国家という迷信【神戸学院】

【1】
■国家が行う再分配政策とは、国民から徴収した税金を使って、国民全体のために、または、特定の人々や企業のために恩恵なり利益を与えることである。この再分配政策については、現代日本において、大きく2つの問題があるといえよう。
■まず、1つ目は、国民から徴収する税金に関する不平等である。たとえば、個人所得課税において、給与所得者は源泉徴収制度により収入の捕捉がほとんど完全に行われてきたことに対し、事業所得者は有効な収入捕捉の手段がなかったという不公平がある。また、累進税率構造は、一部の者に重い負担を求め、一部の者には何ら負担を求めないという不平等がある。特に何ら負担を求められないとされる者のうち、本当に負担を求めるべき者と、本来は軽い負担ぐらいは求めるべき者が混在しているのではないかと、疑問が投げかけられているのだ。
■そして、2つ目は、国家の再分配政策による税金の使途が、納税者によくわからない状態に陥っていることである。国家予算は今や80兆円という巨大な規模にある。たとえば、東京で納められた税金が、まわりまわって山陰地方の山中の高速道路建設に使われるとき、果たして納税者は自らの税金が何に使われたのか理解する術があるのだろうか。これは国民の利益のためという大義名分を隠れのみにして、実は政・官自身の利益や特定の人々や企業の利益になるように税金が使われる結果になっているのだ。
■以上のように国家の再分配政策には、税金徴収と税金投入の2つの不透明さという問題点が含まれる。この不透明さを解消するために、様々な制度改革が提唱されているところであるが、たとえば納税者番号の導入や地方への大幅な税源委譲などの抜本的な改革がなされる可能性は小さいと言えるだろう。そう考えると、国家が行う再分配政策には消極的にならざるを得ないのである。


【2】
■国家が行う再分配政策とは、国民から徴収した税金を使って、国民全体のために、または、特定の人々や企業のために恩恵なり利益を与えることである。この再分配政策については、現代日本において、大きく2つの必要論があるといえよう。
■まず、1つ目は、最低限のセーフティネットの必要性である。従来の終身雇用制度が崩壊しつつある現在においては、いつ所属する会社が倒産するか、いつ自らが失業するか見通しがつかないという問題がある。万一、職を失ったときにも、日本国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するのであって、再分配政策により生活保障を用意しておく必要があるのだ。
■そして、2つ目は、個々人の努力では対応することができないような防災対策の必要性である。たとえば、台風などは広い地域、多くの人びとに甚大な被害をもたらすものである。具体的には、河川の氾濫、高潮による浸水が挙げられるだろう。こうした被害に対して、予め個々人で対策できることは、時間もお金も限りがあるので、些細なことでしかない。だからこそ、国家が大規模な予算を組んで、河川の浚渫なり、堤防建設なりを行わなければならないのである。
■以上のように国家の再分配政策には、生活保障のセーフティネット、防災対策になる公共事業の2つの必要性がある。さらに、この2つに限られるものではなく、その他にも、様々な場面で「国民全体の利益を図る」ために再分配政策が必要とされるのである。
■しかし、税金徴収と税金投入の2つの不透明さという問題点が含まれることも、また事実である。この不透明さを解消するためには、たとえば納税者番号の導入や地方への大幅な税源委譲などの抜本的な改革を、国民の合意と納得の下に強力に促進しなければならないだろう。つまりは、国家の決定と個々人の決定との直結が求められるのである。
国家という迷信―超民営化のすすめ 国家という迷信―超民営化のすすめ竹内靖雄