市民裁判員先行記第42回/Winny事件第25回公判

 京都地裁Winny開発者が被告人となった,著作権法違反幇助に係る事件。第25回公判に傍聴に行ってきました,最初から最後まで(13:30から17:10まで)。初公判からほぼ2年の年月を経て,今回で結審でした。次回は平成18年12月13日(水)午前10時から,(第一審)判決言渡しの予定。


■傍聴前について

  • 余裕をもって京都地裁到着。カバンを預け,身体検査(ポケットにモノが入ってないかどうか程度)後,101号法廷に
  • 13:15 被告人も101号法廷に。その際,裁判所職員さんから,「傍聴券を確認させてください」といわれてしまっていたが,職員さんが「本人? (顔がわからないので)」と気づき,無事法廷に入れた次第
  • 13:30 開廷。本日は,傍聴席がほとんど残席なし


■この傍聴録は,【情トラ】の個人的なメモをまとめたものであり,全てを再現できているわけでは勿論ありません。また,【情トラ】の手による編集(表現簡潔化など)も加えておりますし,時には実際に発言されていないにもかかわらず,【情トラ】が理解した(思い込んだ)ものを勝手に付加しまっている箇所もあるかもしれません。さらには、私の理解不足や事実誤認なども,必ずあるはずです。と,多くの但書がありますので,その旨ご留意されるようお願いいたします。
■なお,第1回公判からこれまでのWinnyウィニー、ウイニー)事件公判傍聴録/【情トラ】まとめ(概要も含む。)は,次に掲げています。全てを読んでみるだけの価値はあるのではないかと考えていますので,ご参考まで*1

  1. 検察官起訴状朗読、被告人陳述、検察官の冒頭陳述及び証拠調べ請求等
  2. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その1
  3. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その2
  4. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その3
  5. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その4
  6. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その5
  7. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その6
  8. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その7/傍聴なし
  9. 検察側証人尋問/京都府警ハイテク犯罪対策室所属捜査員/その8
  10. 更新弁論等
  11. 検察側証人尋問/正犯(とされる方)/その1
  12. 検察側証人尋問/正犯(とされる方)/その2
  13. 検察側証人尋問/社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)担当者
  14. 検察側証人尋問/任天堂担当者/ゲームボーイアドバンスのゲームプログラムの真正・不真正の鑑定
  15. 被告人質問/被告人の「これまでの経歴」及び「つくってきたプログラム」
  16. 被告人質問/「Winnyの技術」
  17. 被告人質問/「Winnyの評価」及び「家宅捜索」等
  18. 被告人質問/「各種調書の任意性」及び「47氏としての2ちゃんねるへの書き込み」等
  19. 弁護側証人尋問/Winnyの技術等
  20. 被告人質問/Winny2の機能等
  21. 被告人質問/「Winnyの将来展望について」等
  22. 被告人質問/Winnyの開発意図等
  23. 証拠の整理
  24. 検察官論告・求刑
  • 弁護人最終弁論
    • 「大部なものになっているので,重要な箇所をピックアップしながら,弁論したい」とのこと
    • 壇弁護士曰く,「弁論要旨については,個人名をふせ,誤字脱字等を修正するなどした後に,Web上で公開する予定がある」とのこと
    • 以下は,基本的に,「映写されたパワーポイントの内容」と「若干の弁論内容メモ」に基づき,傍聴録を作成することといたします
  • 本事件の本質
    • すぐれた技術を生みだした者は,すぐれた技術を悪用した者の幇助とされなければならないのか
    • こうした本事件の本質が,次に掲げるものによって歪められている
  • 本事件について
    • 訴因の特定がないので,却下されるべきである
    • 検察側によって特定されたのは,Winny2β版を公開した行為のみである
    • Winnyを公開した行為のみが訴因とされているのか,開発行為も含めているのか,開発行為も含めるとして開発におけるどのような行為が訴因となるのか,また,それらがどうして幇助となりうるのか。このように,訴因の特定がなされていないので,訴えは却下されるべきである
  • 本件における事実
    • Winnyは価値中立的なソフトウェアである
    • (被告人は,著作権法)違反行為を助長するような行為をしていない
    • 著作権侵害を蔓延させる意図はない
    • 各国の判例が,単なる開発・公開行為だけで犯罪としていない
      • たとえば,営利目的など,正犯に対する助長的行為が,客観的に存在することが最低限必要となるはずである。そして,このことは,捜査機関自身も認識していた
      • それゆえ,客観的助長行為の不存在の裏返しとして,捜査機関等は著作権侵害を蔓延させるという主観を重視することとなった
      • さらに,こうした主観は,捜査職員の作文の書き写しにすぎないものである
      • (被告人の)Winny開発の目的とは,ファイル共有ソフトの開発の技術的検証だったのである
  • 世界的なファイル共有の判決
    • KaZaA事件(オランダ)/民事→責任否定
    • グロックスター事件(アメリカ合衆国)/民事→厳格な要件をもとめた
    • ソリバタ事件(韓国)/刑事→無罪
    • ezPeer事件(台湾)/刑事→無罪
  • 開発までの経緯
    • http://homepage1.nifty.com/kaneko/nflight2.htm
      • 利用者の意見をききながら,バージョンアップしていったフライト・シュミレータ
    • その他(スターボウ,フィジアニメ,Link,Wire,Snow,Ballなど)
      • 無償で公開
    • Winnyについて
      • 開発状況をダウンロード板で報告
      • 公開・配布サイト及びReadMeにおいて,「これらのソフトにより,違法なファイルをやり取りしないようお願いします」との注意書きを記していた
      • 被告人からAさん*2へのメールにおいては,「とりあえず技術とそれを何に使うかは別で,大規模なファイル共有技術はいろいろ応用がきくし,次世代コンピューティングで基盤となる重要な技術なので,この辺のノウハウを握っているのは何かと重要だとおもっています」と記しており,何ら違法性を認識していなかった
  • 逮捕・起訴に至るまで
    • 平成15年11月27日に,被告人宅で,正犯として立件するためのWinnyの送受信実験が行われた
    • 被告人が,「Winnyの開発・バージョンアップ等をしないという誓約書を書いてもよい」と言ったところ,捜査職員は,内容虚偽の申述書を作成し,それを被告人に書き写させた
  • 保釈後において
    • 「SkeedCast」というソフトウェアの開発顧問となった
    • Winnyの技術」を出版した
  • 検察官からの主張について
    • 「徹底した匿名性により,著作権侵害による摘発を著しく困難にする機能(キャッシュ機能,暗号化機能)が備えられている」との主張
      • 匿名化技術は,第一発信者を特定できなくするものであって,セキュリティのために重要な技術である。すなわち,匿名性とは,逮捕を免れるなど犯罪を行うための技術ではなく,ハッキングから利用者を保護する目的をもつものである
    • 「匿名性が違法行為を助長する」
      • 正犯は,BBSにおいて,トリップを付けスレッドを立てることによって,IPアドレスが公開されることを知っていたにもかかわらず,それらの行為をした
      • WinMXではIPアドレスが公開されるが,それにも関わらず利用されていた
      • また,暗号化技術は,キャッシュの内容を明らかにすることは通信の秘密を害することになるので,それを防ぐために内容をわからなくするものである
      • つまり,匿名化と暗号化は別の技術である
    • 「効率的な送受信により,利用者を拡大させる」
      • 効率性の向上は,違法性の向上ではない。効率性の向上を否定することは,技術の否定である
    • 「ダウンロード枠増加機能」
      • ネットワークの効率向上の技術にすぎない
    • クラスタ化機能」
      • 検索の効率向上
    • 「被参照量閲覧機能」
      • ダウンロードしやすいかの目安にすぎない
    • 「検索機能」
      • ファイル名が著作物であるとは限らない
    • 「BBSのボードリストの設定」
      • 2ちゃんねると同じカテゴリにすぎず,カテゴリが著作物を示すとは限らない
    • 「違法ファイルを無限に複製し,加速度的に拡散させる」
      • ファイル共有の効率性を高める技術
    • 「人気のあるファイルをアップロードさせるような機能」
      • 人気のあるファイルが,著作物であるか,著作物であるとしても許諾があるものなのか,ないものなのか,明らかではない
    • 「無償にやり取りできることにより,それらの著作物の代価を奪った」
      • 因果関係は,明らかではない
    • Winnyは,著作権侵害を助長するソフトである」
      • Winnyの客観的機能と,その利用実態は別にする必要がある。利用のひとつの実態をもって,その機能を論じることはナンセンスである。たとえば,カプセルマンという漫画があるが,これは,Winnyネットワーク上で流通させるために,著作権者が許諾した可能性が高いものであって,そうした例も利用のひとつの実態である(?)
    • 「数多くの2ちゃんねるへの著作権侵害を想起させる(?)書き込み」
      • そうした書き込みを抜き出しているのであって,そうした著作権侵害を論じる場ではなく,技術に関する意見交換の場として利用されていた(?)
  • 調書について
    • 著作権侵害を蔓延させる目的」という自白を強要し,作文を押し付けた
    • 到底任意性はなく,信頼性もない
    • そもそも,なぜ捜索・差押えが行われたのかについては,正犯の公判において証拠とすることなどを目的として,プログラムソースを差押えるためであった。しかし,そのプログラムソースは,正犯の公判において用いられず,その解析も中途でとまったままである
    • そして,実際に,被告人宅で行われたのは,プログラムソースの捜索・差押えだけではなく,Winnyを使ったファイル送受信実験であって,これが2時間ほど延々となされた。この実験の目的は,被告人を正犯として立件することにあったと考えられる
    • そうした実験が失敗に終わったことにより,被告人証言を作文した。つまり,立件するために「著作権侵害を蔓延させる目的」との申述書を作成し,それを被告人に書き写させた(理科系畑の被告人は,「蔓延」という言葉も普段用いることなく,また,漢字もわからずに「蔓」を書き間違えている)
    • この申述書には,「Freenet」への言及もなく,「WinMXの後継機として」との記述があるが,そのようなことを本人は述べるはずもない
    • こうした作文は,検事においても同様である。裁判官との勾留質問においては,被告人は「著作権侵害を蔓延させる目的」ということについては,異議を申し述べている。このことを知った検事は,当日のうちに再度調書を作成しに被告人のもとに訪れ,この異議は,弁護士のアドバイスに基づくものと再度調書を作成したのである
    • 裁判所におかれましては,これらの調書を職権で証拠排除すべきである
    • 警察及び検察においては,是が非でも立件したいという目的でもって,客観的には何ら証拠等がなかったことから,強引な捜査手法によって主観において意図を有するとしたのである
  • ここで,一旦15分間の休憩に
  • 検察官からの主張について
    • 「専ら著作権法違反行為を助長することを意図していた」との主張
      • Winny1はファイル共有ソフトであり,Winny2は大規模分散BBSソフトである。これらのソフトの開発の趣旨は,登山家が「山に登るのは,そこに山があるから」と言うことと同じであり,「そこに新しい技術があったから,それに挑戦した」のであって,特定の目的に結び付けていたわけではない
    • 著作権制度の枠組みをかえる変革を意図していた」
      • そこにはプログラマとしての視点はなく,不自然。第三者の利用方法から安易に推定すべきではない
    • 著作権侵害を助長する機能」
      • 安全に,かつ,効率性の高い機能
    • 「著作物を無料でやり取りさせることを信条としている」
      • ファイル共有ソフト(というかインターネットそのもの)による自由なコンテンツ流通とコンテンツ制作側の利益確保とは,矛盾しないものである。この新しいスタイルが,「SkeedCast」で示されている
    • 2ちゃんねる上の書き込み」
      • 被告人の書き込みを採り上げ,自白調書と同様に扱うことは誤り。一般的には認められない。そもそも47と付されている書き込みが被告人本人かどうかわからないのであって,被告人の真意を補強するための根拠とするのは不合理である。また,同一IDであれば,同一IPアドレスというわけでもない。このIDは,64桁の冒頭8桁が示されているに過ぎず,同一かどうかは明らかではない
      • 違法なファイル交換のための場ではなく,サポート情報を閲覧させるための合理的な方法であった
  • 法律自体が本件処罰を予定していないこと
    • 不特定多数への公衆に対する準備的行為とされる間接侵害については,原則として責任を負わないことを出発点とすべきである
  • 正犯について
    • 正犯のうち一人の証言によると,「放流は逮捕されないからやった」と言うが,「BBSで告知することは逮捕されるかどうかは考えなかった」と言う。BBSにトリップを付け,スレッドをたてるとIPアドレスが判明することはわかっていたはずなのに,なぜ,BBSの告知を行ったのかとの問いに対しては,「精神的におかしかったからじゃないですか」と答えている
    • もう一人の正犯の場合は,アップロードばかりを行っており,その自己顕示欲から意図的に匿名性を放棄していることが認められる。そうした特異な自己顕示欲,犯罪傾向からは,Winnyがたまたまそのツールとして使われたにすぎないと考えられる
  • 検察側の誤った主張立証活動
    • 本件では,被告人の何が違法なのかが全く明らかにされていない
    • 検察側が,IT技術に対する理解を欠いていた
    • 検察側が,著作権法その他の特別法に対する理解を欠いていた
    • わいせつ画像にこだわり,裁判官に不当な偏見を与えようとする不当な立証活動を行った
    • Winnyの有用面や将来の発展可能性を無視した
    • 専門的知識もないまま,専門的機関に照会することもなかった
  • 被告人からの意見陳述(※私の聞き漏らしや聞き間違い等が必ずありますので,その旨ご留意されますようお願いします)
  • cf.被告人意見陳述要旨: 壇弁護士の事務室
    • 意見を言います。
    • 私は,科学技術というものは素晴らしいものだと信じています。私にとって,アイデアを思いつき,それを新たな技術として実現することは,技術者としての自己表現であり,私なりの社会への貢献だと考えています。
    • Winnyの技術に関しては,10年前に思いついていたとしても,検証できなかったはずです。10年後に思いついていたとしても,その頃には,ありふれた技術として注目されることもなかったはずです。このWinnyの開発が,果たして(,時代の流れに対し),早かったのか遅かったのか,などということを最近考えています。
    • Winnyについて,昨今から,情報漏洩などが問題視されていますが,それらは,技術的に解決できるものです。Winnyは,将来的に評価される技術だと信じています。
    • 今日は,こうした問題にも対応できるようにバージョン・アップしたWinnyを,ここに持ってきました。しかし,現状ではそれを公開することもできません。
    • 開発を停止してから2年半が経ち,その間,世界中で新しい技術が生まれ,新しいアイデアもありますが,今,そのような(公開・配布ができない)状況にあることが残念です。


【参考】


【情トラ】感想
 いよいよ次回は,判決言い渡し。

*1:この連載の目的は,「この公判に関心がありながら実際に傍聴に行くのは難しい方々に,そして(『Winny』に興味がなくとも),刑事事件の公判とはどのようなものかといった疑問を抱かれるような方々に対して,情報を共有してもらえれば,などと考えて連載しています」というモノです。cf. http://d.hatena.ne.jp/joho_triangle/20060301/p1

*2:仮称とします。