2018年、法曹人口5万人(その2/改善版)【同志社】

■近い将来において、法曹人口を増やしていくという司法制度改革の大きな方針がある。その結果としては、まずは、個人と企業活動のニーズに対応する法的サービスが向上するというメリットがあるだろう。
■たとえば、法曹の人数が増えることによって、各法曹の専門化が進み、より深く、よりきめ細かい対応ができるようになる。法科大学院設立の1つの目的でもある他学部、社会人出身者が法曹となった場合、各人が有するキャリアに応じ、行政職員から転身した者は行政訴訟に詳しい法曹に、経済学部から進学した者は金融知識が豊富な法曹になるという例が考えられよう。また、各事案の処理も、従来と比べて迅速な処理が期待される。これは、1人で何百件も事件を抱える裁判官などの問題が、人数が増えることで、1人あたりの負担が減るという解決に至ると考えられるからである。
■しかし、そうしたメリットは、2018年、法曹人口5万人という状態では、まだ現実のものとなるとは言い難いことも確かである。現在と比べ、たかだか2倍強の人員が揃ったからといって、現状が劇的に変わることを期待するのも難しいのではないか。それだけではなく、法曹人口の増加ばかりに注目して、単にサービスの向上のみを追求すると、逆に、正義の実現や個人の基本的人権の尊重が疎かになるというデメリットも考えられるよう。
■たとえば、各法曹の専門化がすすむと、法曹のなかでも特に弁護士が、自らの専門知識を活かせるニーズが多く存在する都市部へと従来以上に集中することも考えられる。そして、自らの専門外であるところの法律問題には全く疎い法曹も現れるであろうことにより、一般市民にとっては、何が得意で何が不得意な法曹かを見極めることが従来以上に必要となる。それが、逆に足を遠のかせてしまうことにもなりかねないのだ。また、迅速な処理も、一歩間違えると、法律や判例から紛争に応じた前例を見つけることだけに力を注ぐようになって、正義の実現よりも個人や企業のニーズのほうに合わせる法曹が現れるといった危惧もある。これは、安易な訴訟の提起や、無理を強いるような巨額な民事裁判の連発につながる例と考えることができよう。
■以上のように、2018年、法曹人口5万人の実現は、各種ニーズに対応する法的サービスの向上というメリットがあるとされるが、その実現が本当に達成されるとは言い難く、あまりにサービスの向上に目を向けすぎると、正義の実現や基本的人権の尊重が疎かになるというデメリットを抱えていると考えられるのである。