「知事多選制限の条例化を!」に対する私的指摘意見

 神奈川県知事である松沢成文さんのblogに掲げられた次のエントリ。
http://matsuzawa.cocolog-nifty.com/blog/2006/01/post_dd92.html


 この「首長多選制限の条例」に対して、先般、私が個人的にながらも、次のエントリにまとめていた意見を改稿したうえで、TrackBackさせていただくこととします。
自治体の首長の多選自粛(または多選禁止)を定める条例について - 【情トラ】附゛録゛

  • 「多選自粛」条例に対する私の評価

 最初に、松沢知事が提案される「多選自粛」条例の制定に対する私の評価を示します。
 これについては、個人的には「いわゆる『多選自粛』条例は、条例として定めるようなものではない」と考えています。
 ただし、何も「知事多選自粛を内容としていること」をもって、「条例として定めるようなものではない」と考えているわけではありません。どのような内容であれ、「努力規定しか定めない条例」は、本当に条例として定めるべきものなのであろうか、という疑問に基づき、そのような評価といたしました。
 つまり、「多選しないように努める」旨は、知事と住民が「公約(=マニフェスト)」として合意すれば、それで済む話であるはずと考えているわけです。
 確かに、「知事の多選による弊害を防ぎ、清新で活力のある県政を確保する」必要性も考えられなくはないでしょう。その意味では、松沢知事の「強大な権力を持つ知事や首相などの『多選制限』の制度化は、私の政治家としての信念」には賛同したいと思います。

  • 多選弊害に対する「地方自治法81条の要件緩和」の提案

 それでは、「多選自粛」条例のほかに、強大な権力を持つ知事の多選制限を制度化する方法は考えられないのでしょうか。このことについて、ひとつの私案を提示したいと思います。
 その私案とは、憲法に掲げられた「地方自治の本旨」に適うであろう、「より住民が能動的に活動できるように」との考え方に基づくものであり、具体的には「地方自治法81条に掲げられた要件の緩和」というアイデアです。
 そもそも知事を誰に任せるかということは、基本的に住民の選択に任せるべきことだと考えます。しかし、現状として、その選択の機会は4年に1度しかありません。たとえば、多選によって知事と議会との関係に馴れ合いが生じてしまった場合には、住民からすると、4年という期間は少し長すぎるような気もするところです。
 「地方自治法81条に掲げられた要件の緩和」というアイデアは、そのような場合において、選挙という手段のほかに、住民に「知事を解職する権限」を、もっと実効的に手続的保障してよいのではないかといった考えに基づくものです。
 地方自治法81条は、次のように「住民による知事のリコール権限」を定めています。

地方自治法
第81条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の3分の1(その総数が40万を超える場合にあつては、その超える数に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
2 第74条第5項の規定は前項の選挙権を有する者及びその総数の3分の1の数(その総数が40万を超える場合にあつては、その超える数に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数)について、同条第6項から第8項まで及び第74条の2から第74条の4までの規定は前項の規定による請求者の署名について、第76条第2項及び第3項の規定は前項の請求について準用する。

 現実問題として、いかに弊害が認められるようになった知事であれ、住民が「その総数の3分の1以上の者の連署」を集めることは相当に困難だといえます。しかし、この「総数の3分の1」という要件を緩和するとしたらどうでしょう。
 たとえば、多選という定義に該当することとなった知事に対しては、この81条1項に掲げる「3分の1」という要件を「5分の1」なり、「10分の1」なりに緩和するだけで、連署が集まる可能性が格段に高まります。その可能性の高まりは、知事に対して通常以上の緊張感を持たせる効果があるのではないでしょうか。
 それでも、まだ、この直接請求には高いハードルがあるとも考えられます。その場合、もうひとつのアイデアとして、地方自治法74条1項の規定と同様な規定を設け、「住民からの発議に基づき、議会に知事解職に関する審議を義務付け、可決となれば知事を解職できる」という手続を創設することも考えられます。
 この場合、たとえば、多選という定義に該当することとなった知事に対しては、この74条1項に掲げる「50分の1」という要件を「100分の1」なりに緩和することもありうるでしょう。

  • 最後に

 以上の提案に関しては、当然ながら、これらの手続又は権限が、常に行使されなければならないというわけではありません。このような手続又は権限が、住民に保障されていることこそ最も肝要とされる点だと考えています。
 要するに、これらの手続又は権限が整備されることにより、住民がより能動的主体的に活動できうるきっかけともなれば良いのではないか、という思いからのアイデアであるわけです。
 確かに、「多選自粛」条例もひとつのアイデアではあります。しかし、そこには「住民主体の視点」があるのかどうか、私にとっては明らかではないのです。
 なお、これらの私案は、原則として、地方自治法の改正が必要となります。それゆえに実現への道程も遠いのかもしれません。ですが、こうした改正が実現したとき、さらには、この定数要件を各々の地域・自治体で条例制定できるようになったとき、そのときは、何らかのかたちで「地方自治の本旨」を充実化できる手続が整ったと評価されうるときなのではないか、と個人的に想っているところです。