人権の私人間効力/国の私法上の行為による基本権の侵害

■国と個人の関係を規律する基本権規定
 (憲法19条*1、14条1項*2の)各規定は、同法第3章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的自由と平等を保障する目的にあるもので、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。
■私人間における基本権規定の適用
 もっとも、私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難い。しかし、このような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないし類推適用を認めるべきとする見解もまた、採用することはできない。なぜなら、このような支配関係は、その支配力の態様、程度、規模等においてさまざまであり、どのような場合にこれを国または公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるし、それぞれの支配関係は、一方が権力の法的独占の上に立って行われるものであるのに対し、他方はこのような裏付けないし基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣の関係にすぎず、その間に画然たる性質上の区別が存するからである。すなわち、私的支配関係においては、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条*3、90条*4不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他方で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途があるのである。

  • 日産自動車事件(一部改変アリ)※本判決が、初めてまともに間接的効力説を認めたものとのこと。

■男女別定年制と民法90条
 原審の確定した事実関係のもとにおいて、A会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法14条1項、民法1条ノ2*5参照)。

  • 百里基地訴訟上告審(一部、かなりの改変アリ)

 憲法98条1項*6は、憲法が国の最高法規であることを定めた規定であるから、同条項にいう「国務に関するその他の行為」とは、同条項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味する。ここで、行政処分、裁判などの国の行為は、個別的・具体的ながらも公権力を行使して法規範を定立する行為であるから、国務に関する行為に該当するものというべきであるが、国の行為であっても、私人と対等の立場で行う国の行為は、そのような法規範の定立を伴わないから憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないと解すべきである。

*1:思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

*2:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

*3:3項 権利ノ濫用ハ之ヲ許サス

*4:公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス

*5:本法ハ個人ノ尊厳ト両性ノ本質的平等トヲ旨トシテ之ヲ解釈スヘシ

*6:この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。