最判平成19年1月25日-損害賠償請求事件

 次の最高裁判決に関する私的メモ。全く整理されていません。思いついたことの羅列的メモ。なお,メモのなかで意見と思しき部分等があったとしても,単なる個人的な疑問を記しているに過ぎませんので,その旨ご注意を。
最判平成19年1月25日-損害賠償請求事件

  • 裁判要旨
    1. 都道府県による児童福祉法27条1項3号の措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童を養育監護する施設の職員等は,都道府県の公権力の行使に当たる公務員に該当する
    2. 国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても,当該被用者の行為が公権力の行使に当たるとして国等が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うときは,使用者は民法715条に基づく損害賠償責任を負わない


 この事件の判決文のうち,特に次に掲げる部分に関して。

 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし,公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される。この趣旨からすれば,国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても,当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合には,被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず,使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わないと解するのが相当である。

 具体的には,次のような疑問が。

  • ある者の「行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合」
    • (1) その者が「公務員」であれば,その「個人」は「民事上の損害賠償責任を負わない」
    • (2) その者が「国又は公共団体以外の者の被用者」であっても,その「個人」は「民法709条に基づく損害賠償を負わない」
    • (3) その者が「国又は公共団体以外の者の被用者」であるとき,その者の「使用者」は「民法715条に基づく損害賠償責任を負わない」

 すなわち,国家賠償法1条1項は,(1)とすることをその趣旨とすることから,(2)という判断がなされることは了解するとして,さらに,(3)という解釈は,果たして,(1)から直接的に導き出されているのか,それとも,(2)を経由して導き出されているのか。このことにつき,より詳細に記してみようとしたものが,次のとおり。

  • (1)から直接的に導き出されているとする場合
    • ある者の「行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合」には,国又は公共団体のみが,被害者に対する損害賠償責任を負うと解されるのか
  • (2)を経由して導き出されているとする場合
    • ある者の「行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合」に,仮に,その者の「使用者」が「民法715条に基づく損害賠償責任を負う」とする。
    • しかし,それでは,当該使用者は,民法715条3項の規定に基づき,被用者に対する求償は行われうることになり,(2)のように被用者個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わず,たとえ,その被用者が国又は公共団体から求償されるとしても,国家賠償法1条2項により,故意又は重大な過失があったときに限られるとした意味が事実上なくなってしまう。
    • それゆえに,その者の「使用者」も「民法715条に基づく損害賠償責任を負わない」と解されるのか


 以上,国又は公共団体からみて,いわば外部的な問題である被害者に対する損害賠償責任のほかに,内部的な問題として「国又は公共団体は,使用者に対し,求償できないのか」という疑問も。
 つまり,国家賠償法1条2項は,「『公務員』に故意又は重大な過失があつたときは,国又は公共団体は,その『公務員』に対して求償権を有する」と定めているだけで,上記(2)又は(3)のような「国又は公共団体以外の者の被用者」又は「国又は公共団体以外の者(使用者)」に対する求償については,何ら定めていない。おそらく,「(2)国又は公共団体以外の者の被用者」に対しては,「(1)公務員」と同様に解し,「『国又は公共団体以外の者の被用者』に故意又は重大な過失があつたときは,国又は公共団体は,その『被用者』に対して求償権を有する」となるのであろう。
 しかし,そうではなく,たとえば,次のように解することはできないのか。

  • 「国又は公共団体以外の者の被用者」に故意又は重大な過失があったとき
    • 国又は公共団体は,その「被用者」だけではなく,「使用者」に対しても,求償権を有する
    • 国又は公共団体は,その「使用者」に対してのみ求償権を有する
  • 「国又は公共団体以外の者の被用者」に故意又は重大な過失がないとき
    • その「使用者」に故意又は重大な過失があったときは,国又は公共団体は,その「使用者」に対して求償権を有する
    • その「使用者」にも故意又は重大な過失がなくとも,国又は公共団体は,その「使用者」に対して求償権を有する
  • どのような形であれ,民事上の合意で,「国又は公共団体」から「使用者」に対する求償権を生じさせることができる

 そして,仮に,上記に掲げた解釈又は当事者間の合意により,国又は公共団体が,国又は公共団体以外の使用者に対し求償できるとして,そのとき使用者から被用者に対しては求償できるのか。使用者から被用者に対し求償できるとすると,被用者個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わず,たとえ,その被用者が国又は公共団体から求償されるとしても,国家賠償法1条2項により,故意又は重大な過失があったときに限られるとした意味が事実上なくなってしまうのではないか。