遺伝子操作は環境保護を促進する【学習院】

■ほとんどの環境保護団体は、遺伝子操作技術を「悪」と非難する。しかし、遺伝子操作こそ環境保護を促進する切り札になる。
■今日、地表の38%が農業目的で利用され、その割合は毎年0.3%の割合で増えている。耕作地に1種類の植物だけ植える単一栽培は、土地を一般的な生息環境として貧弱にするため、肥料なしには成り立たない。だが、たとえ肥料をいくら追加しても、やがては土地を疲弊させてしまう。そして、多量の肥料の使用は、肥料自体を流出させ、河川を汚染するだけでなく、最終的な作物自体も汚染するかもしれない。つまり、結果として、農業は、地球に対して大きな圧力でしかないということは事実なのである。
■国連は、これから半世紀の間に、地球の人口が40%増加すると予測している。これらの人びとに最低限度以上の食料を提供するには、現在の食糧生産量の2倍から3倍が必要だと考えられている。そのため、その需要に見合った農地面積の拡大が求められるが、現在、農地として利用可能な土地は既に農地になっている。例外はアフリカ大陸だけという指摘があるほどで、現在、利用できる技術だけでは、収穫量を50%増加させることも不可能なのだ。それゆえ、新技術が必要とされており、最も収穫量増大の可能性があるのが、遺伝子組み換えの技術なのである。
遺伝子組み換え作物は、結果の予測がつかないという理由によって、危険だという評価もある。しかし、現実には、遺伝子組み換え作物は既に農作物として育成されている。そして、数々の画期的な成果ももたらしているのだ。たとえば、「ラウンドアップ」対応大豆は、それまでの複雑な除草作業を、「信じられないくらい簡単」に行えるようにした。また、遺伝子組み換え綿の出現は、それまで綿の栽培に必要だった殺虫剤、害虫駆除剤などの散布をほとんど不要とした。さらに、塩水栽培可能なトマトの登場は、それまでに塩類のせいで耕作不能として放棄された多くの耕地をまた耕作可能な農地にすることができるのだ。以上だけではなく、農産物の生産性向上も遺伝子組み換えがもたらす効用であるともいえよう。
■しかし、この遺伝子組み換え農業も、環境保護にとって望ましいことばかりではない。これまで使えなかった土地を耕作可能に変えることにより、かえって生物生息環境としては質の良くない農地が拡大することも考えられる。また、遺伝子組み換え作物の導入には高額な費用がかかるので、資本集約的な農法が採り入れられることにより、職を失う者が増加する。それらの者は、例えば焼き畑農業に従事するしかなくなるので、より効率の悪い方法が蔓延するかもしれない。こうした事態を避けるためには、利益にならない調査研究や農法指導、品種の配布を誰かがやらなければならない。そして、他の目先の利益だけを追う人々を説得する必要があるのだ。