ガンの告知・不告知【大阪市立】

■本文筆者が言う「自己決定権」とは、患者本人が自己の生のあり方を主体的に決定する権利であるとされる。そして、この自己決定権は、患者が自分の進退と治療についての情報を知ること、そして、その情報に基づき医療を主体的に選択することという2つの権利があることが前提とされる。
■このことを逆から言えば、患者本人が、その病名・病状と、これから医師が行おうとしている治療についての情報を知ることができるときに、次の2つの条件が満たされた場合にはじめてガンの告知が可能になると言えよう。すなわち、患者本人が、自分にとっての危険性、その他の治療法、各治療後の状態予測について知りたいと願い、そして、その情報に基づき、医師に対して質問を繰り返すなどして色々な治療法の長所短所を把握したうえで、自ら治療法を選びうるときにはじめて患者本人にとっての「善き生」の選択という、ライフスタイルの主体的な決定のためにガンの告知が許されると考えられるのである。
■それ故に、ガンの不告知が許されうる場合としては、まず、患者本人が自分の身体と治療について知りたくない場合がある。そして、患者本人が未成年、それも幼い少年少女であるときなど、治療方法を主体的に選択することができない場合があげられる。
■このうち前者については、どんなに患者本人が知りたくないと明言していても、主体的に判断させることこそが本人のためになるとの反論が考えられるが、それは患者本人の知らないままでいる権利を侵害するだけだと言わざるを得ないだろう。本人の意向を無視してまで自己決定権を貫かせようとすることは、患者と医者の信頼関係を壊すだけの結果につながりかねない。
■また、後者については、わかりやすく丁寧に教えることにより、治療の選択権を行使させることができるとの反論が考えられるが、本当に、判断能力もないと考えられる幼稚園児や小学校の児童に対しても、そうした主張ができるのであろうか。日本の民法においては、物事を判断し、それに基づいて意思決定できる能力を意思能力といい、未成年者はその意思能力が制限されている。この趣旨を鑑みると、年少の者には、その保護者に対して教えることこそが本人の保護につながると考えられるのである。