組織に距離をおく日本人のあり方【I】

問1
■これまでの日本の特徴は、組織に依存した集団主義であるとされていた。しかし、今日では、自分なりの働き方や生活スタイルにこだわり、仲間同士の私的な人間関係を大切する「マイペース型個人主義」、所属組織よりも自分の専門とする仕事に一体化する「仕事人」、そして、男性中心のパラダイムを批判する「女性」の進出が目立つようになている。これらの変化は、働く場の変化や権利意識の高まり、少子化など、成熟社会へと向かう経済的・社会的・物理的な環境変化が原因である。それゆえに、こうした「新しい日本人」の台頭は不可逆であって、これまでのような組織の論理に基づく選別主義に代わるパラダイムと具体的方法が必要となる。


問2
■今までの日本の政治・経済・社会は、集団主義により特徴づけられていたといえる。政治においては、地域共同体や職業的団体を代表するものが議員として選ばれ、個別の利益を主張していたし、経済においては、共同体的なイデオロギーにより、それぞれの会社が個別の利益を求めていた。そして、社会においても、職場という男性社会のなかで男性によってつくられた制度や慣行に見られるように、伝統的な組織中心の制度づくりや運営が行われていた。
■これらに対して、組織に距離をおく日本人のあり方は、全く相反する流れをつくると考えられる。つまりは、従来は組織と一体化することを第一とし、その一体化しているメンバーに恩恵を与えるシステムだった。しかし、日本人の多数が組織に距離をおくようになると、組織に所属することの価値観自体が下落し、ただ組織に所属しさえすれば報いがあるというシステムも崩壊するのである。
■それゆえに、政治においては、個別の利益集団の推挙による選挙から、より大きな公益を考える選挙となるだろうし、経済においても、企業の社会的貢献がより一層重視されることになろう。そして、社会においては、従来の組織の枠内に収まらないような、より大きな価値を尊重した制度づくりや運営がなされることになるだろう。
■以上から、21世紀の日本は、より全体的な公益を重視するようになると考えられるのだ。


問3
■組織に距離をおく人の存在は、確かに増えつつあると考えられる。しかし、やはり未だに組織に依存する人のほうが圧倒的多数であろう。そして、そうした伝統的で多数派の人たちによって制度がつくられ、運営されていることも、また事実といえよう。それゆえに、組織に距離をおく「新しい日本人」は、社会的少数派であり、同時に弱者ともいえる存在なのである。
■たとえば、「マイペース型個人主義」を貫く人は、ある意味強制的参加を強いる地域共同対との摩擦が起こりやすい。また、所属組織よりも自らの専門性を重視する「仕事人」は、その所属組織から冷遇されやすい。さらに、「女性」に関しては、就職差別や昇進差別が行われてきた現実がある。
■こうした社会的少数派・弱者の権利を保障するためには、法曹の役割は大きいと考えられる。なぜならば、一般的には多数を占める側の意見が通るのが、現在の民主主義の原理のひとつである。しかし、司法の場においては、多数か少数かは判断基準とされない。考慮されるのは、常に公正かどうか、社会的妥当性があるかどうかの判断基準だからである。
■以上を踏まえると、放送は社会的少数派・弱者の権利主張を適切に判断する役割、そして、未だ声にならない弱者の声を発見し、問題化していくという役割などが求められる。数だけではなく、質の判断基準の提示と実践こそが、法曹が担うべき役割なのである。