意見提出基本案検討


 政省令などの命令等を定める際に、広く一般の意見や情報を求める手続等を定めることによって、行政運営の更なる公正の確保と透明性の向上を図ることを趣旨とした「行政手続法の一部を改正する法律 (平成17年法律第73号)」の成立・公布(・未施行)によって、各地方自治体においても、行政手続条例の改正及びパブリックコメント制度の見直し(又は新規導入)が予定されているところです。

 そうした現状をふまえて、以下には、その「行政手続法の一部を改正する法律 (平成17年法律第73号)」により、新たに定められた「意見公募手続」等の内容を確認しつつ、各地方自治体における「パブリックコメント制度(意見公募制度、意見提出制度)」のあり方に関する意見をまとめることとします。
※なお、以下のまとめにおいて、意見及び見解等に該当する部分は、あくまで【情トラ】の個人的な考えに基づくものであることをご留意願います。

■このエントリは、適宜、改訂(追加も含む。)を予定しています。特に、行政訴訟法との関連についてや、手続の細目に関しては、まだ詳細に検討することとしています。
■最終的には、各地方自治体が実施する「行政手続条例の改正及びパブリックコメント制度の見直し(又は新規導入)」に関するパブリックコメントで、私が確認できたもの全てに対して、(できる限り)意見を提出することを目的としています。
◆参考として(行政手続法の一部を改正する法律 (平成17年法律第73号)の概要等(全てPDF文書))

■改正後行政手続法の規定を逐条で確認し、個人的に考慮すべきと考える点や、疑問に思う点などについてまとめます。

  • 第1条/目的等について

 (目的等)
第一条 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に閲し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
2 処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関しこの法律に規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。

 目的については、法では「行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資すること」と掲げられている。
 これを詳細に検討してみると、より具体的には、次に掲げることが主な目的とされている(、又は、主な目的とされうる)と換言できるのではないか。

  • 行政側から観た場合
    1. 行政の一方的または恣意的な意思決定を抑止することにより、行政決定の充分な公正性及び合法性を確保すること
    2. 行政上の意思決定を行う際に意見公募することにより、より詳細で多面的な情報を収集をすること
    3. 意見を公募し、かつ、提出意見を考慮する必要があることにより、できる限り適切かつ合理的な説明責任を果たすこと
    4. 行政運営及び行政上の意思決定過程の透明化により、適正かつ詳細な情報公開/情報共有を行うこと
  • 住民側から観た場合
    1. 行政上の意思決定により、その権利義務に直接規律が及ぶ利害関係人にとって、あらかじめ過剰な制約がなされないようにといった意見を提出する権利を確保できること
    2. 住民全体の利益が明らかでない場合、行政裁量が既得権益保護に偏るといった癒着や不公正につながりかねない等に対して、民主的コントロールを及ぼすことができること
    3. 専門的知識や個別具体的情報を有する住民が、それらの知識や情報を提供する機会を確保できること
    4. 行政の意思決定過程に関与することにより、住民としての意識向上や満足度向上が図れること


 要するに、パブリックコメント手続によって行政上の意思決定過程へと住民らが参加することの目的とは、大きくいって次に掲げる3点にあると考えられる。

  1. 利害関係人が権利義務を防御等する機会を確保すること/①利害防御目的
  2. 住民一般による行政の民主的コントロールを確保すること/②住民参画目的
  3. 行政機関が有していない生活情報・専門知識・多面的意見等を収集すること/③情報収集目的

 それぞれの場合について、行政−住民間の関係を鑑みると次のような関係にあるといえるだろう。すなわち、「①利害防御目的」の場合とは、住民のうち、ある程度特定の範囲内の個々人が、具体的な権利の主体として行政が策定する命令等に相対するという関係である。また、「②住民参画目的」の場合とは、住民が住民としての立場から、行政主体の意思形成に対し、その意思を反映させるという関係である。そして、「③情報収集目的」の場合とは、行政機関自体が、専門的知識を踏まえた意見・情報を(ある意味、一方的に)住民から募るという関係にある。


 「パブリックコメント制度(意見公募制度、意見提出制度)」のあり方を考えるにあたっては、まずは、これら3つの目的のうち、いずれを重視して制度目的とするのかを検討する必要があるのではないか。もちろん、三者のうち1つだけを選択しなければならないということではない。これら三者は相互矛盾するものではなく、相互に補足しあい、共立することも当然ながら考えられるからである。
 おそらく具体的内容によっては、「利害関係人の利益保護を重視しなければならないが、住民一般にはあまり関係ないという案件」もあるだろうし、また、「住民一般すべてが利害関係人となりうる内容であって、多面的意見等を収集する必要性も高いという案件」もあると思われる。そのほか実に様々な組み合わせとともに、その重視する程度も濃淡がありうるのである。
 このことを鑑みて、以下の逐条確認においては、これら3つの目的のそれぞれに即して、個人的に考慮すべきと考える点や、疑問に思う点などについてまとめることとする。


  • 第38条/一般原則等について

 (命令等を定める場合の一般原則)
第三十八条 命令等を定める機関 (閣議の決定により命令等が定められる場合にあっては、当該命令等の立案をする各大臣。以下 「命令等制定機関」 という。) は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない。
2 命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、当該命令等の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、必要に応じ、当該命令等の内容について検討を加え、その適正を確保するよう努めなければならない。

■たとえば、適正さを確保するために、改正が必要との申出を可能とすることはできないか。

  • ①利害防御目的
    • 利害関係人からの申出制度は、特に要請されるのではないか。
  • ②住民参画目的
    • 民主的コントロールという目的からすると、可能であればなお良いのではないか。
  • ③情報収集目的
    • 改正が必要なものはないかといった、全般的な情報収集を目的とした定期的な意見公募もありうるのではないか。

意見公募手続
第三十九条 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければならない。
2 前項の規定により公示する命令等の案は、具体的かつ明確な内容のものであって、かつ、当該命令等の題名及び当該命令等を定める根拠となる法令の条項が明示されたものでなければならない。
3 第一項の規定により定める意見提出期間は、同項の公示の日から起算して三十日以上でなければならない。
4 次の各号のいずれかに該当するときは、第一項の規定は、適用しない。
 一 公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、第一項の規定による手続(以下「意見公募手続」という。)を実施することが困難であるとき。
 二 納付すべき金銭について定める法律の制定又は改正により必要となる当該金銭の額の算定の基礎となるべき金額及び率並びに算定方法についての命令等その他当該法律の施行に関し必要な事項を定める命令等を定めようとするとき。
 三 予算の定めるところにより金銭の給付決定を行うために必要となる当該金銭の額の算定の基礎となるべき金額及び率並びに算定方法その他の事項を定める命令等を定めようとするとき。
 四 法律の規定により、内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項若しくは国家行政組織法第三条第二項に規定する委員会又は内閣府設置法第三十七条若しくは第五十四条若しくは国家行政組織法第八条に規定する機関(以下「委員会等」という。)の議を経て定めることとされている命令等であって、相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的として、法律又は政令の規定により、これらの者及び公益をそれぞれ代表する委員をもって組織される委員会等において審議を行うこととされているものとして政令で定める命令等を定めようとするとき。
 五 他の行政機関が意見公募手続を実施して定めた命令等と実質的に同一の命令等を定めようとするとき。
 六 法律の規定に基づき法令の規定の適用又は準用について必要な技術的読替えを定める命令等を定めようとするとき。
 七 命令等を定める根拠となる法令の規定の削除に伴い当然必要とされる当該命令等の廃止をしようとするとき。
 八 他の法令の制定又は改廃に伴い当然必要とされる規定の整理その他の意見公募手続を実施することを要しない軽微な変更として政令で定めるものを内容とする命令等を定めようとするとき。

■「広く一般の意見」とは、誰と対象とするものであるのか。

  • ①利害防御目的
    • 行政上の意思決定により、その権利義務に直接規律が及ぶ利害関係人が対象となろう。
    • この場合、行政がいかにしてそのアウトリーチを行うのかといった問題もありうる。
  • ②住民参画目的
    • 基本的には、当該地方自治体がその範囲とする地域住民が対象となろう。もちろん、その地域に通勤・通学する者も対象となるであろう。
    • また、高校・中学等の生徒児童も対象に含められ得ると考えられる。行政課題を検討してもらう対象を、何も有権者や納税者に限る理由はない。パブリックコメントを通じて地域社会の現実の動きを理解し、自分たちが住民として実際にその中で行動するための教育の一環ともなると考えうる。行政側にとっても、生徒児童にも理解できるように争点や関連情報を整理する必要があるため、そういったPR技術が向上する(向上せざるを得ない)という利点が生じるのではないか。
  • ③情報収集目的
    • 個別具体的な問題領域に対して、深い専門知識等を有している者が対象となると考えられることにより、何も地域住民に限らず、全国的に(さらに国外在住者にも)意見公募したほうがよいと考えられる。
    • また、地元大学教授、関係する専攻に在学する学生、弁護士、各種NPOなどの専門家を事前に登録しておき、提案等を行ってもらうという制度も考えうる。この場合、従来からある審議会方式と似たもののようであるが、人数や時間、場所等といった制約がないという利点があるとともに、その専門家の意見を手がかりに一般住民が新たな意見を提出するという循環が生まれる可能性もある。
    • さらには、有意義な情報提供に対しては、報奨金をだすなりの工夫も考えられるところである。

 (意見公募手続の特例)
第四十条 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合において、三十日以上の意見提出期間を定めることができないやむを得ない理由があるときは、前条第三項の規定にかかわらず、三十日を下回る意見提出期間を定めることができる。この場合においては、当該命令等の案の公示の際その理由を明らかにしなければならない。
2 命令等制定機関は、委員会等の議を経て命令等を定めようとする場合 (前条第四項第四号に該当する場合を除く。) において、当該委員会等が意見公募手続に準じた手続を実施したときは、同条第一項の規定にかかわらず、自ら意見公募手続を実施することを要しない。

■この特例の規定は、必要であるか。

  • ①利害防御目的
    • その権利義務に直接規律が及ぶ利害関係人からすると、手続に違背または瑕疵があるとして、訴えを提起しうるとも考えられる。
  • ②住民参画目的
    • 住民の意見提出権を侵害すると考えられるが、「やむを得ない理由」との比較衡量となると思われる。
  • ③情報収集目的
    • 特に問題はないか。

 (意見公募手続の周知等)
第四十一条 命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定めるに当たっては、必要に応じ、当該意見公募手続の実施について周知するよう努めるとともに、当該意見公募手続の実施に関連する情報の提供に努めるものとする。

■周知の対象は、その方法は。また、情報の提供が不足しているとの申出は可能であるか。

  • ②住民参画目的
    • できる限り、実施予定の公表をも行う必要があるのではないか。 各自治体の公式Webサイトに掲げるなどといった方法が中心となると考える。
    • 情報の提供が不足しているとの申出には、対応することの努力義務はあると考えられる。
    • 関連として、都道府県庁などが、その地域内基礎自治体が実施するパブリックコメント情報を集約するポータルWebページを用意することも要請されるのではないか。
  • ③情報収集目的
    • 全国的に(さらに国外在住者にも)意見公募するために、Web上の周知を十二分に活用すべきであろう。
    • また、専門家登録制度を採用する場合においては、それら専門家への個別通知も行う必要があると考える。
  • 第42条/提出意見の考慮

 (提出意見の考慮)
第四十二条 命令等制定後関は、意見公募手続を実施して命令等を定める場合には、意見提出期間内に当該命令等制定機関に対し提出された当該命令等の案についての意見 (以下 「提出意見」 という。) を十分に考慮しなければならない。

■どの程度、どのように提出意見を考慮する必要があるか。

  • ①利害防御目的
    • 考慮結果に合理的根拠などがないと判断されるときには、利害関係人からの提起も想定されるところではないか。
  • ②住民参画目的
    • 意見公募手続を実施する時期に関しても、案策定当初からなのか、それとも中間時点なのか、最終決定を行う前でアリバイ作り的に実施するのかといったことなどが大きな論点となりうるはずである。
    • できる限り適切かつ合理的な説明責任を果たすことが要請され、結果として、行政と住民間における適正かつ詳細な情報公開/情報共有が求められよう。
    • 不透明な行政裁量が不公正につながらないように、といった視点が重要になると考えられる。
    • 住民が、行政の意思決定過程に関与することにより、住民としての意識向上や満足度向上が図れることが要請されるところでもある。
  • ③情報収集目的
    • 特に、当初案では想定しきれていなかった情報提供に基づく「横だし」、「上乗せ」を考えなければならない場合に、いかに対応するかなどは問題となりうる。
  • 第43条・第45条/結果の公示等及びその公示方法について

 (結果の公示等)
第四十三条 命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定めた場合には、当該命令等の公布(公布をしないものにあっては、公にする行為。第五項において同じ。)と同時期に、次に掲げる事項を公示しなければならない。
 一 命令等の題名
 二 命令等の実の公示の日
 三 提出意見 (提出意見がなかった場合にあっては、その旨)
 四 提出意見を考慮した結果 (意見公募手続を実施した命令等の案と定めた命令等との差異を含む。) 及びその理由
2 命令等制定機関は、前項の規定にかかわらず、必要に応じ、同項第三号の提出意見に代えて、当該提出意見を整理又は要約したものを公示することができる。この場合においては、当該公示の後遅滞なく、当該提出意見を当該命令等制定機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしなければならい。
3 命令等制定機関は、前二項の規定により提出意見を公示し又は公にすることにより第三者の利益を害するおそれがあるとき、その他正当な理由があるときは、当該提出意見の全部又は一部を除くことができる。
4 命令等制定機関は、意見公募手続を実施したにもかかわらず命令等を定めないこととした場合には、その旨 (別の命令等の実について改めて意見公募手続を実施しようとする場合にあっては、その旨を含む。) 並びに第一項第一号及び第二号に掲げる事項を速やかに公示しなければならない。
5 命令等制定機関は、第三十九条第四項各号のいずれかに該当することにより意見公募手続を実施しないで命令等を定めた場合には、当該命令等の公布と同時期に、次に掲げる事項を公示しなければならない。ただし、第一号に掲げる事項のうち命令等の趣旨については、同項第二号から第四号までのいずれかに該当することにより意見公募手続を実施しなかった場合において、当該命令等自体から明らかでないときに限る。
 一 命令等の題名及び趣旨
 二 意見公募手続を実施しなかった旨及びその理由

 (公示の方法)
第四十五条 第三十九条第一項並びに第四十三条第一項 (前条において読み替えて準用する場合を含む。)、第四項 (前条において準用する場合を含む。) 及び第五項の規定による公示は、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により行うものとする。
2 前項の公示に閲し必要な事項は、総務大臣が定める。

■何をもって公布するのか。

  • ①利害防御目的
    • 結果の個別的な通知も視野に入れるべきではないか。
  • ②住民参画目的
    • 内容によっては、公報掲載や、公共掲示板への掲示も考えられる。また、各種広報誌への掲載も要請されると思われる。
  • ③情報収集目的
    • Webページへの掲出などでよいのではないか。
    • 専門家登録制度を採用する場合には、それら専門家への個別通知も行う必要があると考える。

 以上のとおり、3つの目的に即して、それぞれの目的に従った場合に、どのようなパブリックコメント手続が考えうるのかについて、逐条により確認してみた。改めて記すが、 「パブリックコメント制度(意見公募制度、意見提出制度)」のあり方を考えるにあたっては、まずは、これら3つの目的のうち、いずれを重視して制度目的とするのかを検討する必要があると個人的には考えているところである。もちろん、三者のうち1つだけを選択しなければならないということではなく、個別案件に応じて、それらの目的を柔軟に組み合わせて、運用していくことが求められるのではないだろうか。
 画一的な取扱いは、確かに事務運営上は簡易であるかもしれないが、いつしか、そもそもの目的を忘れ、単にルーティン的に処理すればよいとの意識を生み出しかねないおそれもありうる。常に何を目的としているのかを確認し、その目的達成のために、より適切な手法を選択すべきであると主張したい。
 しかし、あまりに柔軟な取扱いを許すと、今度は、ミニマムの基準で運用するという弊害もあるのではないかとの心配も生じうる。こうした声に対しては、次のような方策を提案したい。すなわち、パブリックコメント制度に対して、議会を関与させるというものである。具体的には、「①新年度始めの議会において、旧年度のパブリックコメント運用状況」、そして、「②年度末の議会において、新年度に実施を予定しているパブリックコメント案件」のそれぞれに関する議会報告を、行政(執行部)に義務付けることである。
 このような議会報告の義務付けは、行政の恣意的なパブリックコメント制度の運用を防止するとともに、「住民の代表によって構成される間接民主主義的な議会の役割」と「住民の生の声を反映しようとする直接民主主義的な住民参加」を両立させることへの一案でもある。


 なお、以上の提案については、その実現による事務量の増大に見合うだけの効果が得られるのかといった検証を要することは言うまでもない。その意味においては、パブリックコメント手続を統一的に取り扱う第三者機関の常設も検討されてよいはずである。
 また、この第三者機関の設置は、そうした単に行政の事務負担を避止するためだけではない。パブリックコメント対象案件に利害関係等を有する住民にとっては、「否定的な意見を言えば、強大な権限をもつ行政から反感を買うかもしれない」との恐れを完全に拭い去ることはできないと思われること、それに、個人情報を行政に提供することへの抵抗感がないとも言えないことへの対策ともなりうる。これらの恐れや抵抗感を排するため、何ら住民に対する権限を持たない第三者機関がパブリックコメントを扱うこととすれば、住民が感じる負担は、大幅に軽減されるのではないかとの考えによるものなのである。 


  • 【その他(その3)/改正後行政手続法は、「意見公募手続」の目的をどのように想定しているか】

 改正後行政手続法が、基本的に「意見公募手続」の目的をどう想定しているかについては、次のように考えられよう。すなわち、あくまで「意見公募手続」であって、「意見提出手続」や「国民参画手続」ではないということから鑑みると、基本的には「③情報収集目的」であるものと考えられる。つまり、行政処分の名宛人となりうる利害関係人からの意見提出に関しては、不利益処分をしようとする場合において、聴聞又は弁明の機会の付与という意見陳述のための手続を執らなければならないと定めることで足りると考えているのであろうし、また、国民一般に対して、意見提出権といった権限を保障しているとまではいえないとしているのであろう。
 しかし、こうした考えをそのまま地方自治体における行政手続条例の目的に導入すればよいのかといえば、そうではないのではないだろうか。「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて」(日本国憲法92条)行うとされているのであって、地方自治体がいわゆるパブリックコメント手続を制度化する場合においては、やはり、住民自治のよりよい実現が目指されるべきではないかと思われる。したがって、「②住民参画目的」をより重視したパブリックコメント手続の制度化が図られるべきではないだろうか。
 また、行政事件訴訟法の改正を受けて、原告適格の判断に関する9条2項の規定が設けられたことや、いわゆる「差止訴訟」が認められたこと等を鑑みると、単に不利益処分の際に当該不利益処分の名宛人に意見陳述の機会を与えるだけではなく、その規律制定の際においても意見陳述の機会を与えておくべきとの考えもありうると思われる。つまりは、「法令制定前(又は事業計画決定前)において、多面的な観点から当該法令案(又は事業計画案)を検討するという『パブリックコメント手続』によって、その法令(又は事業計画)の趣旨及び目的等を、可能な限り客観的に明らかにしておくこと」が重要視されるべきなのではないか。よって、できる限り「①利害防御目的」をも重視したパブリックコメント手続の制度化・運用がなされて然るべきだと考えるところである。