なぜパブリックコメント制度といった住民参加が必要と考えられるのか【参考】

1 住民参加とは何か
 日本国憲法92条にいう「地方自治の本旨」には、住民自治と団体自治の2つの要素がある。住民自治とは、地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素であり、団体自治とは、地方自治が国から独立した団体に委ねられ、団体自らの意思と責任の下でなされるという自由主義的要素である。
 地方自治に関しては、平成12年のいわゆる地方分権一括法の施行を契機とした大きな流れがあるが、この一連の改革のほとんどが機関委任事務の廃止など団体自治の強化を図るものであった。地方自治の本旨に資するためには、住民自治の拡充にも努めなければならないが、それは制度改革による全国画一的なものではなく、個々の都道府県や市町村、そして、住民自身の具体的な取組みに委ねられるべきということであろう。
 その取組みのひとつとして、いわゆる住民参加があるが、この住民参加には2つの側面があるとも考えられる。つまり、対立する住民利益が明確な争点には住民の関心は集まり易く、各地の住民投票に係る運動などに見られるように、住民参加は自発的になされて、首長等の解職すら招くほどである。だが、反面、対立利益が明確でない多くの問題には住民の関心は高くなく、住民参加もほとんど行われない。
 このことを鑑みると、個々の地方自治体等による住民自治の拡充への取組みとは、当該自治体において住民利益が明確でない問題や住民が身近に感じにくい問題に対して、何らかのかたちで住民参加を促す取組みだといえるのではないか。
 そして、住民参加を促す多くの方法のうち、筆者はパブリックコメント制度に注目している。それは、具体的な関係資料等を公表するため争点を理解しやすいこと及びインターネット等の媒介を利用するため政治家等を仲介せず直接に提言できることによる参加コストの低さ等々が理由としてあげられる。また、特定の個人や団体から「聞くだけ」に終始した従来の制度と異なり、不特定多数が意見等を提出し、それに対する取扱いの結果とその理由を公表することによる意見等を提出した者が感じる満足度の高さ(または、満足度が高くなりうる可能性)にも関心を有しているところである。


2 住民参加の必要性について
 なお、どうして住民参加が必要と考えられるのか。その背景についても論じておこう。
 従来から、行政は、住民に対して広範で干渉的な機能をもってきた。特に行政指導は、確かな法的根拠がないにもかかわらず、行政指導を受けた側にとっては、経済的、心理的な要因等により、それを拒めないほど大きな意味を持った。全国画一的に近代化するためには、行政が裁量による規制を広い範囲で用いる方法が、最も効率よかったのである。
 しかし、社会経済の成熟に伴い、全国画一的な格差のないサービスによる基盤の整備から地方ごとの事情を考慮した個性のあるサービスによる付加価値の供給へと行政目標が変化した今日では、行政が「住民全体のために」とだけ考えて行動するとは限らない。従来から、既得権益を持つものぐらいしか行政に対して働きかけを行わないのである。住民全体の利益が明らかでない場合には、行政の裁量がその既得権益の保護に偏るという癒着や不公正につながりかねないといえよう。
 そうした不公正を防ぐために、多種多様な住民が行政に対して意見を提出できる手続を確立すること、つまり、住民参加により行政の裁量をできる限り少なくすることが、必要なのである。