市民裁判員先行記第36回/Winny事件第19回公判
京都地裁。Winny開発者が被告人となった、著作権法違反幇助に係る事件。第19回公判に傍聴に行ってきました、今回も最初から最後まで。
■傍聴前について
- 12:30ごろ 地裁到着。いつもより早め。
- 13:20頃 入廷開始。カバンを預け、身体検査(ポケットにモノが入ってないかどうか程度)後、101号法廷に。なお、101号法廷は、裁判員法廷として使用されるべく、改修されていました。
- 13:30 開廷。
■この傍聴録は、【情トラ】の個人的なメモをまとめたものであり、全てを再現できているわけではモチロンありません。また、【情トラ】の手による編集(表現簡潔化など)も加えておりますし、時には実際に発言されていないにもかかわらず、【情トラ】が理解した(思い込んだ)ものを勝手に付加しまっているトコロもあるかもしれません。さらには、私の理解不足や事実誤認なども、必ずあるはずです。と、イロイロと但書がありますので、その旨ご留意されるようお願いいたします。
■なお、これまでのWinny(ウイニー、ウィニー)事件公判傍聴録/【情トラ】まとめ(概要も含む。)は、次に掲げています。ご参考まで。
◆【おっかけ情トラ】市民裁判員先行記 - 【情トラ】附゛録゛
今回の前半部分は、弁護側が請求した証人尋問です。後半部分では、検察側から提出された証拠の採否決定をめぐって。この後半部分の内容は、ある程度まとめて記載します。
■はじめに、裁判長から、「開廷します。本日は証人調べを先にします」とされたうえで、検察官請求証拠の採否決定について、「乙1号証ないし3号証、5号証、7号証、8号証、11号証ないし13号証を採用します」とのこと。
これに対して、弁護側からは異議がある旨の申立て。しかし、裁判長からは、「後ほどまとめて申立てを」とのこと。
そして、証人尋問に際して、裁判長から検察官に対し、弁護側請求証拠の弁30号証以下について同意・不同意の確認。検察官からは「弁30号証については同意。31号証以下は事前開示を受けていないので検討します」とのこと。
裁判長が「それでは、」として、本日の証人尋問が開始。
◆証人に対する弁護側からの主尋問
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))お仕事について。学校法人慶應義塾常任理事、慶應義塾大学環境情報学部教授で、インターネットに関する研究、教育をされており、Wide Project代表、内閣のIT戦略本部員、JPNIC理事などを務められている
- (証人(特に注記がなければ、以下同じ))はい
- 経歴ですが、(略します(村井純 - Wikipediaなどを参照してください))、「日本におけるインターネットの父」とも言われている
- はい
- Winnyは知っているか
- はい
- いつごろ知ったか
- 平成14年5月ごろに、学生や同僚から教えられた
- どのようなタイプか
- 中央の管理がないP2P
- いわゆる純粋型か
- そうである
- あなた自身が使ったことは
- はい。実験として
- どんな感想をもったか
- 基本的に、上手に動く、洗練されたソフト
- 講義でとりあげたことはあるか
- はい。私の講義はインターネットで全て公開されている
- 弁30号証を示します。「ネットワークアーキテクチャ」という講義において、「アプリケーションアーキテクチャ」との内容でとりあげている
- ※ lbg[NA[LeN` æ10ñ(2002/12/16) uAvP[VA[LeN`v
- cf. lbg[NA[LeN` æ10ñ(2003/12/15) uP2PÆI[oClbg[Nv
- はい
- (講義でとりあげるような)学術的意義があったのか
- はい
- どのような点が
- 「Winnyの技術」は読んだか
- はい
- その内容は、先生の認識と合致していたか
- はい、おおむね
- 弁15号証(※「Winnyの技術」のこと)を示します。ファイルをキーとボディにわけて行う検索の仕組みについて、どのように評価されるか
- 2つを同時に流通させていると大きな情報量になる。識別子と本体を分離するのは、一般的に自然な技術である
- 弁15号証、57ページから62ページ、68ページから71ページ、89ページから98ページ、102ページから110ページ、119ページから121ページを示します。階層型ネットワークについて記述されているが、ご存知か
- はい
- (この内容は)どのように評価できるか
- 階層型ネットワークは一般的に大きな規模のネットワークを制御する技法であり、合理的な方法である。一般的にネットワークは大規模な利用にたえられるか、というところが重要である(?)
- (この内容は)どのように評価できるか
- 効率よく情報の共有や移動をはかることができる。グルーピングして効率化をはかる技術のひとつとしてのクラスタリングである
- 62ページから65ページ、73ページから76ページ、112ページから116ページ、121ページから135ページ。ファイル転送について。これらの記述は先生の認識と合致しますか
- はい
- 74ページから75ページに、ファイルを何ブロックかに分け、ブロック単位での転送という仕組みについて書かれている
- パケット交換という技術。効率が良くて、コストが下がるもの。情報社会の基盤となる技術であり、きわめて合理的で自然な技術である
- パケット交換という技術のメリットは
- 高速道路とのアナロジーでいわれることが多い(?)。デジタル情報を移動させるとき、途中で欠落や変化があっても、データが断片化されていれば、全体を再送する必要がない。安全な方法である
- 75ページ、127ページ。多重ダウンロードの機能について
- 時間の変化やデータの多様性に応じて、最適な方法を探るもの。トラフィック・エンジニアリングという技術で、動的な方法である(?)
- 112ページ。キャッシュの仕組みについて
- ある情報を取得するときに、もとのところにとりにいかずにすませる方法。きわめて一般的な技術であり、パソコンのCPUの内部や、メモリ、ハードディスクにも、ネットワークにも、テレビにも、デジタル情報が移動するときに、キャッシュがあらゆるところで使われている
- Winnyの効率化もそうか
- キャッシュの技術であり、性能のいいキャッシュのデザイン、洗練された技術
- 中継機能について。Winnyではキャッシュが自然に分散されるようにしているが
- インターネットそのものが多数の中継ノードのつながりである(?)。インターネットの一部であるオーバーレイネットワークとしてのWinnyネットワークにも中継機能があることは合理的(?)
- Winnyは第一発信者の匿名性を確保するようされているが
- 情報システムにおいてプライバシーを守ることは重要なことであり、情報共有のシステムのなかで追求していくべきこと。また、プライバシーの保護だけではなく、電子投票などへのいろいろな応用のなかで必要とされる(?)
- P2Pに基づく他のソフトとWinnyを比較すると
- いくつかあるが、ひとつは大規模な情報基盤における性能に関する洗練された技術。これは利用者へのメリットだけではなく、情報ネットワークのひとつの基盤としてそのようなアプリケーション(の性能の向上)は、ネットワーク全体の性能があがることにつながる(?)
- 冒頭陳述において検察側は、「Winnyは専ら著作権法違反を助長するような機能をもつ」と指摘している
- 効率のいいキャッシュのメカニズムがあることと、それがどのように使われるかは結びつけることは、理解ができません
- 同じく冒頭陳述において、著作権法違反を助長する機能として、キャッシュ機能と暗号化機能をあげている。つまり、故意にアップロードした者の匿名性を確保していることや、自らが意識することなく中継地点としてキャッシュを送受信を行うことなどが、著作権法違反を助長する機能だとしている(?)。これは正しい理解か
- そうは思いません
- どのように理解できるか
- 「World Wide Web」の一般的な性格であり、そのことが助長する機能だとは思いません
- アップロード量に応じてダウンロード枠がひろがるという機能が、著名なファイルの流通を促すものだという指摘がある。この理解は
- 人気のある著作物を流せばダウンロード枠が増加すると考える利用者と関係があるか(?)
- (関係があるとは)思いません。「効率性をどのように実現するか」と「どのように使っていくか」は全く別のこと。私には理解できません
- キーワード機能で、ファイルの発見やアクセスを容易にしているということについては
- テレビ番組でも最近は「EPG(Electric Program Guide)」という技術がある。このことが著作物に関する利用と関係するとは思わない
- 被参照量の閲覧機能、つまり、ファイルがどれだけダウンロードされたかをメガバイト値で表す機能について
- よく観られるとか、よく買われるといった値であり、ショッピングサイトでも一般的にある技術。著作物の違法な流通を促すということは関係ないと思う
- 先生が技術者として考えた場合、著作権法違反を助長するような機能はひとつも含まれていないと考えるか(?)
- 私はそのように理解している
- Winnyの客観的機能から、被告人の意図はどのようなものと考えられるか
- どれも情報を効率よく共有・移動させる機能をもったアプリケーションソフトであって、特定の利用に関して結びつくというようには考えていない
- (弁護人)利用者の一部が著作権法違反となるような利用をしている
- (検察官)異議。誤導です。一部ということの根拠を示してください
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))利用者が著作権法違反となるような利用をしている、そういった例もありますよね。流通させるソフトウェアでそのことを自動的に防止することは技術的に可能か
- (証人(特に注記がなければ、以下同じ))不可能である。著作物かどうか、また、作者がどのような意図をもっているのか、などを判別する一般的な方法を私たちはもっていない
- 利用者がどう使うかということになるのか
- 暗号化をあらかじめ利用したりなど。インフラストラクチャー側では不可能
- 情報を流通する人間側で何らかの手立てをするしかないということか
- はい
- (「Winnyの技術」の)137ページに、無視フィルタ機能について記述がある
- はい
- このような機能以外に、何らか方法が考えられるか
- 私は考えられません
- 第13回公判の速記録によると、Kさん(イニシャル表記とします)は、「(Winnyの利用の際に)ファイル名で検索しているから、流通するファイルの傾向に影響を与えている」という旨の証言をしている
- ※市民裁判員先行記第28回/Winny事件第13回公判 - 【情トラ】附゛録゛
- ファイル名が影響を与えるということは正しいか
- ファイル名は小さな定義域でしかなく、また、ファイル名は自由自在に付けられるので、中身との関連を一般的に理解できるかは別である
- また、Kさんは、「拡張子を含めて、ファイル名でフィルタリングを行う方法があるのでは」という旨の証言をしている
- 拡張子を含めて自由自在につけられるから、内容に関わる防止にはならない
- Winnyの開発手法について。利用者の要望を取り入れてヴァージョン・アップする手法は、特殊なものなのか
- 優れたソフトウェアの開発手法である。ソフトウェアは人と社会のために用いられるものであり、人と社会が物差しとなる。そのため利用者からのフィード・バックを取り入れ、ヴァージョン・アップがなされることは、安全で使いやすいソフトへと自動的に成長、発展していくことにつながる
- こまめにヴァージョン・アップを行っていることは
- 優れた手法
- 被告人の逮捕、起訴によって、他の技術者への影響はあるか
- あると思います
- どのような
- P2Pの概念は非常に重要なものである。その研究・開発にブレーキがかかったと感じている
- 「Aerie」の開発中止は
- 知っている
- (弁護人)弁24号証を示したいが、どうでしょう
- (裁判長)まだ不同意のもの
- (検察官)示すのはどうぞ
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))添付の記事の部分、Aerieの開発中止について
- (証人(特に注記がなければ、以下同じ))このようなことが起こってしまっていることには残念に思っている
- 情報通信の基盤の効率化を図ることと、それをどのように使うかということは結び付けられるべきではない
- Winnyは、情報通信の基盤の効率化を図るソフトか
- その一部を形成する重要なアプリケーションであり、インフラストラクチャー
- インフラの開発・提供やそれを運用することと、そのインフラをどのように利用するかはそれぞれ分けて考えるべき
◆弁護人がかわって、証人に対する主尋問の続き
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))聞き逃したことなどをまず最初に。弁15号証(※「Winnyの技術」)の77ページにオーバーレイネットワークとある。先ほどからのオーバレイネットワークとはこのことですね
- (証人(特に注記がなければ、以下同じ))はい
- 利用者が暗号化するとは、アップロードするコンテンツ側がということか、ダウンロード側がということか
- 著作物をもつ送信者がそういった技術を用いることができるということ。それが、著作物管理の一般的なあり方だといえる
- 甲34号証、68号証を示します。正犯とされる方のパソコンと京都府警側のパソコンとのファイルの送受信実験を示す図がかかれている。これを見てどう思うか
- (これでは)つながりません。IPアドレスが間違っている。プライベートアドレスとグローバルアドレスが書かれているが、これではパソコン同士は通信可能であるが、ルータとつながることはできない
- (弁護人)弁19号証を示すことは
- (検察官)ああ、どうぞ
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))これですね
- ※JPNIC RFC-JP(Introduction to RFCs)
- (証人(特に注記がなければ、以下同じ))はい
- 内部IPアドレスの範囲というものは基本的な知識なのか
- 私の大学の授業では、2時間目に教えています
◆検察官からの証人に対する反対尋問
- (検察官(特に注記がなければ、以下同じ))Winnyを動かしてみたとのことだが、いつか
- (証人(特に注記がなければ、以下同じ))平成14年夏ごろ
- 実際にはどのようなことを
- 流通しているファイルがどのように取得され、送信されるのかといったこと
- 何回ぐらい
- 2、3回の実験
- その後、利用は
- していない
- どうしてか
- 必要がないから
- どのように
- 様々なファイルが共有されている
- 先生のご認識で結構だが、Winnyはどのように利用されているか
- ファイルを共有するために
- 慶応ではWinnyは使えるのか
- 利用に申請が必要
- 被告人との面識は
- ありませんでした
- 今回、会ったということか
- はい
- 被告人がどういうふうに開発したのかという経緯は知っているか
- 又聞きで、経緯とはどういうことか
- どのようなきっかけで開発したかということは
- 私の理解では、P2Pに関するソフトウェアの先例があり、それらの問題点を解決する新しい取組みとして
- その根拠は
- 学生から
- 被告人がどのような意図をもっていたかはご存知か
- P2Pに関する取組みだと理解している
- 理解ではなく、どうご存知か。どのような経緯で知ったか
- 学生から
◆検察官がかわって、証人に対する反対尋問の続き
- (検察官(特に注記がなければ、以下同じ))Winnyを使ったとき、どのくらいの時間使ったか
- (証人(特に注記がなければ、以下同じ))私が使ったのは数分
- 操作は
- 操作も私がした
- 平成14年夏以降は
- ありません
- 中身を調べたことは
- ありません
- ダウンロードしたファイルは、著作物ファイルと思われる、著作権者がいてその方が許諾していないと推定されるファイルではなかったか
- 実験用に用意した文書ファイル、これも正式には著作物だが、それ用のファイルを使った
- Winnyに関する記事がある雑誌を読んだことはあるか
- はい
- どのような内容か
- いろいろなファイルの共有ができる
- 著作物に関連しては
- 悪用厳禁ツールとして紹介されている
- 証人が出廷が決まる前や、裁判が始まる前に被告人に会ったことは
- お目にかかったことはありません
- 本人から開発意図を聞いたことは
- ありません
- (検察官)Winnyの各機能について、実際のWinny利用者がどのように利用していたか
- (弁護人)異議あり。どのような趣旨か
- (裁判長)Winnyをどのように使っているかということか
- (検察官)Winny利用者がどのような目的で利用していたか
- (証人)情報の交換の目的で
- (検察官)Winny利用者がどのような情報交換を(?)
- (弁護士)異議あり。いずれも本人が経験していないことを聞こうとしている
- (検察官)Winny利用者がどのような情報交換をしているかということについて、聞いたことがあるか
- (証人)私の認識としては、その利用の仕方については、インターネットにしろ、電話にしろ、それは様々な利用ができるということが、インフラの意義である
- (検察官)甲34号証を示します。実況見分書にあるネットワーク構成図について。先ほど弁護人の主尋問で、「211から始まるアドレスは存在していない」と言っていたが
- (弁護人)異議があります。そんなことは言っていない
- (検察官)記載が間違っているということか
- (証人)私はそう考えている
- (検察官(特に注記がなければ、以下同じ))ここに「確認くん」の写真があって、「211.18.157.240」とのIPアドレスが表示されているが
- ※確認くん
- (証人(特に注記がなければ、以下同じ))まず、その「確認くん」が何を示すのかわからないが、(※その後はメモをとれず。サブネットマスクがどうとか、24ビットがどうとかといったお話がありました)
- 「211.18.157.240」というグローバルアドレスは存在すると考えられるか
- 不自然とは思いません
◆裁判長から証人に対する尋問
- (裁判長(特に注記がなければ、以下同じ))慶応ではWinnyの利用は許可制ということだが、いつごろか
- 著作権団体からの要請がきっかけか
- そうです
- 逮捕は関係ないか
- たぶん
- 要請はいつ
- 逮捕の以前からあったはずで、措置もその前に行ったと思う
■以上で、証人尋問は終了。裁判長から、「弁護側が尋問内で示した証拠をどのようにするか」と検察官に対して質問があり、弁19号証は「示した部分については構わないが、その頭書きの部分はぜひやめてもらいたい」との回答あり。
■一旦、休憩に入る(15:10〜15:30)。再開後は、検察官請求証拠の採用決定について。なお、この証拠の採否については、おおよそ次のような流れとなりますので、ご参考まで。
- 捜査機関が取調べや検証等を行い、その結果を記載した調書を作成
- 公判において、その作成した調書を証拠として採用するように、検察官が請求
- 被告人側弁護人が不同意であれば、刑事訴訟法321条3項に基づき、公判期日にその調書作成者等を証人として尋問
- つまり、刑事訴訟法は、捜査機関による差押、捜索又は検証の結果を記載した調書等について、同法321条3項により、「その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときに、証拠とすることができる」とされる
- 証人尋問において、検察官側は主尋問で「真正に作成されたものであること」の立証を行い、弁護人側は反対尋問によってその信用性等を問う
- また、刑事訴訟法322条1項により、「被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる」とされる。ただし、「被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面」は、「任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない」ともされる。
◆裁判長から証拠の決定が言渡される。告訴状ほか検察官請求証拠を採用する旨の決定。
◆これに対し、刑事訴訟法309条1項に基づき、弁護人側から異議申立て。その内容は、おおよそ次のとおり(※あくまで大意でしかありませんし、私の勝手な思い込みがあるとも考えられますので、ご注意を。)。
- 告訴状について
- 本件は親告罪であり、告訴がなければ罰はない。つまり、告訴の有無は、有罪無罪を左右する重大な事項である
- この意味で、告訴の有無は処罰条件となり、厳格な証明がなされなければならない
- 検察側は、告訴の有無は訴訟条件として、自由な証明で構わないとしている
- しかし、そもそもこの告訴状は、著作権者以外の第三者であるACCSの担当者が作成したものである(?)
- ※この点については、次の公判が参考になるのではないかと思います
- ※市民裁判員先行記第29回/Winny事件第14回公判 - 【情トラ】附゛録゛
- 著作権法123条からすると、被害者が告訴することが必要である
- さらには、正犯に対する告訴状であって、被告人に対する告訴ではないのに、それを無限定に取扱っている
- たとえ、この告訴が主観的不可分として扱われるとしても、被害者たる著作権者が、あくまで正犯だけを告訴する意思を持ち、共犯を除外しているとすれば、そもそも本件は成り立たない
- 検察官は正々堂々と著作権者から告訴状を用意してもらえばよいのに、それを行わず自由な証明で構わないとするのは、著作権者に要請したが協力を得られなかったためではないか。そして、それは捜査機関の暴走といえるのではないか
- 平成15年11月27日作成の供述調書及び申述書について
- ※参考として
- 市民裁判員先行記第34回/Winny事件第18回公判 - 【情トラ】附゛録゛
- 市民裁判員先行記第15回/Winny事件第7回公判 - 【情トラ】附゛録゛
- 市民裁判員先行記第17回/Winny事件第8回公判(傍聴なし) - 【情トラ】附゛録゛
- 平成15年11月27日の家宅捜索は任意のもので、その目的は、Winnyのプログラムソースの押収であったとするが、事前予告もなく、被疑者なのか参考人なのかの説明もなく、さらには、(被告人からの)聴き取りも、プログラムソースの所在について尋ねることもなく、なぜかWinnyの送受信実験を、執拗に黙々と2時間ものあいだ行っている
- これは、そもそも被告人を著作権法違反の正犯として立件しようという意図があったのではないか
- プログラムソースを押収する目的であれば、送受信実験を行う必要もなく、送受信実験用のデータを記録したCD-Rをあらかじめ用意している必要もない
- また、このプログラムソースであるが、コンパイルはしたが、結局、正犯とされる方の公判において利用されることはなく、また、その解析も途中でとまっているとのこと
- そうしたなかで作成された供述調書は、黙秘権の告知も当然になく、たとえば「警察に捕まらないため」といった文言を、被告人の指摘にも関わらずあくまでも残そうとしたことなどが被告人主尋問で明らかになっている
- そして、供述調書にはWinnyの客観的機能についての記載があるが、第7回公判においてKさん(京都府警捜査員)は、「客観的機能については、結局、訊かなかった」旨の証言をしている
- それから、供述調書が、被告人の話をそのまま録取したものだとすれば、当然にFreenetへの言及があるはずであって、本来的にはWinMXの後継ではないという記述があるはずである
- 供述調書は、言うがままに録取するものであるはずだが、このようなことから、本件供述調書は捜査機関の作文であって、被告人の任意性は認められないといえる
-
- 申述書については、被告人自ら書き記したもののように思えるが、本当は捜査員が見本を書いて、それを被告人に書き写させたということが明らかとなっている
- そもそも被告人は「Winnyのヴァージョン・アップをしない」との誓約書を書いても構わないとし、それに捜査員がこたえて見本を作成したというが、被告人がそれを書き写す際に、いつまで経っても「誓約文言」が出てこないということを疑問に思い、異議を唱えている
- また、この申述書中には「蔓延」とか「詭弁」といった用語が出てきているが、理科系畑を歩んできた被告人は、そうした言葉を普段から使うことはないし、そういう漢字もろくに書けない
- そもそも供述調書は、言うがままを録取するものであるはずなのに、申述書にある「蔓延」とか「詭弁」といった言葉が、供述調書にはない
- これは供述調書よりも、信用性が高い手書きの申述書を被告人に作成させようとした意図があるものではないか
- なお、この「蔓延」とか「詭弁」といった言葉は、この当時の著作権団体内部で用いられていた言葉であるよう
- 以上のように、黙秘権の告知がなく、任意性もない、録取書ですらない調書等について裁判所が証拠に採用する旨の決定を行うことは、違法である
- 平成15年12月26日作成の供述調書について
- 事前に連絡があったため、被告人は徹夜明けで捜査員の来訪を待っていた。事情聴取は12時から20時までにわたってなされたが、その間には聴き取りはなされず、捜査員が黙々とパソコンキーボードを叩き、作文をしていたことが、被告人主尋問で明らかになっている
- そして、その供述調書の内容に関して、被告人が「幇助って何ですか」と訊ねたところ、捜査員は「1%でも正犯の行為を助けたら、それは幇助なのだ」と誤った理解を示した
- また、京都まで帰る新幹線の最終時刻がせまっているというなどして、偽計により署名をさせたとの違法性がある
- 供述調書には、一切、被告人が話していないことが記載されている。これは、作成経緯からして、また、記載内容からしてもそういえる
- 逮捕後、平成16年5月10日警察官作成の弁解録取書について
- 「前回と意見は変わっていないか」として、弁解録取書が作成され、既に11月27日、12月26日に作成された調書を礎にして、任意捜査の段階から被告人を追い詰めていたと考えられる
- 平成16年5月11日検察官作成の弁解録取書について
- 検察官が作成したものを読み聞かせられたときに、被告人は「蔓延」という言葉等に異議を申し立てたが、「まあまあまあまあ」となだめられ、そうした表現をしのびこませた
- 平成16年5月12日裁判官作成の勾留質問調書について
- 平成16年5月12日検察官作成の調書について
- 裁判官による勾留質問調書において被告人が自白を撤回したことを知り、あわてて検察官がその日の夜のうちに、その効力を減殺させるために新たな調書を作成しにきた。このときまで被告人は調書への署名・押印を行っているが、検察官は中立の立場にあると思っていたためである
- 平成16年5月13日以降の調書について
- 技術的なことに聴取が及ぶに至り、被告人も話の内容が分かるようになったこともあって、自らの主張が受け入れられないことから、調書に署名・押印をしなくなった
- 以上からすると、これらの調書等には任意性もなく、証拠として採用することは違法である
■こうした弁護側からの異議申し立て(※あくまで私が聞き取れた範囲で、私が理解した限りにおいて記述したものですので、数多くの誤り等があると考えられます。ご注意ください。)に対し、検察官の意見は「異議はいずれも理由がないものと思料します」とのこと。
裁判長も、その場での合議のうえ、「(弁護人からの)異議は理由がないものとして却下します」との判断が示されました。
■これに対して、弁護側からは、まず告訴状に関して、「告訴意思の不存在を確認する」との趣旨で証拠取調べの請求。告訴権者の担当者その他適切な証人を呼んで、尋問を行いたい旨を要請。その前提として、誰が担当者となるのかについて、証拠開示請求もあわせて行うとのこと。
■裁判長がこの請求に対して、検察官に意見を求めたところ、証人尋問については不必要、証拠開示については検討しますとの回答がなされました。
■次回公判は3月9日(木)13:30から、次々回は3月20日(月)13:30からとの確認があり、本日の公判は閉廷。時刻は16:40頃でした。
【情トラ】まとめ
※参考として Winny開発者の裁判に村井教授が証人として出廷、検察側の主張に異議
上記記事では、特に前半部分の証人尋問がとりあげられていますが、これまで継続して傍聴してきた私としては後半部分の証拠採用決定のほうが、たいへん興味深い内容でした。ひとつだけ挙げるとすると、そもそもの本件に係る告訴は、「被告人」に対して、「著作権者」がしているものとばかり思い込んでいましたが、そうではない模様ですね。【追記/これについてはハッキリとはしないのですが、著作権者からの聴き取り等を第三者がとりまとめて告訴状を作成したというように、私は理解したのですが。。】その辺りイロイロと思うところが。
ところで、今月下旬に「アスペクト」という出版社から、Winnyについてのムックが出版されるようです。
◆総合出版社アスペクト
私も詳しいコトは把握していないのですが、たいへん興味深い内容となるのではないかと期待しているトコロ。
この傍聴録も、この公判に関心がありながら、実際に傍聴に行くのは難しい方々に、そして(、Winnyに興味がなくとも)、刑事事件の公判とはどのようなものかといった疑問を抱かれるような方々に対して、公判に係る情報を共有してもらえれば、などと考えて連載しています。
それぞれの記録は、長い長い分量となっているうえに、必ずしも正確ではない部分が多々あると考えられます。しかし、そうではあるもののできる限り多くの方々に多くの情報を共有していただきたいなぁなどと、願っている次第。どうぞおヒマなときにでも、ご高覧いただければ幸いです。
◆【おっかけ情トラ】市民裁判員先行記 - 【情トラ】附゛録゛