物権法/第14講 担保物権法概説

<1>もし、担保がなかったとしたら、どうなるのか、どうするのかを考えてみる。まず、考えられるのが、強制執行による債権回収である。この強制執行による債権回収には、「債権の存在」及び「債権の訴求*1」によって、債務名義(債権の存在・内容を公に認めた文書(例えば、債務者に対する給付判決など(民事執行法22条各号*2)))を取得することが必要となる。相手方がそれだけで債務を支払えばよいのであるが、支払わないときには、当該債務名義に基づき、債務者の責任財産*3を差し押さえ、強制的に競売にかけ、その売得金から債権を回収する強制執行が行われるのである。
■しかし、こうした強制執行による債権回収には、次のような問題点がある。つまり、そもそも、この債務名義を取得するのに、時間と費用がかかる(民事訴訟法382条*4以下)し、さらに強制執行を行ったとしても、債権者平等の原則*5により、債務者に十分な財産がない場合は、(個々の)債権者は完全には回収できないのである。

*1:「AはBに対して、○万円および約定利息、遅延損害金を支払え」といった判決

*2:強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。 一 確定判決 二 仮執行の宣言を付した判決 三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。) 四 仮執行の宣言を付した支払督促 四の二 訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。) 五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。) 六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決 六の二 確定した執行決定のある仲裁判断 七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

*3:債務者が負っている債務を支払うための引当て財産

*4:金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができる。ただし、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。

*5:同じ債務者に対して複数の債権者がいる場合には、すべての債権者は、その債権の発生時期や発生原因を問わず、債務者の責任財産から平等に弁済を受けるという原則