天皇

  • 国家的象徴

 「象徴」とは、抽象的な観念を具体的に示す存在のことであり、「象徴」規定(憲法1条*1)がもつ法制上の効果は、天皇が「日本国」「日本国統合」の象徴とされるという社会心理を維持する旨の宣言であって、「象徴」とされること自体に具体的な権限が随伴するといったことはない。
 なお、天皇の地位については、君主かどうかを論じられることがあるが、これに対する回答は「君主」の概念をどう設定するかによって定まるのであって、次の2つの条件は古くからほぼ一定して不動である。つまり、「独任機関であること」、「特別の身分の者が就任し、多くの場合、その地位は世襲とされること」であるが、この2つについては天皇の場合もあてはまり、天皇を「君主」だといえることになる。
 また、政治組織における役割も問題とされるところであり、これについては歴史的に大きく変動がある。そのうち、「統治権の重要な部分、少なくとも行政権か三権調整権をもつこと」、「国を代表して対外交渉をなす機能をもつこと」を要件とすることが比較的続いた考え方であるが、これによれば天皇はそのいずれの法的権能ももたないので「君主」とはいえないこととなる。
 ただし、民主主義の思想は、内閣が君主の権能を実質的に吸収してしまい、その内閣が議会のコントロールの下に置かれる体制(議会君主制)を理想さえするものであるため、君主の権能は名目化し、「君主」の観念について法的権能を要件とすることは適当でないと考える立場も成立する。日本国政府はこの立場にたち、天皇の地位が施主制であり、尊貴の対象とされることを理由として、「君主」とすることを公式見解としており(昭和48.6.28参議院内閣委員会)、この見解によれば、日本は現代型の立憲君主制国家ということなるのである。

 世襲要件(憲法2条*2)と養子の禁止(皇室典範9条*3)が規定されており、皇位継承の資格として男系男子(皇室典範1条*4)があげられているため、女性天皇(女帝)の問題がある。これについては皇室典範を改正することで足りるという法律事項説(多数説)と、憲法はそこまで予定していないという憲法事項説がある。後者は、憲法2条の「世襲」に「男系」という要件をも含んでいるのではないかとの考えであり、その考えに立った場合には「男系女子」は認められても、その後の「女系」が(憲法改正しない限りは)認められないことになる。125代にわたる歴代天皇の中に8人10代の女帝が存在するが、どなたも独身であったという事実があるとのことである。

  • 国事行為

 国事行為は憲法6条1項*5及び2項*6並びに7条*7に限定的に定められており、「首相及び最高裁長官の任命、国会の召集、衆議院の解散、栄典の授与などの意思行為」、「法令の公布、国会議員選挙の公示といった公示行為」、「大臣任免の認証、全権委任状や恩赦の認証などの認証行為」、「外交使節の接受、儀式の挙行といった事実行為」が掲げられる。

*1:天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

*2:皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

*3:天皇及び皇族は、養子をすることができない。

*4:皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。

*5:天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。

*6:天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

*7:天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。 二 国会を召集すること。 三 衆議院を解散すること。 四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。 五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。 六 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を認証すること。 七 栄典を授与すること。 八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。 九 外国の大使及び公使を接受すること。 十 儀式を行ふこと。