多選禁止条例(案)について

 神奈川県の松沢成文知事(2期目)が提案している知事の任期を3期12年までとする多選禁止条例案が10日未明、県議会総務企画委員会で、一部修正のうえ全会一致で可決された。
 12日の本会議で可決、成立の見通し。首長の任期を将来にわたって禁止する条例は全国で初めて。ただ、現行の地方自治法などは多選制限を認めておらず、条例の施行は法整備まで先送りされる。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071010it02.htm?from=navr から一部を引用

 多選禁止条例に関しては,以前から関心を抱いていることもあり,メモ。遠からず,詳細に検討する機会があるので,その際に,改めて何らかのエントリーをupするかもしれません。


 なお,次に掲げられた疑問について。
それでも違法だそうです。 - 初心忘るべからず

 総務省の滝野欣弥事務次官は11日の記者会見で、神奈川県議会で制定される見通しとなった知事の多選禁止条例について「法律上の根拠がないという意味では違法だ」との見解を示した。
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20071011AT3S1101F11102007.html から一部を引用

 おそらくは,先般,まとめられた「首長の多選問題に関する調査研究会報告書(@首長の多選問題に関する調査研究会)」のうち,次に掲げる部分をふまえたうえでの「見解」なのではないかと。

 地方公共団体の長の多選制限は、どの程度の期間在任できるかという在任期間の制限であり、任期と同様に、地方公共団体の組織及び運営に関する基本的な事項である。したがって、在任制限を制度化する場合には、法律にその根拠を置くことが憲法上必要であり、地方公共団体の組織及び運営に関する事項を一般的に定めた地方自治法において規定することが適当であると考えられる。
首長の多選問題に関する調査研究会報告書(本文)(PDF) から一部を抜粋

 このうち,特に「法律にその根拠を置くことが憲法上必要」との部分に関しては,次のエントリーの一部分が,(ひょっとしたら)参考になるかもしれません*1
【おべんきょ情トラ】身につくロースクール/憲法7 - 【情トラ】附゛録゛


【追記】

 知事の多選禁止条例案を審議した県議会総務企画委員会は10日未明までもつれ込んだうえ、同案を可決した。施行期日を改めて条例で定めるとの修正が加えられたことで、松沢成文知事は「全国初」の条例制定という名誉を得る一方、自民など県議会も「多選制限には法的根拠が必要」とする主張を反映させた。政治的な妥協は「制定されたが、施行されない」といういびつな条例を生み出すことになった。
 知事は、5月に総務省の研究会が首長の多選制限を「合憲」とする報告書をまとめたことを理由に、条例案が否決された昨年12月との「状況の変化」を主張。県議会で多数を占める自民、公明、県政会は報告書が「制度化する場合は法律に根拠を置くことが憲法上必要」としていることから、委員会審議でも「地方自治法などとの整合性がとれない」と反論した。
(中略)
 自民県議団の田島信二団長は「条例は地方分権推進の一助となる」と賛成に回った理由を説明。松沢知事も10日の定例記者会見で「日本の政治改革を推進していく上での大英断だ」と議会側の対応を盛んに持ち上げた。
(後略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071011-00000077-mailo-l14 から一部を抜粋


【追々記】

地方自治法17条では、長の選挙については別の法律(公職選挙法)の定めるものとしている。公職選挙法では、長の多選禁止規定は定められていない。また、条例で定めることについて公職選挙法に何らの委任規定もない。以上の理由により、長の多選禁止について条例で定めることは、公職選挙法に抵触するものと思料される」

自治省選挙課の見解とのこと


【追々々記】

  • 【参考として】

【神奈川県多選禁止条例1)】
問:昨日の神奈川県議会の委員会の方で、知事の多選禁止条例案が全国で初めて可決されたんですけれども、首長の多選自粛を求める条例というのはこれまでに幾つか例があったんですが、今回、禁止ということで、総務省としての御所見をお願いします。
答:今おっしゃられたような趣旨だということですが、詳細は、まだ私どもも承知していないので、具体的なことは申し上げられないわけでございますけれども、従来から申し上げておりますが、「首長の多選問題に関する調査研究会」の報告書におきまして、制度化する場合には法律に根拠を置くことが憲法上必要と、こういう整理になっているわけでございますので、今回の条例も法律上の根拠がないという意味では違法なものであろうというふうに思います。そういうことも勘案して、施行を別途法律が改正されるときということにされたというふうに考えております。いずれにしてもこの多選問題、いろんな面で影響の大きい問題でございます。地方自治関係者、各党各会派、各方面で幅広い議論を行うということが必要であるというふうに思います。
問:この条例が明日にもという話なんですが、議会の方で成立するようなんですけれど、そうなった場合というのは総務省の方から神奈川県に対して、何らかの注意というか指導というか、そういうものはあるのでしょうか。
答:これは、なかなか難しい。地方自治法上は、そういう違法なものがある場合には、国として是正の要求をするというのが地方自治法の規定になっております。ただ、是正の要求というのは、具体的な法律関係というものが前提となり、それに対して是正の要求をするということでございまして、今回のように抽象的な法案、しかも施行期日は法律の改正後ということになった場合には、具体的な法律上の是正の要求という手段はできないだろうというふうに思います。よく今後お話を聞いてみたいという状況でございます。

【神奈川県多選禁止条例2)】
問:先ほどの多選の話に戻るんですが、神奈川県は、具体的に国の法制化というのを求めているのですが、それがこれから、いろいろあるわけですけれど、政府提出法案、あるいは議員提出法案等を含めて法制化の具体的な道筋について教えてください。
答:これは昨日、町村官房長官もお答えされているようですけれども、多選についてどういうふうに考えるかということについては、いろんな考え方があるわけであります。法制化を神奈川県の方では望むのでしょうけれども、その前にまず、どういうふうに考え方を整理していくかということは、正に各党各会派で議論しなければいけませんし、地方公共団体の中にもいろんな議論があるわけですので、地方公共団体の中での意見の集約ということも必要になってくると思いますので、今直ちにどういうスケジュールでどういう方向へ進んでいくかということは、予測はつかないというのが現状だと思います。

瀧野総務事務次官記者会見の概要−平成19年10月11日(木) から一部を抜粋

【知事多選禁止条例】
問:神奈川県で知事の多選を制限する条例が成立する見通しですが、総務省の研究会が1回打ち出した後、初めての自治体側の動きということで、神奈川県知事としては立法化を働きかけたいということもあるようですが、このことについて、大臣のお考えをお聞かせください。
答:この多選の問題ですけれども、自粛条例から神奈川県については、1段先に進んだ禁止をするということですので、このことによって、また国民的な議論が盛んになることを期待しています。私自身、多選については、これまでも否定的な発言をしてきました。やはり本人が出なければ1番間違いないと。ただいろいろ議論がありますから、このことによって各地方公共団体、それから、立法化に当たっては当然政党の理解がなければいけないのですが、一時期、議論が盛り上がったような感じがあったのですが、ただ今は、どうかなという感じになっています。大体、地方統一選挙の直前ぐらいに議論が盛り上がったりするのですけど。私が多選に否定的な発言をしたときも、県内にもいろいろな議論がありました。こうした問題というのは、様々な意見が出て、そして意見の方向がある程度集約化されてこないと実現できませんから、この神奈川県の問題提起によって、さらに他の自治体でもいろいろなことが広がってくるかどうか、もう少しその辺りを見て判断をしたいというのが今の考えです。
 いずれにしても私自身は、各自治体の条例でそれぞれ決めるという考えは理解できます。法律で全部の自治体を横並びで一律何期までと縛るよりは、各自治体の条例で決めるという方が地方自治にはなじむのではないかと思っています。基本は、本当は本人が出ないということを決めるか、あるいは選挙民がきちんと選挙の段階で判断するというのが基本原則ですが、それをある一定の条例なり、それから場合によっては法律に委ねるというのは、次善の策のような気もしますので、議論をそれぞれのところでもっと深めていくということをもう少し見てみたいと思っています。
問:今の件ですが、大臣は知事時代に続投に疑問があれば、選挙で選ばなければよいという考えでしたが、それは今でもお変わりないでしょうか。
答:それは変わりないです。それが本当の選挙の意味なので、それを放棄するのが、この1番の問題でしょうね。最後は選挙民がどう判断するかのところに委ねておかないといけないので。
増田総務大臣閣議後記者会見の概要−平成19年10月12日(金) から一部を抜粋

*1:とはいえ,これを読んだら更なる疑問が生じるかも。