市民裁判員先行記第12回/Winny事件第5回公判

 京都地裁にて、またまたまたまたWinny事件、著作権法違反幇助に係る事件の第5回公判に傍聴へ行ってきました。今日も、傍聴券は先着順。さすがに傍聴人数はカナリ減ってきちゃってます。続けて傍聴してると、もう、最後まで行こうという気持ちになっている【情トラ】です。


■傍聴前について

  • 12:30ごろ 今日は、午前中は特に用事なし。ご飯食べてから、京都地裁に到着。
  • 12:35〜 並んでいる人も少ないので、所内備え付けのイスに座って読書。途中で、並びましたが、それでもかなり前の方。
  • 13:10ごろ 今回も、裁判所の職員さんから、注意事項の説明など。
  • 13:20〜 入廷開始。今回もバックを預け、身体検査(ポケットにモノが入ってないかどうか程度)。毎度毎度の101号法廷ですが,被告人が来ないじゃない。
  • 13:30 裁判官が登場されて、いざ開廷、裁判官が「それでは、証人尋問を、、、」って、まだ被告人が来ていない。被告人が未だ入廷していないので、始められないわけで。弁護人(壇弁護士)が呼びに行って、若干遅れて、開廷です。


■公判内容について(※注※ 以下はあくまで【情トラ】の個人的なメモを、【情トラ】の理解も含めてカンタンにまとめたです。全てを再現しているわけではモチロンありませんし、また、私の理解不足や事実誤認などもあるかもしれません(、いや、必ずあるはずです)ので、ご注意を!)
◆また、一応、聴き取れた分についてはメモしてますので、もっと詳細に再現することも可能ではありますが、概要をまとめるだけにしますのでご了承ください。非常に詳しいまとめもありますので、そちらも参考に!

■なお、Winny(ウイニー、ウィニー)事件公判傍聴録/【情トラ】まとめ(概要も含む。)は、次に掲げています。ご参考まで。
【おっかけ情トラ】市民裁判員先行記 - 【情トラ】附゛録゛



■まずは、前回、検察側が示そうとした雑誌に関して。弁護側から「物としての雑誌については意義なし」ということで了解の意思表示があり、それを受けて、前回の残りとして、その雑誌にかかる検察主尋問。以下は、そのうちで個人的に印象に残ったもの。

    • 被告人の自宅から押収した雑誌について。検察側は、捜査した警察官にそれぞれの雑誌の特定ページを示して、記事の内容を確認しようとするが、それが、その記事内容が、あたかも真実であるかのような証明をする問い方であったため、弁護側から異議。
    • 裁判所側からも、「どういう意図があって、この尋問をしているのかを明らかにするように」との指示がある。
    • これらに対して、「(押収した)雑誌にWinnyに関する記事、著作権法違反に関する内容の記事が存在すること、そして、被告人がそうした記事の内容を認識し得る状態にあったこと」を明らかにするためと、検察側が説明。
    • あとは、「ネットバルネットバム2002 vol.3」、「ディープネット」、「ネットランナー10」、「IP」などの雑誌名があげられ、それぞれ「Winny極楽入門」、「危ないファイルをガンガン落とせ」といった記事内容の存在を確認(※いずれもきちんと確認できたわけではありません。)。


■続いて、弁護人から、同証人に対する尋問。以下は、そのうちで個人的に印象に残ったもの。

    • 被告人宅のパソコンから京都府警のパソコンへのWinnyを使った送信実験について。
      • 「捜査着手時にバックアップをとったか」という問いに、「とっていない」と回答。
      • 「捜査着手時にパソコンとWinny2が起動していたのを、そのまま使用したか」との問いには、「そのまま使用した。ただし、途中で1回終了させた」と回答。
      • 「被告人のパソコンのネットワークシステムの詳細は」との問いには、「忘れた」。
      • 「プライベートアドレスは確認したか」に対し、「『確認くん』でIPを確認した」。
      • 「(送信実験中)キーロストによる切断が出たとのことだがナゼか」には、「わからない」とのこと。それに対して「原因は調べたか」と問いかけ、「調べていない」と回答。
      • そのキーロストによる切断は、50メガのデータを送るときに生じたとのことであり、結果、その50メガのデータは送信できなかった模様。
    • 押収した雑誌について。
      • 「部屋のどこにあったか」の問いに、「覚えていない」。
      • 「部屋はどのような状況だったか」に、「いろんなものが散乱して、、」、「足の踏み場もないということか」に、「そう」。「すぐ雑誌は目に付いたか」には「覚えていない」とのこと。
    • その他
      • 「IP」にはプライベートアドレスとグローバルアドレスがあるのは知っているか」に、「知っている」。「では、確認くんで確認したのはどちらか」には、「わからない」。


■以上のようなやりとりを経て、本日の証人尋問終了。検察側が、各種雑誌を証拠として提出することに。弁護側も「然るべく」。そして、それぞれを被告人に示して確認をとり、提出。


■その後、第2回公判、第3回公判にて尋問をうけた「H」氏と「F」氏が作成した実況見分調書*1等(報告書と題するものが含まれる。)を証拠として採用することについて、弁護側からの異議申立て。その内容はおおよそ以下のとおり(※【情トラ】の理解でまとめていることを特に注記しておきます。)。

    • 刑事訴訟法(昭和23年法律131号)は、捜査機関による差押、捜索又は検証(同法218条1項*2)の結果を記載した検証調書について、同法321条3項*3により、「その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したとき」に、証拠能力を認めている。
    • 対して、裁判所の発する令状がない実況見分調書については、同様に証拠能力を認める旨の規定がない。このことについては、検証調書が、裁判官の令状によって行うという形式をとったうえで作成されることにより、客観性・正確性が保障されるのに対し、実況見分調書は、あくまで任意に作成されるものであるため、捜査機関の主観が入り込まないという保障がないから、証拠能力を認められないとする見解もある。
    • (※【情トラ】補足…しかし、一般には、任意処分の結果を記載する実況見分調書であっても、実況見分は、居住者、管理者その他関係者の立会を得て行い、その結果を正確に記載しておかなければならない(犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則2号)104条2項*4)とされており、また、実況見分調書は、客観的に記載するように努めなければならない(同規範105条1項*5)ともされるので、刑事訴訟法321条3項の「検証の結果を記載した書面」の中に実況見分調書も含まれるとして、同項所定の手続によって実況見分調書に証拠能力を付与することができる、とされているようです。)
    • 今回、証拠として検察側が提出した実況見分調書等(報告書という旨の記載がなされている書類を含む。)は、その内容が次に掲げるとおり、客観的・中立的なものではなく、捜査機関の主観を多分に反映したものであるし、公訴事実にも何ら関係ないものが含まれるので、証拠として採用するべきではない。
      • 被告人のパソコン上に存置されたファイルの一覧表を、アダルトファイルに限って作成して報告しているものがあり、捜査機関の主観が入っている。
      • 被告人のパソコン上に存置されたファイルの一覧表を、「著作物にあたる」との法的見解を行ったうえで一覧表を作成して報告しているものがあり、少なくとも、その判断をなした者の証人尋問が終わっていない現段階では、採用すべきではない。
      • 被告人と著作権法違反正犯の弁護人とのメールのやりとりの記録については、公訴事実と何ら関係がないものである。
      • WinnyBBSのログをプリントアウトしたについても、書込み全てを証拠とするのではなく、当該書類作成者の主観的意図により、取捨選択した結果である。


■この申立てに対して、検察側は、理由がないものと主張。裁判所側は、一旦、合議するとして退廷。
■合議の結果、捜査責任者であるとされる「T」氏の証人尋問が終了するまで確認できないものについては、証拠採用を取り消すことに。その他は、採用を決定。それを受けて、検察側から証拠の要旨を説明。


■以上で、本日は閉廷となりそうだったのですが、平成16年11月16日(?)付で検察側から出された意見書の内容について、弁護側から反論するとのこと。その内容で、個人的に印象に残ったものは、おおよそ次のとおり。

    • 検察側からの意見書には、「検察側からの『立証方針について』との文書に対して、前回公判で弁護側が『ソフト開発者に無用の萎縮効果を与える』、『日本のソフト開発を阻害している』という旨の主張は、何ら証拠に基づかない抽象的な中傷である。」と主張されている。
    • しかし、この主張こそが、無神経な公訴をしていることを表すものである。「萎縮効果を与えていない」、「開発を阻害していない」と言うのであれば、どのようなソフトを開発することが法に違反するのかを明らかにすべきである。
    • 2ちゃんねる上で、被告人が書き込んだとする発言に基づき、著作権法違反行為を助長する意図がある旨を立証すると検察側が主張しているが、その発言がまだ特定されていない。たとえば、「47」との書込みであっても、それが被告人本人かどうかはわからず、全くの第三者の書込みであるかもしれない。きちんと特定してもらえないと、関係のない第三者の書込みによって、被告人が不利を受けることにもなりかねない。


■このようなやり取りがあったうえで、未確定ながら、次々回以降の公判日程の予定を裁判所から示して、閉廷。なお、次々回以降は、平成17年1月14日、2月4日、2月25日、3月18日のいずれも13:30〜17:00を予定しているとのことです。


■【情トラ】の感想
 ※本日の傍聴録は、最初に掲げた注意書きを特に注意してくださいね。

 感想なのですが、最後の弁護人側からの主張にもあったと思いますが、検察側は、おそらくは、「Winnyの開発行為ではなく、その公開・提供行為こそが、著作権法違反幇助にあたるのだ」としているようなのです(※コレも【情トラ】の個人的感想。)。
 「何が違法行為であるかについては、著作権法違反行為を増長させるという状況を認識しながら、あえてそのことを認容し、公開にいたったことである。 詳細については、立証段階で明らかにする。」といった趣旨の任意の釈明がなされていますし。
 ただ、ハッキリと「Winnyの開発行為は、違法行為ではない」なんてことは言わないわけで、非常にぼかしている感じで、「詳細については、立証段階で明らかにする」としているようなのです。そして、そのあたりのやり取りが、「ソフト開発者に無用の萎縮効果を与えているか否か」、「日本のソフト開発を阻害しているか否か」との対立につながっているようですね。


 「何をしたことが、著作権法違反幇助にあたるような公開・提供行為だったのか」が、今後の大きな争点になるのでしょうけども、「何をしたらいけないのか、どういう対策をとっていれば大丈夫なのか」といった基準が果たして明らかになるのか。判決文において、きちんと示されることになるのでしょうか?
 というか、いつごろ判決がでるのか?

*1:犯罪の現場その他の場所、身体又は物について事実発見のため必要があるときに、捜査機関が五官(目・耳・鼻・舌・皮膚)の作用で実験・認識する任意処分である「実況見分」の結果を記載した書面

*2:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる。この場合において身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

*3:検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。

*4:実況見分は、居住者、管理者その他関係者の立会を得て行い、その結果を実況見分調書に正確に記載しておかなければならない。

*5:実況見分調書は、客観的に記載するように努め、被疑者、被害者その他の関係者に対し説明を求めた場合においても、その指示説明の範囲をこえて記載することのないように注意しなければならない。