自律と強制、倫理と法の関係について−法曹倫理と生命倫理の対比を手がかりに

 続いて、田中成明教授の講演。以下は、【情トラ】による私的な理解を含めた個人的なメモです。


 わが国の弁護士倫理と医療倫理に共通の重要課題として、プロフェッショナル倫理の実効的な実践に、プロフェッショナル団体は組織的にいかに取り組むべきかという問題がある。これは、プロフェッショナル団体の自己規律システムをいかに強化するかとの問題だと換言することもでき、制度的仕組みの整備と、それを促進し、支援する法的関与のあり方を考えることにつながるものである。
 そもそもプロフェッショナル団体は、高度な専門的技能の教育や訓練を行い、職務の公益的性質を確保し、当該プロフェッションとしての資格を付与することができる権限を基礎としており、その権能が社会にとって大きく影響力あるものであるがために、団体として自己規律的である必要があるとされる。もし、そうした自己規律的仕組みがなければ、すなわち、専門家と非専門家という非対称的な関係においては、非専門家の視点が保護されなければ、また、団体としての社会的アカウンタビリティがなければ、社会の広範な信頼は得られないことになると考えられるのである。
 しかし、やはりそのプロフェッショナル団体のもつ専門性及び自治権能の強さゆえに、法によって強制されることへの反発・不信がないとはいえない。ただ、そうは言っても、法に依存し、従属しなければ、実効性が失われるとの意識も併せ持つところであるのだ。

 プロフェッショナル倫理の「法化*1」には、大きく次の3つの方式がある。

    • 自立型法化…立法による一般的基準の定立、その基準に準拠した司法による個別的対応
    • 管理型法化…行政機関による指針(ガイドライン)による規制
    • 自治型法化…自治団体の自主法規などによる自己規律

 このうち、自立型法化及び管理型法化を主なものとした法的関与への医療関係者の不信や反発は強いものがある。それは、医療のプロフェッショナル性、科学技術的専門性、医師と患者の関係の特殊性や、萎縮治療、保身診療などの弊害によるものと考えられている。しかし、そうした医療関係者の不信や反発は、逆に非専門家からの不信を招くことにもつながりかねず、医療関係者が本来やらなければならないことがやられなくなるという問題も抱えているのである。
 それゆえに、患者の権利や利益の保護を重視した、公正で透明で実効的な自治型法化の強化拡充が求められることとなる。具体的には、プロフェッショナル倫理の最小限のところを、義務規定とすることで法で対応することとし、それ以外の倫理は努力規定とするが、内部的には強制的な役割をもつこととする。つまりは、プロフェッショナル倫理を義務規定と努力規定の組み合わせによる重層的構造とし、その制定に関しては、外部から自律的に行うこととするが、その強制力に関しては、内部においてはより強いものとするといった対応が求められるところとなるのではないか。
 こうした取り扱いは、弁護士倫理の場合も、構造的に同じ問題であると考えられる。ただ、医師より過誤がわかりにくいし、最終的には金銭的な問題となるので表面化しにくいだけかもしれないのである。

 以上をまとめると、自律的な倫理と強制的な法とを単純に対比する見方には問題があり、プロフェッショナル倫理には、自立的な面と強制的な面が含まれていることを理解する必要がある。そして、プロフェッショナル倫理の実効性の確保には、倫理と法の双方の協働が求められるところであると考えられるのだ。

*1:一定の基準を策定して、適正手続を保証しながら一定のサンクションを課す眼家事図無我整備され、実効的な起立システムが制度化されてゆくこと。