【おべんきょ情トラ】身につくロースクール/憲法3
政党が民主政治において重要な役割を果たしていることにかんがみ、政党助成金の交付を受けるためには「党首を党員の選挙によって選出しなければならない」との条件を法律で定めたと仮定する。この法律の合憲性について論ぜよ*1。
summary
【1】政党の結社の自由について
政党とは、政治上の意見を同じくする人びとが、その意見を実現するために組織する集団。憲法は、政党に直接言及しておらず、その根拠は、結社の自由(21条)とされる。
【2】政党の役割について
憲法は、議院内閣制を採用(憲法66条3項、67条等)しており、議会制民主政治のもとでは、政党は、その円滑な運営を支える存在であり、かつ、国民の政治意思を形成する媒体という不可欠な役割である。
【3】政党への規律の必要性について
(1)政党は私的団体→政党の自治活動の自由等が保障されるべき。
(2)政党が国家の意思形成等に中心的な役割を果たし、政党自体が権力を行使。
(1)が原則であるが、(2)ゆえに、政党への規律は、国家権力の抑制との観点から必要。ただし、公的地位の賦与が伴ってはじめて抑制が必要と考えるべきであり、政党の結社の自由と調和する範囲内であることが求められる。
【4】政党に対し、国家が政党助成金を交付することは可能か。
政党助成金の交付は、政党を国家機関化にもつながりかねない。
⇔当該政党の経済的基盤を確立させ、政治活動の健全な発達の促進が期待できる。
⇒政党に対する、国家の政党助成金交付は合憲と解しうる。
【5】政党助成金交付を受けるため「党首を党員の選挙により選出しなければならない」との条件を法律で定めることは、政党の結社の自由と調和する範囲内での規律であるといえるか。
「党首を党員の選挙によって選出しなければならない」との条件は、当該政党の結社の自由を損ねるとは考えられない。
①そもそも政党とは、その運営において民主主義的要請が大きく求められる団体。
②ある特定の政党に限って特別の制限を行う趣旨ではなく、逆に、ある特定の政党に限って特別の利益を与える趣旨でもない。また、政党結社に際しての規律でもない。
⇒「党首を党員の選挙によって選出しなければならない」との条件を法律で定めることは合憲であると解しうる。
text
- 1.政党の結社の自由について
政党とは、政治上の意見を同じくする人びとが、その意見を実現するために組織する集団である。日本国憲法には、政党について直接言及するところはなく、その存在の憲法上の根拠は、結社の自由(憲法21条)だとされる。そのため、政党を国家機関としたり、あるいは特別の制限や禁止の対象とすることは許されない。
つまり、政党には、その他の一般の結社の場合と同様に、政党の結成・不結成の自由、政党への加入・不加入の自由、党員の継続・脱党の自由、政党の自治活動の自由が保障されると解されるのである。
- 2.政党の役割について
また、政党の憲法上の位置づけとしては、確かに政党に関する規定がないが、憲法が議院内閣制を採用していること(憲法66条3項、67条等)から、政党の存在を当然に予定していると考えられる。
さらには、国民の自由な言論及び結社活動を前提にして、普通選挙制によって国民の多様な意思が議会を通じて国政に反映されるという議会制民主政治の下では、政党は、その円滑な運営を支える存在であり、かつ、国民の政治意思を形成する媒体という不可欠な役割を果たしているともいえるのである。
しかし、政党の機能が以上のように非常に重要であるからこそ、政党の活動等の自由が無制限に認められうるかについては疑義があるところである。
- 3.政党への規律の必要性について
現代社会においては、市民生活のあらゆる場面に、行政が関わっており、その役割は非常に大きなものとなっている。そして、そうした行政の活動内容等を決める国家意思の形成に関わるのが政党である。
また、国民が直接に行政執行者を決める大統領制と違って、議院内閣制が採用された結果、国会内で過半数を獲得する政党が内閣の組織を決める現状であることからも、政党自体が権力を行使するようになったともいえよう。
そもそも政党は私的団体であり、政党の自治活動の自由等が保障されるべきである。しかし、上述のように、政党が国家の意思形成及び政策決定に中心的な役割を果たしていることからすれば、憲法上に積極的な根拠規定がないとはいえ、法律で政党に一定の公的地位を与えることが、憲法によって全面的に禁止されていると考える必要はない。そして、このような場合においては、政党への規律が、国家権力の抑制といった観点から必要になると考えられるのである。
ただし、その規律とは、原則として、公的地位の賦与に伴うものであり、政党の結社の自由と調和する範囲内であることが求められるであろう。政党に公的地位を認めるのであるならば、その政党をまったく私的な性格の団体のままとしておくことこそが許されないと考えられるからである。
以上を踏まえて、本問に含まれる問題を順次検討することとする。
- 4.政党助成金について
まず、政党に対し、国家が政党助成金を交付することは可能か。
このことについては、政党助成金の交付は、当該政党に対して公的地位を賦与することに他ならないと考えられよう。それゆえ、政党を国家機関化にもつながりかねないが、別の観点からは、国家による政党への政党助成金の交付は、当該政党の経済的基盤を確立させるものである。したがって、政治活動の健全な発達の促進させることが期待できるものであって、民主政治の健全な発展に寄与すると評価でき、こうした政党助成金の交付の目的は達成されるべきだと考えられるものである。
なお、もし政党助成金を交付しても、当該政党を全くの私的団体だとすれば、公金その他の公の財産の支出等に関する憲法89条の規定に反するとも考えられるところである。
よって、政党に対し、国家が政党助成金を交付することは合憲であると解しうる。
- 5.交付条件の法制化について
次に、政党助成金の交付を受けるためには「党首を党員の選挙によって選出しなければならない」との条件を法律で定めることは、政党の結社の自由と調和する範囲内での規律であるといえるか。
このことについては、確かに、政党にはその自治活動の自由等が保障される。しかし、政党助成金の交付は、その原資は公金なのであって、政党の結社の自由と調和する範囲内での国家からの規律は認められて然るべきであろう。
そして、この「党首を党員の選挙によって選出しなければならない」との条件は、当該政党の結社の自由を損ねるとは考えられない。なぜならば、そもそも政党とは、「国民の政治意思を形成する最も有力な媒体」なのであって、立憲民主主義を標榜する我が国にあっては、その運営において民主主義的要請が大きく求められる団体だからである。
また、この条件は、ある特定の政党に限って特別の制限を行う趣旨ではなく、逆に、立法に係る大きな影響力をもつ大政党が小政党を侵害する手段となるような、ある特定の政党に限って特別の利益を与える趣旨でもない。そして、政党助成金の交付を受けるための条件であって、政党結社に際しての規律でもない。
- 6.本問が仮定する法律の合憲性について
以上により、本問が仮定する法律の制定は、政党の結社の自由と調和する範囲内の規律の制定にとどまるものと解され、ゆえに合憲であると考える。
*1:この解答案は、【情トラ】が作成したものであり、その内容については無保証ですので、ご注意ください。