介護のあるべき姿【I】

■介護のあるべき姿とは、単に介護サービスの内容を充実すればよいというものではなく、当該サービスの利用者が安心して将来を任せることができる体制づくりにある。その意味で、介護を行う主体は、長年にわたって変わらぬ質のサービス提供を肝に命じなければならない。
■現在、介護ビジネスに関して、契約当初のサービス内容の質が、時間が経つに従い低下していくといった問題点がある。たとえば、非常に多額の初期投資により建設した有料老人ホームに、その利用料金の高さから入居者が集まらず、収益をあげられずに、実際に入居者に十分なサービスが提供できないことがある。この場合、企業が当該事業を売却することもあり得るため、介護サービス提供主体自体が変わってしまい、サービスの質の低下も避けられないことになるとも考えられるのである。
■また、在宅介護においてもホームヘルパーが重労働であることから離職率が高く、人材不足となって、当該サービスの利用者に充分なサービスが維持できなくなることもある。
■以上の例に限らず、介護ビジネスに関しては、2005年に予定される介護保険制度の見直しなどにより、企業側が利用者側に約束したサービス内容を維持できなくなるというじれが数多く見られるのである。
■こうした問題点に対しては、どのような解決策が考えられるか。これについては、まずは企業の経営状況の改善がはかられる必要があろう。多額の初期投資、多額の初期償却といったハイリスク・ハイリターンの事業モデルから、抑えた初期投資、安めの利用料金といったローリスク・ローリターンの事業モデルへの転換が考えられるところである。
■また、経営の健全化をはかりつつ、サービスの質の維持・向上もはかるといった、ある種矛盾した取組みのために、経営のことがわかる介護職員、介護のことがわかる経営者の養成が急務とされる。これは、個々の企業努力に頼るだけではなく、政府による業界全体に関わる支援も必要とされよう。
■そして、何よりも企業と利用者との間で結ばれる契約が適正なものであり、それが安心できるかたちで実行されることが求められるのである。このことは、先にあげた事業モデルの転換、人材の育成を踏まえつつ、当事者のほかに、社会的弱者でもある高齢者の側に立った弁護士を介在させるなどによって実現されるべきであろう。
■このような企業による対策のほか、政府による解決策も次のようなものが考えられる。それは、つまり、政府による公平な第三者としての介護サービスの評価機関づくりである。
■確かに、「民民契約」に対しては、規制緩和に逆行して罰則など縛りをかけるのは困難であると考えられる。しかし、どの企業に対しても中立的な立場をとりうるのは、政府のみであるといっても過言ではない。その立場を利用して、公平な第三者として、中立・適正に各々の介護サービスの評価を行うことは、利用者側の利便に適うはずである。
■個々の利用者が、自らの手により情報を収集しようとしても限界がある。そもそも、外部に向けて、適正な情報公開を行う企業の方が少ないかもしれない。とすると、政府が主体となって情報を収集すること、または、法整備によって、それぞれの企業に適正な情報開示をさせることが求められよう。
■また、その他にも、たとえば、政府がモデル契約書をつくるだけではなく、その周知徹底をはかるための公報を行うことなども、公平な第三者として求められるところと考えられる。
■以上のように、介護のあるべき姿のために、当事者同士は適切な契約を結ぶことが求められ、時には弁護士などの協力が必要と考えられる。また、公平な第三者としての政府による法整備も求められると考えられるところである。