【おべんきょ情トラ】身につくロースクール/憲法4

国会が「国権の最高機関」であることと、内閣が「国務の総理」を行うことの関係について、整理しなさい*1

summary
【1】従来からの権力分立原理を基にした国会と内閣の関係
(1)憲法41条は、国会が「国権の最高機関」と定める。
 ①立法権と行政権は抑制均衡関係でなければならない。
 ②国会は、内閣や裁判所に優越的な地位をもつ機関ではない。
 ③国会を称する「最高機関」とは、政治的な美称に過ぎないとする。
(2)憲法73条1号は、内閣が「国務を総理する」と定める。
 ①狭義の行政である法律執行作用のみについて総理する。
 ②国政全般に関する作用を示すわけではない。
 ③法律執行作用に限るとする。
 以上のような国会と内閣の関係の理解は、その両者の役割を、それぞれ国会の法制定と内閣の法執行に分立させ、相互に抑制させる権力分立原理に基づくもの。
⇔そうした理解は、国民生活に行政が積極的に関わる現代では十分といえるか。


【2】国民主権を基にした国会と内閣の関係
 憲法は、国民主権を基本原理として採用している。
⇒国民の意思が反映される内閣と国会の関係を成立させる要請。ただし、国民主権といっても、通常、国民が行うのは代表者の選挙に限られる。よって、国会と内閣の関係も、国民が選挙で間接的に表明した意思を基礎に、代表者が国民のための政治を行っていくメカニズムとして理解する必要。
⇒国民が選挙において、国会の代表を選ぶと同時に、内閣とその政策を実質的に選ぶことによって、国民による国民のための政治が行われることが期待される。
→国民の意思を反映した内閣は、官僚による「行政」をコントロールし、政治目的の実現に向けて立法や政策作成を主導することを内容とする権限を有する。


【3】「国権の最高機関」及び「国務の総理」の理解について
 【2】の国会と内閣の理解は、国政における中心的な役割は内閣が果たすべきとの見解につながるか。
(1)国会に主導権を求めることは、困難だと考えられる。
 ①国会が会期制をとっていること
 ②国会が多元的構造をとっていること
 ③法制定による一般的・抽象的な規律になじまない活動や、法制定の性格を持たない総合的な政策立案等において主導権が求められること
(2)ただし、内閣が国務の適当な方向を示すにおいて積極的に主導権をとるべき立場にあるが、その政策を現実化する上で国会が決定的な役割を担っているといえる。
⇒<1>内閣は、政策立案等に主導権をもつという意味で「国務を総理する」。
 <2>国会は、その内閣を監視し、政策執行に際し法制化する権限をもつという意味で「国権の最高機関」として存在する。
⇒こうした両者の関係は、それぞれが国民の意思を反映させるという、国民主権が政治の基本原理として採用されていることをふまえたもの。



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  • 1.従来からの権力分立原理を基にした国会と内閣の関係

 憲法第41条は、国会が「国権の最高機関」であると定める。この規定が意味するところは、国会と内閣の関係のみに着目した権力分立原理が説かれる場合、立法権と行政権は抑制均衡関係でなければならないとして、「最高機関」の意味を法的なものとは理解しないこととされる。つまり、国会は、内閣や裁判所に優越的な地位をもつ機関ではなく、国会を称する「最高機関」とは、主権者国民を代表することにより国政の中心に位置する重要機関ではあるが、政治的な美称に過ぎないとするのである。
 また、憲法第73条第1号は、内閣が「国務を総理すること」を行うと定める。この規定が意味するところも、国会と内閣の関係のみに着目した権力分立原理が説かれる場合、狭義の行政である法律執行作用のみについて総理することとされる。つまり、内閣は、「国務を総理」するといえども、それは、国政全般に関する作用を示すわけではなく、あくまで国会との抑制均衡関係から、法律執行作用に限るとするのである。
 以上のような国会と内閣の関係の理解は、その両者の役割を、それぞれ国会の法制定と内閣の法執行に分立させ、相互に抑制させる権力分立原理に基づくものである。しかし、そうした両者の関係の理解は、国民生活のあらゆる場面に行政が積極的に関わる現代において、果たして十分といえるか、疑義があるところである。

 日本国憲法は、国民主権を政治の基本原理として採用している。そのことをふまえて国会と内閣の関係を理解しようとすると、両者が分立し抑制均衡するだけではなく、国民の意思が反映される両者の関係を成り立たせる必要があると考えられる。ただし、国民主権といっても、代表制を基本とするため、通常、国民が行うのは代表者を選挙することに限られている。国民は、国会議員を選出する選挙を通じて、間接的に自分たちの求める政策意思を表明するわけなのである。したがって、国会と内閣の関係も、国民が選挙で間接的に表明した意思を基礎にして、代表者が国民のための政治を行っていくメカニズムとして理解する必要があると考えられる。
 この考え方によると、国会と内閣の関係は、単なる分立した均衡抑制関係であるとはいえなくなる。つまり、国民が選挙において、国会の代表を選ぶと同時に、内閣とその政策を実質的に選ぶことによって、国民による国民のための政治が行われることが期待されるのである。この場合において、国会と内閣は、国会の過半数を占める与党とその支持を受けた内閣という協力関係が築かれるといえよう。そして、そのような国民の意思を反映した内閣は、官僚による「行政」をコントロールし、政治目的の実現に向けて立法や政策作成を主導することを内容とする権限を有する。
 実際の問題として、行政のなかにおいては、狭義の行政である法律執行だけではなく、国会の法制定による一般的・抽象的な規律になじまない活動や、法制定の性格を持たない総合的な政策立案、またはその見直し等がなされている。これらの活動に対して、従来の国会の法制定と内閣の法執行に分立するあり方では、国会及び国民は何ら関与できなかったといえる。そうした弊害を打破するために、国民の意思に基づく内閣を組織させることで、当該内閣に行政の総合調整を行わせ、国会をもって監視させる関係が考えられるところなのである。
 具体的には、内閣が、特定の事項の立場又は国務事項全般の立場から適当の方向を決定し、各主任の大臣は内閣の決定に従って行政各部を指揮するといった積極的な総合調整がなされることになる。これらの根拠は、たとえば、内閣の重要政策に関する基本的な方針及び閣議に係る重要事項に関する企画及び立案並びに総合調整を担う(内閣法12条)と定められていることにある。国家が行う行政施策に関する総合調整権限が、内閣に与えられていることは明らかだといえるのである。

  • 3.「国権の最高機関」及び「国務の総理」の理解について

 このような国会と内閣の理解は、内閣をして国政における中心的な役割を担わせるのかといった疑問が生じるようにも思われる。
 そもそも、国会に国政の場において積極的な主導権を求めることは、困難を伴うと考えられる。これは、国会が会期制をとっており、常時開会されているものではないこと、また、国会が多元的構造をとっていること、そして、何より上述のように国会の法制定による一般的・抽象的な規律になじまない活動や、法制定の性格を持たない総合的な政策立案等が、国政の場における積極的な主導権が求められるものであることが理由とされる。それゆえ、内閣のほうが、そうした場面において、積極的な主導権を握るにふさわしい機関であると考えられるのである。
 ただし、国政においては、内閣が政策を決定したとしても、それをどう執行していくかという問題がある。特に、その政策を現実に執行するにあたり、国民に対して強制が伴う場合には、法律の制定が必要とされる。つまり、国政の場において、内閣が国務の適当な方向を示すにおいて積極的に主導権をとるべき立場にあるが、その政策を現実化する上で国会が決定的な役割を担っているといえるのである。
 以上から、内閣は、政策立案等に主導権をもつという意味で「国務を総理する」といえる。そして、国会は、その内閣を監視し、政策執行に際し法制化する権限をもつという意味で「国権の最高機関」として存在するといえる。このような両者の関係は、それぞれが国民の意思を反映させるという、国民主権が政治の基本原理として採用されていることをふまえたものなのである。

*1:この解答案は、【情トラ】が作成したものであり、その内容については無保証ですので、ご注意ください。