159-参-本会議-27号 平成16年06月04日

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○  午前十時開議

○議長(倉田寛之君) これより会議を開きます。
 日程第一 国民年金法等の一部を改正する法律案
 日程第二 年金積立金管理運用独立行政法人法案
 日程第三 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案
  (いずれも内閣提出、衆議院送付)
 以上三案を一括して議題といたします。
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○議長(倉田寛之君) これより厚生労働委員長の報告を求めるのでありますが、藁科滿治君外十名から、委員会審査省略要求書を付して、厚生労働委員長国井正幸君解任決議案が提出されました。
 これにて休憩いたします。
   午前十一時三十二分休憩
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   午後一時一分開議

○議長(倉田寛之君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
 お諮りいたします。
 厚生労働委員長国井正幸君解任決議案は、発議者要求のとおり委員会審査を省略し、日程に追加してこれを議題とすることに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○議長(倉田寛之君) 御異議ないと認めます。
 よって、本決議案を議題といたします。
 これより発議者の趣旨説明を求めます。森ゆうこ君。
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   〔森ゆうこ君登壇、拍手〕

森ゆうこ君 私は、ただいま議題となりました民主党・新緑風会提出の厚生労働委員長国井正幸君解任決議案の趣旨を御説明いたします。
  本院は、厚生労働委員長国井正幸君を委員長の職より解任する。
   右決議する。
 次に、その理由について申し上げます。
 国井正幸委員長は、昨日の委員会において、年金関連法案の審議を一方的に打ち切り、強行採決という暴挙を行ったのであります。
 共産党政調会長である小池晃委員、社会民主党・護憲連合委員長の福島瑞穂委員、そして会派に属しない議員西川きよし委員の、しかも対内閣総理大臣の質疑の機会を奪ったのであります。
 これは、議員の質問権を奪い、言論の自由を封殺し、民主主義のルールを根底から否定する許すまじき行為であります。
 立法府の最も重要な責務は、法案審議を通じて行政府の暴走に歯止めを掛けることにあります。特に、国民の生活に重大な影響を与える法案においては、法案の疑問点を徹底的に検証して法案の欠陥や問題点を明らかにさせた上で、与野党を超えて慎重に審議し、修正すべきは修正し、廃案にすべきは廃案にするのが当然のことであります。委員長の重責を担う者は、このような国会審議の意義を深く胸に刻み、公正公平に議事を整理し、審議の充実を図ることは当然の責務であります。
 にもかかわらず、国井厚生労働委員長は、年金法案の審議に際して、その内容の重大さから民主党・新緑風会など野党各会派が慎重審議を主張し、審議の続行を求めているにもかかわらず、委員長職権で質疑終局、採決の暴挙を強行したのであります。このような行為は、良識の府参議院の委員長として資質に欠けると断じざるを得ません。(発言する者多し)

(中略)

 さて、昨日の小泉内閣総理大臣の締めくくり総括質疑、私どもは認めておりませんが、認めておりませんが、強硬に行われました。
 その質疑の中で、残念ながら、最高責任者として法案を、このたびの年金関連法案を提出された小泉総理御自身が、今回の法案の骨格であるマクロ経済スライドというものの考え方、細かい技術的な説明ではございません、考え方について全く御存じなかったということが明らかになりました。
 政治家が責任を取らない、そして法案提案者が何の法案出したか分かっていない。そして、あともう一つ、国民の皆さんの大変な怒りは、保険料、国民が納めた保険料を社会保険庁が勝手に無駄遣いをした。政治家もそれに加担した。その責任をだれも取っていない。
 そして、なおかつ、今後もその国民の皆さんからお預かりする大切な保険料が無駄遣いされずに、本当に国民が高齢期を迎えたときに安心して暮らせるためにだけ使われる、そのことの保証もない、そのような状況で、さらに、法案が参議院で審議される段階において、ようやく様々な数値が出され、それは政府の説明と随分違っていた、このようなことが明らかになり、これは修正すべきか、若しくは廃案すべきかと思われるような法律であるにもかかわらず、一方的に質疑を打ち切り、そして、対内閣総理大臣、議員生活十八年の最後の締めくくりと一生懸命準備しておられた西川きよし議員を始めとする野党の質問権を奪った。このような暴挙を私どもは到底許すことはできません。
 改めて、改めて、国井正幸参議院厚生労働委員長の解任決議、この解任決議を皆様から御賛同いただきたい。最後に申し上げまして、私の提案理由説明を終わりたいと思います。(拍手)
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○議長(倉田寛之君) 本決議案に対し、討論の通告がございます。順次発言を許します。藤井基之君。
   〔藤井基之君登壇、拍手〕

藤井基之君 私は、自由民主党公明党を代表して、ただいま、正確には約三時間前に議題となりました国井厚生労働委員長の解任決議案に対し、断固反対の討論を行うものであります。
 今日、年金制度は、七千万人の現役世代が加入し、三千万人の受給者の生活基盤となっており、国民生活に欠くことのできないものであります。予想を超える急速な少子高齢化が見込まれる中、年金制度を持続可能な仕組みに改革することは、我が国の将来に責任を持つ政権与党として先送りのできない最重要課題であります。
 国井委員長は、年金法案の一刻も早い成立が国民の安心につながるとの強い責任感を持って臨まれ、五月十二日に年金法案が参議院に送られてきて以来、連日連夜、野党との交渉を含め、円滑な委員会審議に精魂を傾けられてきました。
 国井委員長は、厚生労働委員会の運営に当たって、決して一党派に偏することなく、常に公正中立の立場からその職責を全うされてこられました。まずは、野党諸君の意向にも十分配慮し、法案審議に必要にして十分な審議時間を確保されております。衆議院の審議時間は三十六時間でしたが、参議院ではそれを上回る三十八時間二十分という十分過ぎるほどの審議時間を確保されました。
 審議時間だけでなく、審議内容の充実にも特筆されるものがあります。とりわけ、衆議院では実施されなかった地方公聴会を五月三十一日に横浜で開催され、幅広い国民の理解の獲得と国民への分かりやすい説明に努められたのであります。
 以上のように、時間を十分掛けて慎重審議を行った上で、会期末が迫る中、議会制民主主義の多数による議決ルールに基づき、委員長が質疑打切りの緊急動議に応じて採決されたのは、全く非のない適切な判断であります。

(中略)

 年金制度改革は、将来的に、公的年金の一元化などの重要課題を抱えております。引き続き、政府・与党が協調して広く国民の声を聞きながら、更なる改革の実現に邁進する決意であります。
 こうした中で、国井委員長には、引き続きその指導力を遺憾なく発揮していただき、諸課題の解決に邁進していただかなければなりません。
 本解任決議案に反対の意見を強く表明し、私の反対討論といたします。(拍手)

○議長(倉田寛之君) 大塚耕平君。
   〔大塚耕平君登壇、拍手〕

大塚耕平君 民主党・新緑風会大塚耕平でございます。
 ただいま同僚の森ゆうこ議員から、私の敬愛する森ゆうこ議員から御提案のありました国井厚生労働委員長の解任決議案に賛成する立場から討論を行わせていただきます。

(中略)

 さて、もうちょっとお待ちください、この江戸城ならぬ現在の年金制度がいかにおかしいものであるかを御説明申し上げましょう。委員長として、今から申し上げる事実も知らないままに、百年安心な年金制度という超誇大広告の政府案を強行採決したことは誠に遺憾と再三再四申し上げておきます。
 これは、お待ちになれない方もいるみたいですから、ちょっと先に御説明をいたします。(「現金だぞ」と呼ぶ者あり)いや、現金ではございません。今日はマスコミの皆さんもいらっしゃいますが、これは、日本の一億二千万人の年金、厚生年金と国民年金を計算している社会保険庁厚生労働省の年金数理計算のプログラムの現物であります。本邦初公開であります。
 この説明は後ほど申し上げますが、これ読めないんです、これは機械言語で書いてありますから。世耕さん分かるでしょう、これFORTRANとC言語で書いてあります。
 この説明に入ります前に、内閣府の経済財政モデルをめぐって私が竹中大臣及び内閣府とやり取りをしていた経緯については、本席でも予算関連法案の反対討論の際に御説明をさせていただきました。御記憶をいただいていれば幸いでございます。
 結局、その内閣府の経済財政モデルの概要は、竹中大臣の御英断により、四月初旬に私の手元に届きました。そして、そのモデルでどういうふうに例えば日本の先行きの経済やプライマリーバランスを見通すかという、そういう計算を行うために、ある一定の前提のデータ、外生変数というものを入れなくてはならないんですが、それを公開してほしいとお願いしておりましたところ、ようやく五月十四日になって提出をされました。一月十九日にはモデルによる試算結果を政府は公表しているわけでありますから、公開までに四か月掛かったことが意味している実態については皆さんの御推察にお任せをいたしますが、大いに問題があるものであります。
 要は、内閣府の経済見通しは信頼性の高いものではなかったということを証明するものであります。
 とはいえ、内閣府の経済財政モデル、実はそれもここにあります。これが、遠目で分からないと思いますが、後でごらんに入れますので。内閣府の経済財政モデル、方程式七百一本と言っておりました。そしてこれが外生変数、このモデルを明らかにするというその目的に向かって一歩前進したことは事実であります。そして、年金数理計算もこれと部分的に連動しているわけであります。
 今後は、内閣府や外部の有識者を交えて、本当で有意でかつ信頼性の高い経済見通しはどうあるべきかということを真摯に議論してまいりたいと、そのように思っております。(拍手)ありがとうございます。
 内閣府の経済財政モデルは、いろいろと経緯を聞いてみますと、昔の経済企画庁の時代から続いている古いモデルをベースに、言わば継ぎはぎで拡張、運用してきましたことから、今や全体像や計算結果の信頼性について担当の部署の皆さんも十分に自信が持てないという、それが本音であったようであります。
 担当の政策統括官もこう言っておりました。自分自身も実情が分からない、以前からモデルの内容や信頼性を精査する必要があると感じていたと正直に述べておられます。今更、過去を問おうとは申しません。しかし、こういういい加減なデータを基に政治が行われ、経済政策が論じられているところに日本の病根があるものと私は考えます。
 内閣府の歴代の幹部及び国会、この国会であります、国会がそうした実態に十分に目を向けてこなかったことについて、この霞が関、永田町かいわいの我々住人は大いに反省する必要があると言えます。この件の詳細については後ほどゆっくりと御説明を申し上げます。
 さて、内閣府の経済財政モデルをめぐるこうした動きを踏まえ、(発言する者あり)ありがとうございます、同僚の衆議院城島正光議員が年金数理計算のモデルの計算結果と及びその方程式群についても厚生労働省に開示を求めました。先ほど申し上げましたように、内閣府は資料の提出に四か月掛かりました。何やっていたんですかね。
 さて、城島議員にモデルの開示を求められた厚生労働省は、一晩掛けて資料を打ち出して、翌朝には段ボール箱三箱の資料を提出したそうです。実に偉い、この点は厚生労働省を評価したいと思います。その翌日、城島議員から私にこの資料が託されました。これと、あと段ボール箱二箱ほどあります。その結果、大変興味深い事実が明らかになってまいりました。
 委員長、よろしいですか。国井委員長には是非聞いていただきたいと思います。
 この件は、財政金融委員会の席上では概略をお話をさせていただきましたので、財政金融委員会所属の委員各位におかれましてはあらあら御承知のことと思いますが、年金制度の根幹にかかわる話でありますので、国井委員長並びに議場の議員各位にお伝えを申し上げたいと思います。
 厚生労働省から提出されました資料ですが、三箱のうち二箱は年金数理計算モデルによる計算結果の打ち出しでありました。数字が羅列されている表がぎっしり詰まっており、枚数を正確に数えたわけではありませんが、ざっと五千枚はあろうかという量であります。実に多いですね。もう一箱は、厚生労働省によれば、これが方程式群ですという説明であり、これが入っておりました。まあ、どうでしょう、ざっと五百枚ちょっとぐらいあると思います。
 さて、この一連の資料を見ても年金数理計算モデルの全貌がよく分からないんです。分かんないです、これは。計算結果の打ち出しの五千枚はともかくとして、方程式群だと言われて受け取ったこれについては、よくよく見ると、まあ方程式群ではなくて、これはプログラムの打ち出しなんですね、先ほど申し上げましたように。つまり、年金数理計算を行うためのモデルを機械言語でプログラミングしたものなんです、これは。それを打ち出したものです。
 議員各位の中にはコンピューターや機械言語に詳しい方もおられると思いますけれども、このプログラムはFORTRANと言われる言語、そしてCと言われる言語、つまりプログラミング言語で書かれているわけであります。これは一昔、二昔前の主流であった機械言語であります。
 私、一見若そうに見えますが結構年を取っておりまして、私より若い議員の皆さんは私が今お話をしていること、ある程度御理解いただけるものではないかと思います。与党の中でも、例えば、私より若い先生方の是非御関心を持っていただけるようにここからお願いをするわけでありますが、例えば林芳正議員、きっと御理解いただけると思います。私より一つお若いということを最近知りました。そして、世耕さん、専門家ですからお分かりですよね、後でごらん入れますよ。いやいや、皆さん大変親しくさせていただいておりますので。田村耕太郎さんもその一つお下ですし、小林温さんもきっとお詳しいと思います。このように、与党の皆さんだけお名前申し上げました、全部申し上げるのもいかがなものかと思いますので。
 さて、こういうプログラムを書く前提として、当然設計書とか要件定義書、そういうふうに言われるものがなくてはなりません。建物に例えますと、設計書、要件定義書は設計図でありまして、プログラムの打ち出しは設計図に従って作成した建物そのものであります。年金制度は建物そのものであります。まあ江戸城ですね、先ほど申し上げましたように。そして、計算結果の打ち出しというのは、その建物で実際に仕事をしたり生活をするという建物を利用したあかしということになります。したがって、先ほどの段ボール箱二箱分の打ち出し結果というのは、これは建物を利用したあかしであります。
 そこで、厚生労働省の皆さんにこう申し上げました。設計書や要件定義書など、年金数理計算モデルの全体像が分かるものを是非見してください、決して揚げ足を取るつもりはないですと、年金制度の全体像を今みんな知りたいと思っているんです、過去三十年、みんなこれを知りたかった、ようやくこれが出てきたことですから、設計書や要件定義書など年金数理計算モデルの全体像が分かるものを見せてください、こうお願いをしたわけであります。
 そうしたところ、まず最初のその答えは驚くべきものでありました。何と、そういうものはございませんと言うんですね。年金数理計算モデルといえば、建物と先ほど申し上げましたが、建物に例えれば高層ビルであります。設計図もなしで高層ビルを、これですね、高層ビルを建てることができるとは私にはとても思えません。
 そこで再度聞きました。何かあるでしょうと、なければこのプログラムが書けるわけがないじゃないですかと聞きましたところ、担当の方が、いや、こんなものがありますがと言って資料をくれました。その資料は二枚の、A4二枚のフローチャートであります。フローチャートについて片仮名で分からないという方については、後ほどどなたかに聞いていただければと思います。二枚のフローチャート図で年金数理計算モデルのプログラムが書けるとは私にはとても思えません。
 そこでさらに、世耕さんがお詳しいと思いますので世耕さんに解説をしていただきたいと思いますが、過日、厚生労働省の年金・数理課長と担当企画官と話をさせていただきました。数理課長は数学者なんですよ。実に朴訥とした方で、大変好印象の方です。職人という感じの方ですね。実際に会われた方もいらっしゃると思いますが、まあ、どういうイメージの方かといえば、映画で言いますと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のアインシュタイン博士のような、そういう感じの方であります。企画官は、これは文系のキャリア官僚の方ですが、この方もまた大変まじめで信頼できる、まあ、どういいましょうか、オタク系官僚であられました。いや、本当に大変まじめな企画官で、きっと厚生労働委員会の委員の方も審議の準備の過程でお世話になったと思います。
 数理課長の話によれば、現在使っているプログラムは、年金制度ができた当初からのプログラムを五年ごとの再計算時や制度変更のたびに少しずつ変更して、言わばパッチワークでだんだんと肥大化、複雑化していった、こういう代物だそうであります。したがって、確かに、関係者以外がちょっと見たから、あるいは読んだからといって理解できるような、そういう設計図や要件定義書はなくて、変更を指示されますと、担当者や数理課長がこのプログラムとにらみ合って、にらみ合って、ううんと、こううなりながら変更部分を書き上げていくと、こういうことだそうであります。そういう意味では、設計図や要件定義書がないという御説明はうそではなかったようであります。
 しかし、私は驚きました。皆さんも驚きですよね、恐らく。日本の年金制度は百年安心とおっしゃるぐらいでありますから、精緻な高層ビルか、はたまた大変高度な技術を駆使した飛行機のような、そういう精密機械かと思っておりましたが、何とその実態は、労をいとわぬ職人かたぎの数理課の職員の皆さんの勘と腕で作り上げる伝統工芸の作品だったようであります。実にすごいと同時に、驚きであります。
 私は、数理課の職員の皆さんを怒るつもりは全くないですよ。むしろその仕事ぶりに敬意を表したいと思います。まあ数理課長のお人柄といい、仕事に対するまじめな取組姿勢といい、古き良き時代の日本のサラリーマンのかがみのような気すらいたしました。
 数理課長に伺ったところ、現課長は既に在任六年目。数理課長というポストができて九代目だそうであります。一年から二年でローテーションをしていく官僚組織の人事の常識に照らしてみますと異例の長さであります。だれでもできる仕事ではなくて、余人をもって代え難いという、そういう理由から恐らくそういうことになっているのだと思います。
 まああんまり早く人事異動をさせてしまいますと、何しろ引継ぎ資料になるような設計書や要件定義書がない仕事ですから、きっと仕事が暗礁に乗り上げてしまうのではないか、そういう配慮からこういう人事ローテーションになっているのかなと思ったわけであります。
 厚生労働省としては、歴代のまじめな数理課長の皆さんに、一人で年金制度の裏付け計算の重責を担わしていた、そう言えるのではないかと私は思うのであります。
 そこで、数理課長に伺いました。個人的な数学者としての能力に依存して行われている仕事でありますので、きっと年金数理計算モデルの全体像が分かっている人は課長以外に厚生労働省にはほとんどいないのではないですか、そう聞きました。ちょっと意地悪かなと思いましたが、大変私とも気さくに議論をさせてくださいましたので、四人ぐらいはいますかと言って聞きましたところ、数理課長は非常にまじめに答えてくれまして、数理課の職員には分かっている人もいますと言って指折り数え始めて、ううん、五人は分かっていると思いますと、こうお答えになられたのであります。私は、数理課の職員の皆さんに改めて敬意を感じましたとともに、歴代の厚生労働省社会保険庁の幹部に強い憤りを感じたところでございます。
 今までのお話でお分かりのとおり、傍聴してくださっている皆さんもお分かりいただければ幸いでございますが、年金制度の裏付けとなる年金数理計算モデルの実情及びこのモデルの正確性、本当に正しく構築されているかどうかというのは、幹部はだれも分かっていないんです。職人かたぎのまじめな現場の職員に実務を押し付けたまま、御自分たちでは全くこのモデルにバグや問題がないかということを検証していないんではないですか。いわんや、坂口厚生労働大臣を始め政治家は、私も含めてです、だれも年金数理計算モデルが正しいかどうかは現時点では分かっておりません。かく言う私もこれからしっかり勉強をさせていただこうかなとは思いますけれども、何しろ設計図や要件定義書がないわけですから、これはなかなか素人には分かるはずもございません。
 この膨大なプログラムは非常に多くの、恐らくざっと見た感じでは三百ぐらいの、また片仮名で恐縮ですが、サブルーチンから構成されているようであると。サブルーチンといってもこれまた分かりにくいと思いますが、先ほどの高層ビルに例えますと、一個一個が部屋であります。この高層ビルの中が三百ぐらいの部屋に分かれているというふうに考えていただければ結構かと思います。
 国会で年金制度の数字的根拠にかかわる質疑を行う場合、厚生労働省は、このサブルーチンの一部を動かして質疑の場で計算結果を提示しているものであると思いますが、つまり、例えば三百ある部屋の一部だけに修正を加えるとか、あるいはその部屋の電気をつけるという、こういう作業をしているにすぎないわけでありまして、そういうことを行った結果、高層ビル全体が修正や各部屋の電圧に耐えられるかという検証は、毎回毎回これを全部回さないと分からないはずでありますが、そういう検証は行われていないのが実情ではないかと推測をいたします。これでどうして百年安心の年金制度と言えるのでしょうか。これは、もし物を動かすプログラムであれば、多分動かないですね。飛行機を飛ばすとか、そういうことではないかと推測をいたしますが、国井委員長はこういう実態をお分かりになっておられたでしょうか。百年安心な年金制度などという虚構に相乗りをしまして、自分では確信の持てないことを審議し、強行採決までして政府案を通そうとしていることは、この局面の厚生労働委員長として誠に恥ずべきことだと言わざるを得ません。
 厚生労働省の閣僚や幹部の皆さんは、自分自身で確認したわけでもなく、かつ、確信の持てないことを良心の呵責もなく答弁をし、まことしやかに年金制度を論じていたことは甚だ遺憾であり、国民を、あるいは審議に参加していた国会議員をだましていたと言わざるを得ない面があるのではないかと考えます。
 しかし、こうして今回の年金制度改革論議を契機にこういうものが開示をされたわけでありますので、今後、数理課と一緒に年金数理計算モデルの全貌を解明をいたしまして、立法府も行政府も正しい認識を共有して、改めて年金制度の改革論議を進めるようにしなければならないと思いますが、いかがでございましょうか。

(中略)

 さて、破綻同然の我が国の年金制度を立て直すには、抜本改革が必要なことはもはや衆目の一致するところであります。現行制度を前提とする政府案は、問題先送りと言わざるを得ません。
 そもそも、日本の年金制度は三つの点で極めて中途半端な構造を抱えております。委員長、御存じでありましたでしょうか。それらの改善なくして年金制度の再生はあり得ないのであります。
 第一は、年金制度の定義であります。
 すなわち、年金制度は社会保障なのか、単なる保険事業なのか、その点が明確ではありません。
 平成十六年度の予算関連法案の一つであります公債特例法案については、冒頭でも申し上げましたように、この席で反対討論を述べさせていただきました。年金事業の事務費を保険料で賄うことを認める特例の延長措置が含まれていたわけでありますが、その措置の合理性を説明するために、谷垣財務大臣は、年金は保険事業であり、事業経費を事業収入から賄うのは当然という答弁を繰り返していました。谷垣さんの、谷垣大臣の発言を素直に解釈すれば、日本の年金制度は保険事業であり、社会保障ではないことになります。
 戦前に年金制度がスタートした際には、民間保険会社が未発達であり、国が年金制度を運営する意味があったと言えます。しかし、民間保険会社が発達した今日において、年金制度を保険事業と定義するならば、国が運営する必然性はないのであります。せいぜい民間保険会社が破綻した際のセーフティーネットを整備するだけで十分でありましょう。
 一方、社会保障と定義するならば、谷垣大臣の御発言は間違っております。社会保険庁の経費を保険料収入で賄うのは不適切であり、公共政策としての社会保障であるならば、財源は税で賄い、関係経費は予算に計上するべきでありましょう。
 第二は、積立方式か賦課方式かという点であります。
 日本の年金制度は、当初は積立方式を目指しておりました。しかし、一九七〇年代以降、政治的配慮から給付の引上げが断続的に行われ、徐々に賦課方式の色彩が濃くなってまいりました。
 つまり、形式上は積立方式であり、多額の積立金を抱える一方で、現実には制度変更のたびに賦課方式の傾向を強めていったのであります。このため、日本の年金制度は、御承知のとおり、修正積立方式と言われております。
 政府は、国民に対して積立方式であることを喧伝する一方、少子高齢化に伴う保険料引上げ、給付引下げの際には、賦課方式だから仕方ないといった方便を度々使ってまいりました。都合よく両者を使い分けて、国民に正しい認識を定着させなかったこれまでの政府の年金制度運営の罪は重いものと言わざるを得ません。
 第三に、確定拠出なのか確定給付なのかが明確ではありません。建前としては確定給付を採用しており、少子高齢化が進めば保険料を引き上げざるを得ません。しかし、過去累次にわたりまして、政治的配慮によって保険料引上げが回避されてきたのであります。その結果、将来給付分の財源が確保できないという事実上の破綻状態に陥ったのであります。

(中略)

 以上のように、日本の年金制度は依然として社会保障的な保険事業であり、修正積立方式であり、拠出も給付も未確定方式という何ともえたいの知れない姿のままになっております。いや、むしろ今回の改正でその傾向が強まっており、これでは現役世代や将来世代の信頼を得ることは困難であり、政府案の問題先送り姿勢はやはり問題であると私は認識をしております。
 そういう政府案でございますので、国井委員長には、強行採決に及ぶことなく、先ほど来再三申し上げておりますように、もう一度ゼロベースからの議論をしていただくべきではなかったでしょうか。
 今回の政府案にはほかにも一杯重大な問題が含まれておりますが、一点申し述べます。
 物価スライド方式から、ただいま申し上げましたマクロ経済スライド方式に移行する点であります。要は、物価の伸びほどには給付の伸びを確保できないということでありまして、しかも、そうしたマクロ経済推計の前提が先ほどの内閣府の経済財政モデルに依拠している点が更に問題であります。
 内閣府のモデルの信頼性は低く、推計結果が恣意的であり、そしてそれを前提に全貌の分からない年金数理計算モデルで計算をしているこの年金制度。今更、過去を問うとは申しませんが、もう一度ゼロベースから、高層ビルを設計図を持ってしっかりと造り直すことが必要ではないでしょうか。

(中略)

 さて、厚生労働委員長、国井正幸委員長の解任決議案の理由がここにございますが、今までの私の主張に基づいて、この解任理由について改めてここで目を通しまして、私のこれまでの主張について自分なりに決して間違ってはいないということを今再確認しているわけであります。
 最後に、またおしかりを受けることを覚悟の上で、平家物語の冒頭を読ませていただきたいと思います。そして、私の同じ選挙区の鈴木政二議員と山本保議員に敬意を表して、これも以前ここでお話をさせていただきました徳川家康公の一節を申し述べまして、最後にさせていただきたいと思います。(「見ないで言え」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)そうですね、平家物語は申し上げます。
 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」、ちょっと見ちゃいましたね。「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす、おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし、たけき者も遂には滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」。
 そして、徳川家康公の遺言をここで申し上げまして、最後にさせていただきます。──ちょっと待ってくださいね。これは、小泉総理に対して以前申し上げさせていただいた言葉であります。そのときも小泉総理はおいでにならず、誠に残念でありましたが、今日もまた総理がいないところでこれを申し上げまして、私の解任決議に対する賛成討論に代えさせていただきます。
 申し上げます。
 「天下は一人の天下に非ず、天下は天下の天下なり、たとえ他人天下の政務をとりたるとも、四海安穏にして万人その仁恵を蒙らば、もとより、家康が本意にしていささかもうらみに思うことなし」。
 小泉総理及び与党の皆さんがこうした治世と政治を行ってくださるならば、決して国井委員長の解任決議など出ることがなかったものと申し上げて、私の賛成討論を終わらせていただきます。(拍手)

○議長(倉田寛之君) 井上美代君。
   〔井上美代君登壇、拍手〕

○井上美代君 私は、日本共産党を代表して、ただいま提案のあった厚生労働委員長国井正幸君の解任決議案に対する賛成の討論を行います。
 まず、私は、昨日の参議院厚生労働委員会で行われた、議会制民主主義を破壊し、良識の府であるはずの参議院の歴史に取り返しの付かない汚点を残した暴挙に対し、満身の怒りを込めて糾弾をいたします。
 小泉総理が答弁に、答弁不能に陥る中、野党の総理大臣への質問権を一方的に奪い去り、総理の国民への説明責任を投げ捨てて行われたこの採決なるものを、採決なるものを、総理の国民への説明責任を投げ捨てて行われたこの採決なるものを、国民は絶対に、絶対にですよ、認めることはできません。
 委員長、分かりますか。法案を委員会に差し戻し、委員会審議をやり直し、野党の審議権を保障するよう強く要求します。
 委員長、通じておりますか。分かりますか、言っていることが。国井委員長、国井委員長、あなたは、強行された採決なるものを行った後、一目散に逃げ出して、そして雲隠れをし、我々野党の理事に抗議の機会さえ与えませんでしたね。その態度は一体何ですか。
 そして、あなたは記者会見を行いましたね。聞きましたよ。あなたはこう述べています。共産党社民党の質問をしてもらってからの方がよかったかなと思いましたが、しかし手続上は致し方なかったと、こういう発言をしましたね。あきれて聞きましたよ。国民は怒っています。反省してください。あきれ果てて、言ってみれば開いた口がふさがりませんでした。あなたは、委員長、あなたは、野党の質問権を奪っておいて、質問をしてもらってからの方がよかったのかななどと言われました。その程度の認識なのですか、あなたは。認識が、本当に情けない認識ですね。
 あなたは、この問題が言論の自由の問題であり、議会制民主主義の根本問題であるという真剣な配慮が欠けていたんじゃありませんか。配慮がなかったと断言ができると思います。皆さん、そうですよね。この言葉には、国会議員の、野党の審議権を保障し、国民に対する責務を果たすという厚生労働委員会委員長としての自覚はどこかに忘れてきてしまっていて、そして全くみじんもないということが言えるのではないでしょうか。私は、国井委員長、そう断言せざるを得ません。手続上致し方なかったと、これは一体何ですか。どういう言葉ですか。意味も通じません。
 国会の手続あるいは国会の審議のルールとは、言論を保障し、そして国会議員の質問権を保障することに最大の眼目があるはずでしょう。皆さん、そうではないですか。(拍手)委員長、皆拍手をくれています。

(中略)

 るる述べてまいりましたように、どの点を取っても国井委員長には委員長を名のる資格はありません。野党の質問権を封殺し、しかも総理大臣への質疑の途中に強行採決に踏み切るという暴挙、この暴挙を進めた国井委員長、もはやあなたは一刻も早く委員長を辞めなければなりません。
 私たち日本共産党は、委員長解任決議案に強く賛成するとともに、この前代未聞の悪法、国家百年の計を誤り、国民を塗炭の苦しみに投げ込む悪法の断固廃案に追い込む決意を表明し、私の討論を終わります。(拍手)

○議長(倉田寛之君) しばらくお待ちください。
 これにて討論は終局いたしました。
 しばらくお待ちください。
 本日はこれにて延会することとし、次会は明五日午前零時十分より開会いたします。
 これにて延会いたします。
   午後八時十分延会