に対しては「当該侵害物の所有者」となる。
■また、物権的請求権の種類には、次に掲げるものがある。

      1. 返還請求権…物の占有が他人によって全面的に奪われている場合に、その占有の回復を求めるもの
        • 動産の場合…目的物の引渡請求権
        • 不動産の場合…土地明渡請求権、建物収去請求権
      2. 妨害排除請求権…占有が奪われてはいないが、その支配が妨害されている場合に、その排除を求めるもの
      3. 妨害予防請求権…妨害のおそれが大きい場合に、その予防措置を求めるもの

■そして、Xが侵害を受けている側であり、Yが侵害している側である場合における物権的請求権の要件には、次に掲げるものがある。

    • Xが物権的請求権を主張するための積極要件
      1. Xが物権を有していること(当該物権を取得した原因を明らかにすることを要する*5。)
      2. その侵害がYによってなされていること
        • Yによる目的物の占有がなされている場合…返還請求権
        • Yによる物権の実現の妨害がなされている場合…妨害排除請求権
        • Yによる物権の実現を妨害する危険の惹起がある場合…妨害予防請求権
    • YがXの請求に対抗して主張するための消極要件
      1. Xが目的物の物権を失ったこと(当該物権を喪失した原因を明らかにすることを要する。)
      2. Yが目的物を占有する正当な理由(占有権原)があること

■以上のように、物権的請求権を考えるにあたっては、まず「誰に対して請求できるのか」、そして「何に基づき請求できるのか」、「そのための要件は何か」、さらに「その要件はいくつあるのか」について考える必要がある。これは、物権的請求権を行使された側が、その請求に対抗するときにおいても同様なのである。<3>物権的請求権と費用負担、つまり、返還・妨害排除・被害防除のための行為を妨害者側で行うのか、被害者側で行うのか、また、そのための費用をどちらが負担するのかについては、たいへん難しい問題である。
■この問題については、XとYを当事者としたとき、次のような整理がなされる。

    • 忍容請求権…被侵害者Xがみずから返還行為・妨害排除行為・侵害予防行為をするのを、相手方Yに忍容するように請求する権利。つまりは、行為及び費用負担ともに被害者側Xが行うもの。これは、物権がある以上、当然に認められなければならない最低限の権利である。相手側Y(=侵害者)に対しては、当該物の支配の回復のために最低限の協力を求めることを意味する。

■この場合、先に忍容請求権を行使した者が費用を負担することになり、言わば我慢した者勝ちとなってしまうという問題点が考えられる。
■なお、侵害行為をした者Yに故意又は過失があった場合は、Xがかかった費用をYに賠償請求することとなる*6
■これに対して(、被害者側Xが行為も費用負担も行うのは不当だとして)、相手側Yが侵害するわけだから行為も費用負担も相手方Yがするものという考えもある。

    • 行為請求権…返還行為・妨害排除行為・侵害予防行為を相手方Yがするように請求する権利。ただし、相手方Yの行為によって侵害している場合は正当な請求と評価できるが、次に掲げる場合においては問題がある。
      1. 相手方Yの行為によらない場合。つまり、第三者Zの行為によって(Y所有の財産がXの物権に対する)侵害している場合(ex.大判昭和12年11月19日においては相手方の費用負担を肯定している。)
      2. 不可抗力による場合
      3. 両当事者XYがともに相手方の物権を侵害している場合。つまり、Xの所有権がYの行為によって侵害されており、Yの所有権もXの行為によって侵害されている場合(ex.Xの土地のうえにY所有のダンプカーが放置されたことにより、Xの土地の所有権が侵害されること。また、Xが当該土地の出入り口を閉鎖したことにより、Yのダンプカーの所有権が侵害されること。)

■特に両者の行為請求が衝突する場合は、行為請求権を認めると、先に行為請求権を行使した者が相手方の費用で自らの権利を回復することになり、早い者勝ちとなってしまうという問題点が考えられる。
■それゆえに、相手方の負担で自らの物の支配の回復を行うには特別の理由を要するとして、行為請求権の限定がなされることとなる。これには次に掲げる考え方がある。

    1. 過失責任説…物権侵害について相手方Yに故意・過失がある場合にのみ、XがYに行為及び費用負担を求めることができると考える(XとYが逆も成り立つ。)。ただし、両者ともに故意・過失がない場合は、忍容請求権の考えと同じくなる。
    2. 侵害責任説…社会通念を基準に、相手方Yが物権を侵害していることを判断できる場合に、XがYに行為及び費用負担を求めることができると考える(XとYが逆も成り立つ。)。これは「何人も、自己の行為または自己の所有物によって、他人の権利を侵害してはならない」との侵害禁止原則を根拠とした考え方である。
    3. 原因責任説…物権侵害について相手方Yが当該侵害を惹起させた場合に、回復の必要を生じさせた者に費用を負担させるのが公平に適うとして、XがYに行為及び費用負担を求めることができると考える(XとYが逆も成り立つ。)。過失責任説の要件を若干ゆるやかに考えたものであるが、相隣関係に関する規定(民法229条*7、223条*8226*9等)から基本原理を抽出して、回復の必要を生じさせた原因の程度に応じた費用の分担をはかることとする。


<4>所有権は消滅時効にかからない(民法167条2項*10のであるが、物権的請求権はどうかという問題には次のような考え方がある。

    1. 消滅時効否定説(通説・判例)…所有権が妨害されているのに、物権的請求権が行使できないのでは、所有権が有名無実化することになる。つまり、所有権の永続性から物権的請求権も消滅時効にかからないと考えられる。また、物権に対する妨害が継続している場合においては、物権的請求権も発生しつづけているといえる。この妨害の継続性のため、時効消滅を観念できないとも考えられる。
    2. 消滅時効肯定説…時が経過することにより、妨害者とされる側が本当は妨害者ではないことを証明するのが困難といえる。このような証明困難を救済する必要性から、消滅時効を肯定すると考える。また、被妨害者側は物権的請求権をいつでも行使できるのに行使せず、権利の上に眠っていたことを理由に消滅時効を認めるべきと考える。

*1:一物一権主義。ただし、例外として抵当権は1つの物に複数の権利が認められるのであるが、順序があるため、あくまで1つずつであるとも考えられる。

*2:不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

*3:債務者が債務を履行しない場合に、債務者の一般財産を引き当てとすること、つまり、差し押さえて競売し、その金をもらうことができること。

*4:占有ノ訴ハ本権ノ訴ト互ニ相妨クルコトナシ

*5:両者ともにXが物権を有していることを認めている場合は必要はない。

*6:不法行為責任を追及することとなる

*7:疆界線上ニ設ケタル界標、囲障、牆壁及ヒ溝渠ハ相隣者ノ共有ニ属スルモノト推定ス

*8:土地ノ所有者ハ隣地ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ疆界ヲ標示スヘキ物ヲ設クルコトヲ得

*9:囲障ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス

*10:債権又ハ所有権ニ非サル財産権ハ二十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス