法政策分析/政策客体としての司法−裁判における専門的知識の利用
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- 渡辺千原「医療過誤訴訟と医学的知識−因果関係の専門性を手がかりに−」立命館法学271・272号(2000年)pp.1792-1820
- 棚瀬孝雄「裁判における社会科学の利用」棚瀬孝雄『訴訟動員と司法参加―市民の法主体性と司法の正統性』(岩波書店・2003年)pp.221-291
<個人的memo>
- ① 個別事件の法的紛争解決のために専門的知識を利用する場合
- 基本的には、「事実の認定」段階において、専門的知識の利用が求められる。
- しかし、この「事実の認定」とは、多くの場合、それが「客観的真理」ではなく、あくまで専門家が行った「主観的評価」の結果であることに注意が必要である。
- それゆえに、「どういう結論であるか」という専門知識だけではなく、「どういう過程で結論に到達するのか」という専門家のプラクティスの中核部分の情報をも、審理のなかに取り入れることが必要となる。
- ② 未来志向的な法解釈のために専門的知識を利用する場合
- 基本的には、「複数の可能な法解釈の列挙」及び「その各法解釈の評価」段階において、専門的知識の利用が求められる。
- しかし、この「未来志向的な法解釈(及びその評価)」とは、多くの場合、それが「紛争当事者」だけに影響を及ぼすものではなく、「当事者以外の第三者」にも大きく影響を与えることに注意が必要である。
- それゆえに、「適切な結論を得る」ための専門知識だけではなく、「結論を導くまでの過程を充実することによって正当性を引き出す」ために、専門家が参加し(意見を提出し)、それらを審理する過程も必要となる。
- 参考として
- 「参加という概念には、決定を行う者が誠実に応答するということを本質的に含んでいる。当事者の参加がお互い根拠をあげて主張の正しさを説得するという形で行われるところでは、応答も、どのようにその主張に説得されたかを示すという形で行われることになる。その説明が丁寧に行われることによって、当事者は、決定が恣意的に行われていないか批判的に吟味できるし、逆に、決定を行う側でも、そうして説明しなければならないという負担があることによって、当事者の理詰めの説得に注意深く耳を傾けることにもなるのである。さらに、この当事者の説得は相手方にも向けられていて、裁判官が説得される過程は、そのまま、完全な説得とはいかないまでも、自ずから妥当な判断が当事者にも見えてくる過程である」(棚瀬「訴訟動員と司法参加―市民の法主体性と司法の正統性」pp.238-239)。