市民裁判員先行記第37回/Winny事件第20回公判
京都地裁。Winny開発者が被告人となった、著作権法違反幇助に係る事件。第20回公判に傍聴に行ってきました、今回も最初から最後まで。
■傍聴前について
- 12:40ごろ 地裁到着。
- 13:15頃 入廷開始。カバンを預け、身体検査(ポケットにモノが入ってないかどうか程度)後、101号法廷に。弁護側がPCやプロジェクターを準備されていました。
- 13:30 開廷。
■この傍聴録は、【情トラ】の個人的なメモをまとめたものであり、全てを再現できているわけではモチロンありません。また、【情トラ】の手による編集(表現簡潔化など)も加えておりますし、時には実際に発言されていないにもかかわらず、【情トラ】が理解した(思い込んだ)ものを勝手に付加しまっているトコロもあるかもしれません。さらには、私の理解不足や事実誤認なども、必ずあるはずです。と、イロイロと但書がありますので、その旨ご留意されるようお願いいたします。
■なお、第1回公判からこれまでのWinny(ウィニー、ウイニー)事件公判傍聴録/【情トラ】まとめ(概要も含む。)は、次に掲げています。ご参考まで。
◆【おっかけ情トラ】市民裁判員先行記 - 【情トラ】附゛録゛*1
今回は、まず、裁判官の左陪席が替わったことによる弁護側からの更新弁論があり、続いて、弁護人による被告人質問がなされました。あらかじめ、これらの概要だけ示しておきます。
- 更新弁論において
- 告訴状に関する事項
- 被告人の開発意図
- 類似案件に関する世界的動向
- 昨今の情報漏洩事件に対する意見
- Winnyの技術に関する事項
- 被告人申述書・供述調書等の任意性への疑義
- その他
- 被告人質問
- 昨今の情報漏洩事件に対する感想等
- Winny1とWinny2との違いに関する事項等
- 大規模匿名BBSの開発の難しさについて
- その他
■はじめに、裁判長から、「今回から裁判所の構成がかわっている」との話があり、従前どおりとしてよいかと質問。それに対して、弁護側から「更新弁論を朗読します」と回答。
■そして、弁護側から、「先般、開示請求に基づき開示された資料に、『平成16年5月29日(?)付の告訴権者による幇助犯についての告訴状』があったが、この段階に至って初めて、この告訴状の存在が明らかになった」とのことに関する意見。これに対しては、検察側からは、「(この段階に至って初めて、というが、)いや、開示請求が(この段階で)されたから」という旨の回答。
■弁護側からは、さらに「この告訴状は、『条件付き告訴』であって、かなり異例な告訴」であり、「(被告人を)起訴する前に、告訴権者に依頼して、告訴状を取り直した」ものの、「(検察側からは)証拠請求がされず、開示請求で初めてその存在がわかった」として、「その告訴状の作成及び取得経緯並びに当該告訴状のほかに何らか開示されていない資料があるのではないか」といったことについて検察側からの釈明を要求。
■裁判長から検察官に、「まず『他に資料があるのではないか』ということと、そして、『今までに証拠請求しなかったことはなぜか』ということについての釈明をとのことですが」と確認されたところ、検察官からは、「告訴状以外には(その他の資料は)ありません」と説明。これに対し、弁護側からは、「告訴状の経緯には疑義がある」として、「告訴状の経緯について(検察側からの)立証を求める」とのこと。
■ここまでのやりとりを経て、裁判長からは「今日の段階では、この程度として(、本日は、更新弁論と被告人質問を)」として、更新弁論が始まりました。
◆弁護側からの更新弁論(【情トラ】が把握できた限りで、その概要をまとめて掲げることとします。順不同。朗読という形でしたので、メモがほとんど追いつかずに断片的となっており、私の理解不足・事実誤認がありうることを、改めてご留意ください。)
- 告訴状について
- Winnyの機能及び開発意図等について
- 世界的動向について
- ヨーロッパにおいては、類似の案件で刑事事件となった事例はない。民事事件となった場合でも、単に幇助する可能性があるだけで責任を問うたものはなく、営利性・著作権侵害の意図・支配可能性の有無等を基準としたうえで責任を問うかどうかを判断している
- 2005年6月に、ファイル交換システム提供者がユーザーによる直接侵害を助長・誘因したことに責任の根拠を認める最高裁判決が示されたグロクスター事件を除いて、ほとんど責任が認められた事例はない
- カナダでは、平成16年3月に、侵害行為を認めなかったCIPPIC事件がある。オランダでは、P2Pファイル交換ソフトであるカザーの提供者に対して侵害責任がないとする判例が示されている。さらに、フランスでは、平成17年末に、下院が著作権コンテンツのP2Pダウンロードを合法化する法案を可決している。
- 刑事事件となった本件は、世界的にも例外的なものであり、驚きとともに注目されている
- アメリカの動向の詳細は、ローレンス・レッシグ教授の意見書を参照されたい
- 国内の判例について
- クラブキャッツアイ事件が、民事事件ではあるが、最高裁の判断が示された事案として重要である
- この判決において、スナック経営者らを、演奏権を間接的に侵害した者としてではなく、直接侵害を勧誘し、そうした場を提供し、利益をあげることを意図したこと等をもって、演奏権侵害の主体としてその責任を認めている
- 【参考】
- http://www.netlaw.co.jp/hanrei/club_c_1.html
- 判決文から一部抜粋
- 「上告人らがその共同経営にかかるスナック等において、カラオケ装置とカラオケテープとを備え置き、ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し、客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ、もつて店の雰囲気作りをし、客の来集を図つて利益をあげることを意図していたという原判示の事実関係のもとにおいて、ホステス等が歌唱する場合だけでなく、客のみが歌唱する場合についても、その演奏(歌唱)という形態による音楽著作物の利用主体は営業主たる上告人らであると捉え、その演奏は営利を目的として公にされたものであるから、右演奏につき被上告人の許諾を得ていない上告人らは、当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れない、とする」
- システム提供者が、そのユーザーによる著作権等の直接侵害を認識していただけではなく、それを意図していたこと、さらには、それを客観的に認定できることが必要と考えられる(?)
- 昨今の情報漏洩事件について
- あえて意見を述べさせてもらう
- ウイルス等が原因の情報漏洩事件は、被告人が開発停止して3ヶ月を経過した平成16年3月以降のことである
- 被告人はこうした情報漏洩に対応するアイデアを持ちながら、捜査機関からの圧力により開発を停止させられていた
- 検察官の冒頭陳述では、単にバグをとるだけのバージョンアップも問題視されており、捜査機関の技術的無知と刑罰的威嚇力でもって、被告人をして情報漏洩への対応をもできないようにした。言わば、情報漏洩事件は捜査機関の責任ともいえるのではないか
- 【追記】「第20回公判: 壇弁護士の事務室」にて、更新弁論の該当部分が引用されているモノを引用させていただきます。
なお、Winnyに関しては、古くは京都府警のパソコンから、最近では検察庁のパソコンからも捜査情報の漏えい事件が起こっているように、昨今、公官庁や企業のパソコンから情報漏えい事件が相次いでいるので、この点について敢えて意見を述べる。
ウイルスに関する問題は、平成15年11月27日に、京都府警が被告人にWinnyの開発公開を確約させてから、3ヶ月以上後の平成16年3月以降に問題になっている。
被告人は、ウイルス問題に対処するアイデアを持ちながらも、警察の圧力により対策することができず、さらに、本件検察側冒頭陳述を見ればプログラムのバグをとるだけのバージョンアップすら問題視していることが明らかであるから、被告人は保釈の取消しや新たに事件となることを恐れて、ウイルス対策が出来ない状況である。仮に被告人がウイルス対策をしていれば、昨今問題となっている情報漏えいの多くが防ぎ得たことは確実である。
つまり、Winnyを通じての情報漏えい事件を引き起こしているのは、その技術的無知と刑罰による威嚇力により、被告人からウイルス対策の機会を奪った京都府警や検察にこそ責任があると言わざるを得ない。
- 匿名性について
- 匿名性があるから違法な利用がなされるというが、WinMXやBitTorrentは匿名性はないにもかかわらず使われている
- たとえば中国では、言論の自由が確保されるとして、匿名性を確保する技術は高い評価がなされる
- そもそもWinnyは、個々のPCがもつ余剰リソースを利用して効率化をはかる機能をもっており、この場合、匿名性がなければ、個々のPCがもつ情報が覗き見されるなどハッキングを誘発するとも考えられる
- Winny1とWinny2について
- Winny1とWinny2は、そのネットワークは相互につながっておらず、互換性もない
- Winny2のファイル共有機能は、Winny1をデチューンしている
- Winny2では、スレッドをたてた者だけがデータ管理できるようなデジタル認証の技術も考えられている
- Winnyについて
- 被告人申述書、供述調書等について
- 黙秘権の告知もない
- 被告人宅での捜査においてWinnyのアップロード実験に失敗したことにより、著作権法違反幇助の主観的意図を明らかにするようにと、被告人に捜査員の作文を書き写させた結果である
- 申述書には「蔓延」という語があり、これは被告人がいったものとするが、同日付の供述調書にはそうした語はない
- この当時の著作権団体の供述調書には、この「蔓延」という語がよくでてくる
- Winny開発の意図を「警察に検挙されないソフトの開発を」として、WinMXの後継であるとしているが、Winny2ではスレッドをたてた者(放流告知をした者)のIPアドレスは判明できる実装となっているし、本来はWinMXではなく、Freenetに着目したものである
- 逮捕翌日に検察官取調べにおいて作成された調書では、「もっぱら著作権法違反行為に使われる点はわかっていたし、それを望んでいました」との供述があった旨を被告人の異議申し立てにもかかわらず、記載された。そのことについて、その翌日の裁判官勾留質問で申し立てて、削除してもらったが、その夜、すぐに検察官が被告人のもとに訪れて、削除申立ては、弁護人の入れ知恵であるかのように新たな調書を作成した
- 偽計や恫喝によって作成された調書に関し、任意性が認められ(裁判所が証拠として採用し)たことは、極めて遺憾である
◆弁護側からの更新弁論は、ここまで。
◆これに対して、検察官が「一点意見したい」として、「海外判例の状況についての弁論は、証拠に基づかない弁論であるとして、速記録から削除してもらいたい」とのこと。弁護側は、「弁論ですので、今後立証するし、既に証拠は出している」と反論。裁判長からは、「そういうやりとりがあったということは、公判調書上明記しておきますので」とのこと。
■続いて、弁護人からの被告人質問
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))最近、問題となっている情報漏洩事件について
- (被告人(特に注記がなければ、以下同じ))はい
- 最近の報道をみているか
- はい、みている
- みられての感想は
- 本質的には、Winnyは全く関係ない。そうした報道は残念
- ウイルス感染による情報漏洩は、Winny自体に問題ないのか
- 本質的に関係ない
- 情報漏洩が増えたとの声には
- 全く関係ない。Winnyでは一人でも漏洩すると(その情報が)全体にひろがるので、発見することが容易になっただけ。漏洩事件は昔からあった
- 漏洩の問題とは
- 情報を外にもっていくことが問題。本人が外にもっていかなければよい
- こうした(Winnyネットワークでの)情報漏洩が問題になったのは、いつからと記憶しているか
- 家宅捜索が入り、開発をやめて3ヵ月後
- ウイルスによる情報漏洩への対応策はあるか
- ウイルスが発生しにくくすることは比較的容易(?)
- そうした対策を行おうという意思は
- 行っていいのか、やっていいんでしょうかね
- 悩みがあるということか
- バージョンアップが実行行為ととらえられているので
- バージョンアップを続けていたら対処していたか
- 対処していたはず。特に最初は容易に対応できた
- バージョンアップを続けることは、ソフトウェアの開発には必要か
- 必ず必要。村井先生も言われていた
- 弁15号証(※「Winnyの技術」)を示します。6・2の箇所。ここに記述がありますね
- はい
- こうした情報漏洩に対して、あなたが責任をとれという声がある
- 困ってしまう。扱っている本人の責任以外に言いようがない
- ユーザーさんの責任か
- 基本的には
- 話題はかわります。前回(公判)のおさらいを
- はい
- 当初は、2ヶ月で開発をやめる予定だったが、いろいろと長引いた
- はい
- 平成14年10月のスレッドへの書込みでは「開発が嫌になってきた」旨のものも
- はい。まとめに入っている
- なぜ
- はじめは2ヶ月の予定で、技術検証もほぼ終えていた。フリーソフトは見返りがなく、つくりたいことが終わるとタダ働きだなあと思うことも
- 当初の予定はクリアしたということか
- はい
- 「しかしそろそろバグ取りやどうでもいい所以外、やること無くなって来ましたね」との書込みも
- はい
- あとは何を行っていたのか
- 微調整を
- 微調整とは
- 開発停止でいいかな、と思うところまで
- Winny1の正式版はいつ
- 平成14年12月30日にバージョン1.00がでたと思います
- 甲130号証、平成14年12月30日16時57分の書込みは、あなたのものか
- はい、私です
- 正式版リリースの心境は
- 開発をやめるということで正式版を。もともと1ヶ月で開発し、1ヶ月テストでやめるつもり。(技術の)検証は終わり、サイトを閉じる予定
- 実際に公開をやめたのは
- 平成15年4月7日に
- その時点では
- バージョンは1.14。微調整も完全に終わり
- 公式サイトは閉鎖した
- 新規の機能追加はしていない
- 本件では、著作権侵害を蔓延させようという意図があったと言われているが、あなたがそうした意図があれば公式サイトを閉鎖しようと考えるか
- やめないでしょうね
- 平成15年12月26日付の調書について
- そもそも寝ていた間に作成されたものなので、覚えが全くありません
- 「コンテンツ提供側は新たな収益方法を考える必要がある(?)」
- 言っていない
- 「コンテンツビジネスはかわった(?)」
- 内容を全く覚えていないので
- 「自由なコンテンツの流通という革命はほぼ達成された(?)」
- 革命というのが何がわからないが、何も変っていません
- もし、あなたがそうした意図をもっていたとしたら、どうしていたか
- Winny1の開発・公開をとめるのではなく、海外版をつくったり、違法なやりとり、それ専用に使ったほうがよいように開発するのでは。Winnyは違いますけど
- 海外版は
- つくっていない
- 違法専用ではない
- はい
- 違法専用とする意図をもっていたとして、何らかのアイデアは考え付くか
- 思いつきますけど、言わないほうがいい
- ま、そうですね
- いろいろあります。実際に出てくるのでは
- Winny1は再度公開していないのか
- していない
- 閉鎖したことを捜査官には言ったのか
- (捜査側は)Winny1とWinny2を区別していない。サイトを閉じたことは言いました
- 甲112号証資料1を示します。「Winny1は、現在、開発・公開を終了しています」とある
- はい
- 被告人に確認してもらったのだが、Winny1の公開サイトを閉じたことは調書に記載があったか
- ない
- 閉じたことは言ったのか
- 言ったが、そもそもWinny1とWinny2を区別していないようでしたので
- Winnyネットワークを他のことに応用しようということは、いつごろから
- かなりはじめの段階から考えていた
- 3D空間やゲームといったことか
- はい
- 実際に実装したものは
- BBS。Winny2が、Winny1を応用したBBSを実装している
- Winny1とWinny2との関係は
- 別のソフトですが、技術的に応用しています
- Winny1とWinny2は一緒ではないということか
- 完全に違う
- Winny1とWinny2で互換性はあるのか
- 互換性はない。ソフトは別。ネットワークも別。開発の目的からして違う
- Winny2とは
- 大規模匿名BBS。Winny1の応用で、できるかというプロジェクト
- Winny1にもBBSの機能はあったか
- はい。簡易なものがあった
- その違いは
- 規模が違う。Winny2はBBSがメインであり、Winny1はファイル共有がメインでBBSはおまけだった
- Winny2ではBBSがメインか
- Winny2は完全にBBSが主眼。GUIもありますけど
- Winny1とWinny2との違いは
- Winny1は別のブラウザで閲覧する(?) Winny2はBBS専用のGUIを備えている
- GUIとは
- Graphical User Interface 。簡単に言うと、マウスで操作できるようにするのがGUI。CUIが昔のようにコマンドを打たなければならない
- Winny1の開発当初から、BBSの実装も考えていたのか
- BBSは全く考えていなかった
- 規模の小さなものでもか
- 小さなものでも予定外
- ファイル共有ソフトとして、Winny1とWinny2の違いは
- それ専用でつくられたWinny1の方がいろんな面で優れたソフトウェア
- 甲115号証を示します。「条件によっては通信がとまる(?)」
- メニューを開いている間は、通信がとまってしまうという不都合がある。ファイル共有するならば、明らかにWinny1がよいソフトウェア
- 被告人の技術者としての姿勢は
- アイデアをみえる形にしないといけない。みんなにつくってみせるというものが、私の得意なところ。今までつくったプログラムもそう
- 考えたものを実際にみえるものにするということか
- そうです。論文にするよりも、実際につくることが得意
- 負荷分散に強いという利点か
- はい。ユーザーさんがたくさん集まってもダウンしない
- P2Pでファイル共有とBBSをつくるのは、どちらが難しいか
- BBSをつくるのが難しい。クライアント・サーバならBBSが簡単かも
- Winny1の技術をWinny2に応用したとのことだが、なぜ応用できるのか
- どんな情報でも同様のことである
- ファイルを共有するのは
- ベーシックなもの
- BBSは
- 共有する情報内容をあるものに特化したもののひとつがBBS
- P2PでBBSが難しいのは
- 同期の問題、制御の問題があるので
■ここで、一旦、休憩(15:10〜15:30)。再開後は、パワーポイントを用いて、P2PによるBBS開発の技術等に関する被告人質問が続きます。
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))大規模匿名BBSの開発の難しさについて
- (被告人(特に注記がなければ、以下同じ))はい
- 第16回公判でもでているが、P2PによるBBSでは、同期をとること、管理をすることが難しいのか
- 【参考】Winny事件/16回公判/被告人質問/「Winnyの技術」
- そうです
- クライアント・サーバ型だと簡単なのか
- そうです
- 図で説明してもらってよいか
- はい
- ※被告人席にあるPCの画面がプロジェクターで101号法廷の壁に映し出され、その図を用いて説明(※図は省略します)
- 同期問題とは、誰がどの順番で書き込んだかということ。管理とは、不適切な内容の削除をしようということ。クライアント・サーバ型であれば、情報はすべてサーバに集まっているのだから、簡単
- (弁護人)P2Pだと
- (裁判長)ちょっと待って。図の特定の問題があるので、下のページ番号で特定してください
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))はい。3ページの図で説明してください
- (被告人(特に注記がなければ、以下同じ))はい
- (※図を用いて説明。「情報が分散されるので、①で書き込まれた情報に、②のところで新たな情報が加えられたものと、③のところで新たな情報が加えられたものとがあり、それらが④のところに届き、また、そこでも新たな情報が加えられたとき、果たして、その情報は「①②④」なのか「①③④」なのか、といった問題がある。また、管理者が情報をコントロールするときに、その情報がどこにあるのか、といった問題がある」 ※以上は、説明の概要でしかありません。)
- 管理と同期を離れて、ファイル共有ソフトとBBSではデータの扱いの違いがあるか
- ファイル共有では、その共有するデータの中身が変わらないが、BBSでは中身が書きかわる(書き加わる)。
- (※図を用いて説明。「どうやって書きかわったことを保証するのか、どうやって(情報の)不足や重複がないようにするのか、といった問題がある」 ※以上は、説明の概要でしかありません。)
- Winny2の性能について説明するのは、(公判において)はじめてか
- はい。ほとんどはじめて
- Winny2のときは
- P2PのBBSは、みなさんが2000年のことからチャレンジしてきたテーマ。Winny1の応用的なものですので、義務的なところもあってチャレンジした
- 前からチャレンジされていたのか
- 成功例は、私が知る限りでは存在していません
- 義務的なところとは
- 失敗したプロジェクトは、主にユーザーが集まらなかったことによる。Winnyのコミュニティ、ユーザーさんを借りてチャレンジすれば、多分うまくいくかもしれない、やるべきではないかなあ、ということ
- 集まらないことに原因があったのか
- 集まらないと検証できない(?) Winny1のユーザーさんを借りることができるのではと思った
- やりがいは
- やりがいはなくはない。しかし、アイデアを思いついたからではなくて、やれば多分できるということだった
- 試したいことがあったわけではないということか
- ここでは。前から試行錯誤されているテーマだから、チャレンジすべきかな、ということ
- Winny2ではファイル共有機能も付けているが
- おまけ程度のもの。Winny1で検証することは終わっていた
- Winny2の開発当初は、どのような感じだったのか
- peerの確保が重要。Winny1でもBBSをやりたいというユーザーさんがいた。新プロジェクトのほうにファイル共有機能はなくてもよかったのかもしれませんが、最初はあったほうが(peerの確保もできて)いいだろうということで
- BBS専用にできたのか
- 7.1の段階で、BBS専用にできる設計に既につくっていた
- Winny2をつくったのは、著作権侵害を蔓延させる目的があったのか
- (そうした目的は)BBSとは関係ない
- もし、そうした意図をもっていたら、どうしていたか
- Winny1を維持しつづけるのではないか
- Winny2の開発経緯についてもスレッドで書き込んでいましたね
- そうですね
- 義務、チャレンジといった趣旨の書込みは
- それに近い書込みはした
- 甲140号証、1481番、2003年4月9日のこの書込みは被告人によるものですね
- はい
- 「とりあえずファイル共有関連はもうやることが無くなって来ましたし、何か別のものに取り掛かろうかと思っても特に新しいネタも無いですし、暇つぶしに現WinnyBBSとは別の大規模向け分散BBSへのチャレンジやってみます」
- 【参考】47氏発言集(手抜き版)
- はい
- 暇つぶしとあるが
- (4月ということもあって、)比較的暇だった。ただ1年前のほうが暇だったし、アイデアもあり、やる気もあった。このときはそれほどでもない(?)
- 「このネタは他で既にやられているネタなわけですし、Winnyでもすでに試してみたネタなので、私のほうでやらんでも良いかと思うんですが、現Winnyに別P2Pを乗せるという設計方針なら大規模向けでもどうにかなりそうですし、この手のP2Pものでは、実は一番の課題はピアの確保でして、これに関してはユーザーだけは多そうなWinnyネットワークを借りるのが明らかに有利で、これは私にしかできないことなので、せっかくですので旧Winnyはもう完成&破棄とみなした上で新バージョンにチャレンジしてみましょうか」とあるが、義務感からのものか
- そうですね
- 「基本となる仮定から書きますと、まず、」云々とあるが
- Winny2の基本設計を書いている
- ピアの確保については
- いわば少数精鋭であることが必要。やる気のある方、BBSのほうに参加したいという方にこちらにうつってもらおうと考えた
- 「BBSネットワーク部は実はWinnyのファイル共有側部と独立してますので切り離しても良いのですが、ピア確保的には十分広まったファイル共有ソフトとくっついていた方が明らかに有利」とある
- 先ほども言ったように、失敗したプロジェクトをみているので
- 弁15号証(「Winnyの技術」)172ページに同様のことが書いてある
- そうです。ピアとはユーザーさんのPCのこと
- 平成15年4月9日にWinny2をつくろうと思ったのか
- その日
- β版の公開は
- Winny1と同じで、1ヶ月で。5月の何日か
- このスピードは
- そうですね。Winny1と同じだけかかっているが、ノウハウがたまっていたので、頑張れば半月でできた。アイデアもなかったし、仕事も忙しかったので、比較的ダラダラとつくって1ヶ月
- フルパワーではなかったのか
- Winny1は面白かったので。Winny2は義務感からで、筆を、筆というか、キーボードをたたくのが遅かった
- 技術的に難しいものにチャレンジするという義務感か(?)
- そう
- 「Winnyの将来展望について」とのまとめを2003年10月10日に公開している
- 【参考】http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/9164/ny.html
- そうです
- 「BBSに関しては、クラスタ化よりはやはり先に読み書きの安定化だろう」云々、「そもそもBBS書込み先を分散させる方式は私の方では失敗すると思っているのであまりやる気がでない」云々。こうしたBBSに関する書込みはなぜ
- 技術的アイデアがあってではないんで、どうでしょうね。ファイル共有については終わったわけですし(?) ここに書かれている技術的なことは、全部BBSについて
- 警察が最初に被告人宅に訪れたのは、この「Winnyの将来展望について」を公開した1ヵ月半後であるが、Winny1とWinny2の違いについて訊かれたか
- 訊かれたことはない
- Winny2の開発目的については
- 全くない
-
- Winny2がBBSとは
- 理解していないようですので、はじめに話した
- 話したところ、どうだったか
- 向こうが、興味がなさそうでしたので
- Winny1の開発目的については
- 特に訊かれた覚えはないんですが
- 11月27日の調書に「著作権侵害を蔓延させる目的」とあるのはなぜか
- 調書に関しては、警察の作文ですので
- 12月26日の取調べで、Winny1とWinny2の違いは訊かれたか
- 訊かれていない
- Winny2の開発目的については
- そもそも区別していなかった
- Winny1の開発目的については
- 特にない。向こうは「これだろ」と押し付けてくるだけですから、「いや、違います」という繰り返し
- そうした繰り返しがあれば、捜査官から「じゃあ、(被告人が言うところの)開発目的は何なんだ」と訊かれなかったのか
- 訊かれていない。訊かれていれば、Winny1とWinny2とで目的を分けて説明する
- 大事なところなので改めて尋ねるが、開発目的について訊かれなかったのか
- 聞く耳持たずだった。Winny1とWinny2が違っていることも理解していない
- BBSの開発目的について
- 訊かれもしなかった。説明しても無視される
- Winny2は、Winny1の応用であるのでは
- 応用は応用ですけど、やっていることは別
- 被告人は技術者としては、アイデアを実現する技術にチャレンジするという姿勢であるのか
- 技術的なチャレンジ。Winny1もWinny2も一貫していると思います。自然な流れ
- そうした自然な流れでの開発であることが、調書にはでてこない
- そうですね。訊いてないどころか、寝ててもできあがってきたもの
- Winny2の開発について。Winny2とWinny1は、同じ開発環境か
- 甲130号証を示します。「もしかすると副作用でLinux版ができる可能性もあります」とあるが、これは
- Linux版は
- できていない
- 開発の状況は
- 思いきり、そのままでして、BBSとブラウザとしてのGUIまわりを。ファイル共有部分は捨ててもよいかと
- (検察官から)先ほどから甲130号証(※2ちゃんねるへの47氏としての書込み記録)を示されているが、その引用部分は、(本公判)速記録に添付してもらうことでよろしいのか(※弁護側は、甲130号証そのものは証拠として不同意としている。どれが被告人による書込みであり、どれがそうでないかの特定ができていないといった理由によるものと考えられます。弁護側からの被告人質問においては、被告人に自身による書き込みかどうかを確認されています。)
- (弁護人から)はい
- (弁護人(特に注記がなければ、以下同じ))そもそもブラウザとは
- Winny2において、ファイル共有機能の開発は
- 機能追加については全くやっていません
- Winny2の開発経過をスレッドに書き込んでいたか
- 書いて、みんなに意見をいただくという感じ
- Winny1と比べてやる気はなかったのか
- はい、そうですね
- 義務感か
- Winny2に関しては、ずっとそう
- Winny2に実装されていたBBS機能は、その難しいとされる同期、管理をどのように対応しているのか
- 開発の初期段階なので、まだ、これはビックリというものはない。基本的にクライアント・サーバ型のように、スレッドをたてた人をサーバに見立てて対応
- (※図を用いて説明。「あるスレッドをたてた人が、あるIPアドレスで固定されてサーバとなる。こうするとあるスレッドだけをみれば、あるひとつのPCに依存しているので同期問題も、管理問題も対応できる」 ※以上は、説明の概要でしかありません。)
- そのPCがネットワークにつながっていなければ、そのスレッドは書込み等できないのでは
- そう
- 改善策は
- これはこれでよいところがある。非常に分かりやすい管理モデル
- スレッドをたてた人のIPアドレスは明らかになるのか
- そうです
- 本件の正犯とされる人は、スレッドをたてて放流告知をしていたが
- そういうことみたいですね
- あのような使い方は
- 全く想定外
- 期待していた使い方は
- スレッドの管理と維持
- 論外の使い方か
- 自分の責任で使ったということ。スレッドをたてた人は特定できる仕様
- 説明は
- 解る人は読めばすぐにわかる技術であり、設計
- 「スレ立てと読み込みの匿名性に関してはまだ完全じゃない(読み込み時に直接接続に行く可能性が高い)です」との書込みも
- (Winnyの仕様として)何をしているのかは、一目瞭然
- 正犯とされる方の未成年者だった方は(、スレッドをたてた人は特定できることを)知っていたと証言している
- なるほど、はあ
- この公判で証言している
- 【参考】Winny事件/11回公判/検察側証人尋問/正犯(とされる方)/1
- (弁護人)スレッドを立てた人は、IPアドレスがわかると知っていたか
- (証人)知っていた
- わかっていたのに、どうして立てたのか
- 考えなかった。知識としてはあったが、思いつかなかった。逮捕されないから(と思って)放流した
-
- 聞きました
- わかっていて放流告知をすることについては
- 私にはわかりません。犯罪予告と同じ心理なのかも(?)
- 実装していないアイデアはあるか
- たくさん
- 第16回公判調書にもあるが、デジタル認証もか
- 【参考】Winny事件/16回公判/被告人質問/「Winnyの技術」
- はい
- 前提知識としてデジタル認証について説明してください
- 削除の命令を出した人が、本当に管理者かどうかをデジタル認証を用いて確認するということか
- 簡単に言うとそうである
- ファイル共有においても、不適切であれば削除することは
- 応用できると思う
- デジタル認証技術のファイル交換部分への応用が可能か
- BBSのほうが技術的には難しいのであって、ファイル共有にも応用できる
- Winnyには無視リストという機能がある
- 無視リストの中に削除したいファイルを強制的に入れるということも。これでは完全ではないんですけど
- 第17回公判で、そうした技術を特許出願中であると明らかにした
- 【参考】Winny事件/17回公判/被告人質問/「Winnyの評価」及び「家宅捜索」等
- (弁護人)弁20号証を示します。特許出願に関するもの
- (被告人)はい
- これは、どのような内容か
- 全部で3つ。ひとつが、ファイルを強制的に消すもの。ふたつめが、問題のないファイルについて、ノードにこのベンダーさんであれば許可するといった電子認証のシステム(?) そして、特定のファイルを強制的にひろめるもの。
- この機能でセキュアなシステムが可能か
- セキュアの定義にもよるが、安全に管理できる
- 今Winnyネットワークでは、ウイルスが問題となっているが、これに対応できるか
- もちろん消せます。あと、今、問題となっているのは、ウイルスによって意図しない情報が流出してしまうこと。このような意図しない情報流出に対して、流出しないようにすることは、(この特許出願しているシステムを用いずとも)簡単に修正が可能である
- どの程度で修正可能か
- プログラム数行(の修正)なので、1時間ぐらいで
-
- 削除以外にもいろいろなコントロールができる
- ファイルの流通を安全に管理できるんですね
- はい、できます。ま、
- 弁15号証(「Winnyの技術」)172ページを示します
- はい
- この技術は、いつ思いついたのか
- 開発していれば、どっちにしろ行き着いた。P2P-BBSは管理が問題となるが、それの解決法は、ファイル共有に応用できることを思いついた
■以上で、弁護人からの被告人質問は終了。17時5分前ぐらい。
■裁判長から、次回は3月20日で、引き続き被告人質問を行うとのことを告げられ、本日は閉廷。
■【情トラ】まとめ
今回の公判で、一般的に注目すべきところは、次の2点でしょう。
- 昨今、ウイルス感染により、Winny経由で情報が流出してしまう事件が頻発していることに対するWinny開発者の感想・意見等
- 告訴権者から著作権法違反幇助での告訴状が存在していたが、その内容が「条件付き」というものであったこと
前者については、多くのblog等で話題になっているようですね。
後者については、果たして、どのような条件であったのか。そして、告訴権者が幇助行為(つまり、本件被告人)に対して明確な告訴意思を有していなかったとしたら、そもそも本件の起訴の扱いは、どう解釈されうるのか。さらには、、、その内容にもよりますが、いくつか考えることができそうです。
この他にも、個人的には勉強になったところが多々。ま、それは、いつものことなのですけど。それにしても、この新年度を迎える直前のタイミングで、裁判所の構成に変更があることは、珍しくはないのでしょうか。今までの裁判官が4月でお二方転勤になるから、とり急ぎ、お一人だけ先に変更しておいたということもあるのかな、とか思ったりも。また、検察官も本日はお一人だけでした。連続して出席されていた方は、今回どうされたのか。たまたまかもしれませんけどね。
次回(3月20日(月))も、最初から最後まで公判傍聴いたしやす(予定)。次々回以降は、日程にもよりますが、一応、第一審判決まで京都地裁に通い続けますので。
【追々記】
参考として。
■<ウィニー開発者>「流出は想定外で残念」講演会で主張 [ 03月11日 20時50分 ] | Excite エキサイト : ニュース
ウィニー開発者の金子勇被告は昨年9月22日、ウィニーを媒介とした内部情報流出を止めるシステムの特許を、特許庁に出願している。
弁護団事務局長の壇俊光弁護士によると、システム名は「提供情報管理システム」。仕組みは、ウィニーネットワークに管理者を置く ▽管理者が「問題あり」として削除したい流出ファイルの固有ナンバーを暗号化し全利用者にネットで配布する ▽利用者はナンバー情報を自動的に受けて、そのファイルはダウンロードされなくなる――というもの。
*1:この連載の目的は、「この公判に関心がありながら実際に傍聴に行くのは難しい方々に、そして(『Winny』に興味がなくとも)、刑事事件の公判とはどのようなものかといった疑問を抱かれるような方々に対して、情報を共有してもらえれば、などと考えて連載しています」というモノです。cf. http://d.hatena.ne.jp/joho_triangle/20060301/p1