都道府県条例と市町村条例

 久々のbookカテゴリ。
都道府県条例と市町村条例―自治・分権時代の条例間関係の理論 (慈学社ブックレット 慈学社政策法学ライブラリイ 13)

 本書は,そのタイトルどおり「都道府県条例と市町村条例」に関する「条例間関係の理論」を示したものであり,はしがきに記されるように,「問題の背景とその変化,そしてそれに対応した解釈論の歴史的変化と現状としっかりと調査・分析すること」を前提として,理論を構築していくという内容になっています。

 個人的に,いわゆる法律書等を読む際において,ひとつの判断基準とするのが,「目次」なのですが,本書3頁に掲げられるそれは,(あくまで個人的に,ではありますが)まさに望むべき目次といえるもの。本書は,非常に論理的・構造的で,明晰な分析がなされた結果,まとめあげられたのであろうと思う次第です。分量も130頁程度と然程のものではなく,特に自治体法務に関心がある方は,一読されてみてはいかがでしょうか。
【参考として/目次(章のみ)】都道府県条例と市町村条例


 以下は,特に第七章に関する私的なメモとして。ある意味,明後日の方向を向いているかもしれませんので(!?),その旨ご留意を。

  • 調整過程でのパブリック・コメント等について
    • 本書は,「閉ざされた行政内部での調整ではなく,調整過程を一定程度公開するとともに,最終調整案をパブリック・コメントにかけることなどが必要」と指摘し,調整過程でのひとつの手続として,一般住民をその対象としたパブリック・コメント制度の必要性に言及している(p.117)。
    • 続いて,「都道府県条例案作成への市町村の参加手続や市町村条例案作成時での都道府県意見表出手続の創設が必要だと考えられ」るとも指摘しており,確かにそうした手続の必要性はあるといえるところである。
    • しかし,何もこのような手続を新たに創出しなくとも,パブリック・コメント制度をより一層活用することで,そもそもの目的を達成することもできるのではないか。
  • 【意見】
    • 群馬県内の市町村は、意見等の提出者としての対象範囲に含まれるのでしょうか。基本的には、その他の制度等を利用することになるのでしょうが、排除するものでもないと考えますので、確認的な意味を含めて、その旨を明示しておくことを提案します。
  • 【回答】
    • 例えば、地方自治法2条16項は「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。」と規定しており、このような事案の場合、県内市町村は県条例に対して特別な利害関係を有する団体であるということができます。
    • このように市町村が特別な利害関係を有する場合は、その検討過程で意見の交換・聴取等はなされるべきであるし、条例以外のものを定める場合であってもそのことは同様であると考えます。
    • よって、積極的に本制度を活用するという必要性は通常ありませんが、市町村からの意見提出を排除する必要はありませんので、いずれにせよ特に明記する必要はないものと考えます。
  • 議会の役割への言及について
    • 本書では,「条例制定段階」での議会の役割に対する言及はされているが(pp.121-122),事前段階での議会(議員)の役割を如何に考えるかについての言及はないようである。しかし,事前段階での解決策において,議会(議員)が果たす役割を考える必要もあるのではないか。
    • 特に,議員提出条例案が作成されるにあたって,事前段階で問題を解決する必要性もあると考えられる。その場合において,たとえば,議員提出条例案を事前に調整するための方策又は制度は,首長提出条例案とは異なる方策又は制度によって行わなければならないのか,それとも,首長提出条例案における方策又は制度を活用することもできるのか,といった論点があるとも考えられる。
  • 都道府県と市町村が,条例間の問題を訴訟で争うことについて
    • 本書では,都道府県と市町村の双方が,行政主体としての立場で条例間の問題を訴訟で争うことについて,抗告訴訟は可能とする説及び抗告訴訟はできないとする説のそれぞれを紹介し,たとえ可能とする説を採ったとしても,条例「制定」そのものが「具体的権利義務に関する」侵害に直接繋がっている場合を除き,条例「制定」を捉えて抗告訴訟を提起することは,困難だとする(p.127)。
    • 確かに,条例「制定」は,一般的な規範の定立であって,住民に対して法的拘束力を有するが,行政処分といえるためには,「直接」住民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定するものでなければならないから,通常は個別具体性に欠けるとして,処分性を有しないとされる。
      • そのため,行政庁の公権力の行使に対して,不服を申し立て,その適法・違法を争う訴訟であるところの「抗告訴訟」を提起することは困難だといえる。
    • しかし,条例「制定」に,そうした個別具体的な処分性こそは認められないものの,当該条例「制定」は,抗告訴訟の対象であるところの一般抽象的な「公権力の行使」には該当すると考えられなくもない。
      • このように考えた場合,当該条例「制定」そのものの違法を対象として,抗告訴訟のうち,法定外抗告訴訟としての違法確認訴訟を行うことはできないか。
    • また,条例「制定」に個別具体的な処分性こそは認められないものの,当該条例「制定」が違法であって,その結果として生じた状態も違法であるとも考えられなくもない。
      • このように考えた場合,当該条例「制定」そのもの(又は,条例「制定」によって生じた違法状態そのもの)についての違法を対象として,当事者訴訟としての違法確認訴訟を行うことはできないか。
    • 【追記】なお,以上のように考えるとしても,「訴えの利益」の有無についても考慮しなければならない。