【おべんきょ情トラ】身につくロースクール/憲法2

小選挙区制、②中選挙区制、③比例代表制について、それぞれの長所及び短所をまとめよ*1

summary
【1】代表の意義
「国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」(憲法前文)
「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」(憲法43条1項)
⇒このように「代表」が要請される理由は、次のとおり。
直接民主制は、現代国家の規模等から考えて不可能
②国民に立法等を行う能力がない
③分業により効率性・専門性を高める必要性
④統一的な意思形成をはかる必要がある
⇒しかし、憲法は、国政は国民の意思に基づいて行わなければならないとも要請する。


【2】選挙制度
(1)小選挙区制…選挙区の多数派によって当選者を独占させる多数代表法
⇒安定的な意思統一ができるとの利点。多様な意見を反映できないとの欠点。
(2)中選挙区制…選挙区の少数派にも当選者を出す可能性を与えようとする少数代表法
⇒多様な意見を反映できるとの利点。不安定な意思形成しかできないという欠点。
(3)比例代表区制…多数派と少数派の得票数に比例して当選者を出す可能性を保障しようとする比例代表
⇒代表を選ぶにあたって民意を忠実に反映することが期待できるとの利点。民意を忠実に反映するからこそ、不安定な意思形成・意思決定しかできないとの欠点。


【3】近時における選挙制度の問題点
 「代表の決定」と「国民の意思」に大きな差異があるとの問題がある。
⇒選挙では、多数派といえども過半数をとれるとは限らないにもかかわらず、政権運営又は政策実施の際には、過半数による合意を形成しないといけないことが原因。


【4】国民内閣制の構想
 国家が積極的に各種施策を講じる社会において。
①政治に強いリーダーシップが求められる
②内閣及び実行する政策プログラムが、国民の多数の明確な支持を受けることで正当性が付与されることが要請される
⇒選挙結果で過半数を決定することが求められ、国民が選挙を通じて「政策プログラム」と、その実行主体である「首相」を直接選ぶ「国民内閣制」という、「代表の決定」と「国民の意思」の差異を埋めるモデルの提唱。


【5】選挙制度の立案決定
 選挙制度は、それぞれ長所・短所があり、何を重視するかは、時代背景に応じて選択。
 選挙で選ばれた者が選挙制度を立案決定することを問題視する意見もあるが、重要な政治的な問題に対する立法府の責任放棄とみることができる。
選挙制度を立案し決定する際には、国民の意見を反映させるレファレンダム制度が導入されるべき。



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  • 1.代表の意義

 日本国憲法は、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」(憲法前文)すると規定し、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」(43条1項)と定める。つまり、国民が選挙によって代表者を選び、その代表者たる議員が国会において行動するとの「代表制」を採用しているのであるが、このように「代表」が、憲法において要求される理由については、次に掲げる4点が考えられる。
 まず、単純な問題として、「①直接民主制は、現代国家の規模等から考えて不可能である」ことが考えられよう。また、現実的な問題として、「②一般的に、国民には立法等を行う能力がない」こと、そして、「③効率面等から考えて、分業により専門性を高める必要性」があることも考えられる。さらに、最終的には「④統一的な意思形成をはかる必要がある」ことが理由として挙げられるだろう。
 しかし、憲法は、このような「代表」による決定ばかりではなく、そもそも国政は、国民の意思に基づいて行わなければならないとも要請する。それゆえに、ここにおいては、「代表による決定」と「国民の意思の反映」の両者が、いかにして適切なバランスをとることができるかといった問題が生じるのである。
 より具体的に考えると、日本国民個々人の意見は、もともと1億2,000万人もの意思があるのだから、それらが統合されることには困難が伴う。しかし、民主主義の基本は多数決であって、少なくとも過半数の賛成が求められる。その過半数を要求される意思統合のためには、国民個々人の意見から大なり小なり外れざるを得ないのである。このことが「代表による決定」の要請である。
 ただし、その決定の後には、きちんと国民を説得できなければならないということも重要視される。なぜなら、代表である議員にとって、次回選挙において再選を果たせるかという問題があるからである。このことが「国民の意思の反映」の要請である。

 それでは、その「国民」が「代表」を選ぶ場面である選挙には、どのような制度があるのか。
 まず、選挙区の多数派によって当選者を独占させる多数代表法がある。この多数代表法に基づく選挙制度として、具体的には小選挙区制がある。この小選挙区制は、安定的な意思統一ができるとの利点があるが、逆に、多様な意見を反映できないとの欠点を有する。また、議会の議席に反映されないという意味での死票が多いとの欠点も指摘されるところである。
 次に、選挙区の少数派にも当選者を出す可能性を与えようとする少数代表法がある。この少数代表法に基づく選挙制度として、具体的には中選挙区制がある。この中選挙区制は、多様な意見を反映できるとの利点があるが、反対に、不安定な意思形成しかできないという欠点を有する。また、中選挙区制においては、同じ政党の候補者同士が同じ選挙区で争うという構造となることにより、政党の存在が形骸化され、党の公約と個人の公約との差別化を余儀なくさせることも起こりうる。
 これら2つの制度は、「代表による決定」と「民意の反映」に関しては、それぞれが有する利点及び欠点が裏表の関係にある一方で、両者ともに、獲得した得票数と結果として当選した者の数に乖離があることという側面も指摘できる。つまり、多数代表法に基づく選挙制度においては、ある一定以上の票数を得た者であっても、その選挙区内で多数派でない場合には、当選できないことになる。また、少数代表法に基づく選挙制度においては、如何に多くの票数を得たからといって、それは1つの議席にしかならないということになるのである。
 そうした乖離を克服するために、多数派と少数派の得票数に比例して当選者を出す可能性を保障しようとするものとして、比例代表法がある。この比例代表法に基づく選挙制度として、具体的には比例代表制がある。この比例代表制は、代表を選ぶにあたって民意を忠実に反映することが期待できるとの利点があるが、民意を忠実に反映するからこそ、不安定な意思形成・意思決定しかできないとの欠点を有する。なお、いわゆる死票については、その制度趣旨からいってもほとんど存在しなくなることになる。

 以上のように、選挙制度には大きく分けて3つの制度があるのだが、そのいずれの制度を採用したとしても、選挙における最も大きい問題とは、いかにして最終的な意思を形成するかという問題である。特に近時においては、「代表の決定」と「国民の意思」に大きな差異があるのではないか、という問題がある。
 これは、選挙では、多数派といえども過半数をとれるとは限らないにもかかわらず、政権運営、政策実施の際には、過半数による合意を形成しないといけないことが原因となる。つまり、過半数が求められるからこそ、そこに妥協がうまれ、少数派が主導権を握る可能性がでてくるという問題なのである。このことは、特に比例代表制において、そして、中選挙区制においても、さらには、小選挙区制においても避けることが難しいとされているところである。
 まず、比例代表制においては、多数派と少数派の得票数に比例して当選者を出す制度であるがゆえに、そもそも統合されているとはいい難い民意を反映した結果として、過半数を超えるひとつの多数派が形成されがたい。それゆえ、政権をつくり運営していこうという際には、選挙後の国民が介在できないところで、政党同士で妥協し、合従連合がなされることになる。
 次に、中選挙区制においては、先述のように、党の公約と個人の公約とが差別化を余儀なくされることによって、そもそも代表の決定と国民の意思に差異が生じていると考えられる。また、たとえあるひとつの政党が過半数をこえる議員数を獲得したとしても、政党内政党である派閥が存在することにより、過半数を超えるひとつの多数派が形成されがたいことになり、それらが選挙後において、妥協しあい合従連合がなされることになる。
 そして、小選挙区制においては、大きな政党が2つ拮抗する傾向にあり、その場合において、それらの中間に位置する少数派が、堅固な組織票が見込める場合には、主導権を握ることが可能になる。

  • 4.国民内閣制の構想

 現在のような国家が積極的に各種施策を講じる社会においては、それら施策を行うに当たり、政治に強いリーダーシップが求められる。そのためには、内閣及び実行する政策プログラムが、国民の多数の明確な支持を受けることが要請されるのである。
 つまりは、選挙の結果で過半数の行方を決定することが求められているのであって、国民が選挙を通じて「政策プログラム」と、その実行主体である「首相」とを一体のものとして事実上直接選ぶという、議院内閣制の直接民主制的な運用形態である「国民内閣制」が、「代表の決定」と「国民の意思」の差異を埋めるモデルとして適当ではないかとも考えられる。
 ただし、内閣(首相)を国民の多数派が直接選ぶといっても、選挙が2つの政治プログラムのうち1つを国民が選択する形で争われることになるかどうかは予想できない。また、小選挙区制をとれば、第一党は通常40%前後の得票率で60%程度の議席を獲得するのに対して、第三党以下は切り捨てられる可能性があるため、国民の多数意思に支えられた内閣が誕生するという保証はないことなど、検討を深めることを要する問題も多く残されているとの指摘もある。

 選挙制度は、それぞれに長所・短所があり、どの面を重視するかは、それぞれの時代背景に応じて、様々な考え方を選択すればよいと考えられる。
 ここで、選挙で選ばれた者が選挙制度を立案決定することを問題視する意見もある。確かに、選挙制度を議員に議論させると、党利党略で、自らが当選しやすい選挙制度はどうなのかと考えてしまうことは否定できないであろう。しかし、だからといって、部外者に任せればよいかといえば、非常に重要な政治的な問題に対する立法府の責任放棄ともみなしうる。
 それゆえに、選挙制度を立案し決定する際においては、国民の意見を反映させうるようなレファレンダム制度等が導入されるべきと考えられるところである。

*1:この解答案は、【情トラ】が作成したものであり、その内容については無保証ですので、ご注意ください。