いまなぜ道州制か〜道州制とこれからの大都市制度のあり方〜

 地方分権シンポジウム。大阪市及び大阪市隣接都市協議会が主催。プログラムは、西尾勝 氏(国際基督教大学大学院教授)による基調講演と、阿部昌樹 氏(大阪市立大学大学院法学研究科教授)がコーディネーターを務められたパネルディスカッションの二部構成。非常にわかりやすく、現在における道州制の議論が理解できる(内容自体は、だいたいそんなトコロかなって感じではあったのですが。)とともに、イロイロと示唆というか、その話から派生したところで【情トラ】が思いついたことなどなどあり、いやーっ、有意義なシンポジウムでした。まあ、そもそも【情トラ】にとって、西尾 氏は、ある意味、よくその著書を読んだ方でありますし、阿部 氏も、これまた、非常に興味深い著作を拝読させてもらっている方ですので、期待どおりといってもいいかな。
※なお、以下はあくまで【情トラ】の個人的理解を含めたメモに過ぎないことをご留意ください。

 “いまなぜ道州制か”とのテーマは私がつけたものではない。私にとっては、しっくりとこない主題である。そもそも道州制の構想自体は、戦前からあった。名称は“道州制”であったが、その中身は変遷してきたのである。

 今日の“道州制論議も、その名称ではなく、その内容こそが着目されるべきである。つまりは、近時の地方分権改革を促進させるものであるならば、将来の目標とすることは異議がない。しかし、地方分権改革を後退させるものであるならば、意味がない。分権化の逆コースとならないように努める必要があるといえよう。

 これらの5つのパターンが考えられるのであるが、どの性格を持たせるかによって、中央集権と地方分権の分岐がなされることになる。国の出先機関的な性格を持たせると、明らかに中央府省が地方に対する指揮監督権限を留保しつづけることになり、問題があると言わざるを得ない。
 肝心なことは、国の事務を精査して、地方に変更したほうがいい、または、地方に変更しても支障がない事務に限って、道州に権限を移譲することである。そして、国の関与を極力減らして、自己決定を地方が行うことが要なのである。

    • 道州制移行の手続
      1. 関係都道府県の協議合意によるべきか
      2. 法律によるべきか

 区画割やブロック割の案は数々あるが、最終的にどのような区画割にするかについては、きわめて難しい問題である。なかでも、中部地方は極度に難しいと考えていなければならない。こうした状況のなかで、もし法律*1によって手続をすすめようとすると、国の出先機関的な性格をおびることになりかねない。法律によって一律に手続がすすめられるのではなく、関係都道府県の協議合意によって漸進的・弾力的に手続が進められるべきと考える。

    • 道州は、政府として全国同じ性格でなければならないか

 道州制は、全国一律の制度が導入されるべきではなく、標準型と特例型のような方式で、一国他制度を認めるべきであると考える。それも、ひとつの特例型ではなく、個々のケースにあわせて制度の多様化を許容する必要があるだろう。そのためには、憲法95条*2の適用や、地方に法案提出権を認めるなどの方策が必要になるのではないか。

 道州の最も大きな仕事は、大都市とその近隣都市との調整にあるはずである。それゆえに、大都市を道州から独立した存在とすることは考えられない。この大都市関連の問題は、京都・大阪・神戸がどのような枠組みとなるのかで方向性が異なってくることが予想される。


  • パネルディスカッション

 このパネルディスカッションについては、【情トラ】が個人的に(良くも悪くも)関心を抱いた発言を以下に列挙してみます。

    • 上からの画一的な道州制推進は反対であるが、分権改革をすすめるために、地方が自分たちで調整を行う下からの道州制推進には賛成である。
    • 人口減少、経済縮小、環境問題、危機管理問題、交通問題などは、広域行政による必要があると考えられる。
    • 地域の実情は、当然、地域に住む人が知っているのであるから、中央で意思決定するのではなく、地方で決定できるようにすることが大事である。
    • 地方分権に役立ち得るような受け皿としての道州制なら必要であるし、そのためには、住民からの声が求められると考える。現状では、国民的合意は全く存在しないと言わざるを得ない。
    • 上からの力なしにホントウに実現できるのかという疑問もある。ある程度すすめていき、一定の段階で法律化すべきとの考え方もある。
    • 集積の利益を考える必要がある。広域行政になると、一極集中が進むではないかとの議論があるが、しかし、それは市場のメカニズムにそった流れであり、今だって起きている現象である。その一極を点としてとらえるのではなく、広いひとつのエリアで括ればよいのではないか。
    • 官官分権だと言われないように、住民自治を充実させる必要がある。一律の制度で日本を覆い尽くしていくことは、最早できないであろう。よりローカルなイニシアティブを重視していく必要があると考えられよう。
    • 住民にとって、身近であり、基礎となる自治体は、やはり市町村である。

*1:地方自治法6条1項「都道府県の廃置分合又は境界変更をしようとするときは、法律でこれを定める。」

*2:一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。