医薬品のネット販売規制にかかるパブコメと行政訴訟と

 医薬品のネット販売規制の問題。その経過と詳しい資料は,次のとおり。
【楽天市場】医薬品のネット販売規制の問題に関する参考資料


 このうち,阿部泰隆先生*1による(医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会に対する)意見書は,いろんな意味で注目*2
 長くなりますが,適宜抜粋して以下引用。阿部先生は原告側代理人でもあられるので,訴訟の場においても以下に掲げる主張がなされることになるのではないか,と。
 【参考として】http://www.kenko.com/blog/genri/2009/03/blog-post_15.html

 ネット販売禁止の違法・違憲性と情報提供等のための省令改正の提案            


 (略)


1  省令による販売禁止
 ネットによる医薬品の販売は、従前、禁止規定もなく、許容されていたところ、今般、薬事法(以下、法という)平成18年改正(施行は21年6月)36条の3で、医薬品は1、2、3類に分けられ、これに続く同法施行規則平成21年改正(2月6日付)により初めて、ネット販売は「郵便等販売」(1条2項7号)として位置づけられたうえで、その1、2類販売は禁止され、3類は届出制の下で許容されることになった(省令15条の4、159条の14)。
 一般用医薬品に係る情報提供等の方法についても、1類については、薬局又は店舗内の情報提供を行う場所において対面で行わせること(省令159条の15)、2類についても、同様のことを努力義務としている(省令159条の16)。相談応需についても、1、2、3類とも、対面でとしている(省令159条の17)。そして、3類については、ネット販売業者は21年6月になれば直ちに届出をしなければならない(施行規則附則33条)。
 ネット販売を規制する考え方として、厚労省によれば、対面販売の原則があるが、それは平成18年の法改正でも、法律の条文には何ら規定はない。前記の改正省令で(さらに、薬局については、15条の5、15条の6)に初めて入ったものである。


2  授権規定は?
 しかし、憲法で保障された国民の権利(本件ではネット、電話等による一般用医薬品の販売、憲法22条の職業選択の自由から導かれる営業の自由。後記最高裁大法廷判決もこのことを明言する)を制限し、国民に義務を課すには、唯一の立法機関である国会が憲法の枠内で定める法律が必要(憲法41条)である。これは法治国家の大原則である法律の根拠論という。そこで、各省大臣が定めるに過ぎない省令では法律の委任がなければ義務を課し、権利を制限することはできない(国家行政組織法12条3項)。
 では、法律の授権はどの規定か? 直接の規定は見つからない。
 もっとも、法11条、38条は医薬品の販売業について必要な事項を政令に委任しており、そして、施行令第57条は省令へ委任している。しかし、これは包括的な委任規定であるから、白紙委任になるので、ネット販売禁止のような権利を制限する根拠規定と読むのは無理である。
 厚労省もそのことは認めているのか、ネット販売禁止を定める省令の根拠規定は、法36条の6であるとしている。
 しかし、これは第1類医薬品を販売するときは、薬剤師に書面を用いて適正な使用のために必要な情報の提供を義務付け、第2類については薬剤師に、適正な使用のために必要な情報の提供努力義務を課している(書面は不要)にすぎず、ネット販売を禁止する趣旨はない。その3項では、購入者から相談があったときに適正な使用のために応ずる義務を課しており、これは、1、2、3類を問わず、当然ネット販売をする業者にも適用される。しかも、この条文の見出しは、情報提供等である。禁止ではない。したがって、この法律の条文をいかに読んでもネット販売が規制されているとは到底読めない。
 もしネット販売を禁止する趣旨なら、それは国民の権利を制限するのであるから、明確に書かなければならないのが法治国家の要請(法の明確性の要請)である。どこにも書いていないが、ネット販売は禁止するつもりだった、対面販売を原則とする趣旨だったなどといっても、それが内閣法制局で審査され、国会で審議される法律の条文に書かなければ、国民の権利を制限することはできない。

(以下,見出しのみ引用)
3  では法律で規定すれば? 
4  省令で情報提供等の具体的義務付けを規定せよ
5  検討会での審議のあり方
6  まとめ

 ところで,本件において,行政訴訟の訴えを提起した原告は,当該訴訟での主張内容について,パブコメで意見を提出する機会があったにもかかわらず,同内容の意見は提出していなかったようです*3
 しかし,仮に,同内容の意見を提出していたとしたら,(1)厚生労働省は当該提出意見を考慮した結果及びその理由をどのように明らかにしたか,そして,(2)そのことが行政訴訟においていかなる関連性を有しうることになったであろうか,の2点につき,個人的には興味を覚えるところです。


 行政手続法8条及び14条並びに行政不服審査法41条においては,理由付記の制度が設けられているのですが,その趣旨は,行政庁の恣意的判断を抑制し,公正妥当な判断を確保するとともに,後の争訟につき便宜を与えるものとされています。そして,私としては,パブコメにかかる理由明示も,これらと同様の趣旨をもつ(or もちうる)と考えていたところ。


 もっとも,パブコメ行政訴訟との間に多大な関連性があるとしてしまうと,パブコメ実施にかかるコストが一層増大してしまう,といったことが考えられなくもありませんね。

*1:あの阿部先生。

*2:ぜひ全文を読まれることをおすすめします。たとえば,次のような記述も。「厚労省は、法律として提案すれば内閣法制局違憲とされるから、省内だけの審査でごまかせる立法スタイルを取る」

*3:http://www.kenko.com/blog/genri/2009/05/blog-post_18.htmlを参照のこと。