【おべんきょ情トラ】身につくロースクール/憲法7

「内閣の統括の下に置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、政令の定めるところによる」という趣旨の法律を定めたと仮定する。この法律に含まれる憲法上の問題点について検討しなさい*1

summary
【1】内閣の組織及び行政機関の組織のあり方等について
憲法65条…行政権は内閣に属すると定め、内閣の組織は、66条1項で法律事項とする。
憲法72条…内閣を代表して総理大臣が、行政各部を指揮監督すると定める。
憲法74条…行政各部に対しては、主任の国務大臣が分担して権限を行使すると定める。
⇔内閣の統轄の下に置かれる国の行政機関の組織のあり方等に関しては、どこまで憲法41条の「立法」に含められるべきか、または、どこまで内閣の自律的権限に属するかは明らかではない。


【2】憲法41条の「立法」が意味するところは何か
 形式的意味での立法との見解があるが、国会が憲法59条の手続を経て議決さえすれば、どのような内容であれ、法律になってしまいかねない。
⇒実質的意味での立法。それでは、その法律の所管事項とは何か。
①国民の権利制限・義務賦課に関する事項。
⇔国会は、それ以外のことを立法できないのかという疑問。
②特定の人や団体の権利義務を、直接的具体的に規律する法規範の法制定は禁止する。
⇔法律の所管事項が余りにも広範→国会は、実効的な立法をできるのかという疑問。
⇒①国民の権利制限・義務賦課に係る規律は、必ず形式的意味での立法が必要。②それ以外も、特定の人や団体に対する直接的具体的規律でなければ、形式的意味での立法ができるが、③だからといって、②は必ず立法しなければならないわけではなく、その内容により要不要の判断を国会がすべきとされる。


【3】形式的意味での立法が必要とされる事項に行政機関編成権は含まれるか
①形式的意味での立法をしなければならないとの見解。
⇒行政機関が、国民の権利を規律する処分等を直接的に行使するから。
⇔全ての行政機関が、国民の権利義務等を直接的間接的に規律してはいない。
憲法73条4号の趣旨の類推適用する見解。
⇒行政機関の基本構造を決める編成権も、その本質が民主的正統性を確保すべきものであるため、多元的な見解を統合し、公開性に優れるといった機能を備えた国会において、審議し決定するのにふさわしい事項と解する。国家の基本決定は、国会が行わなければならないという本質に着目。


【4】政令に委任できるの事項はどのような範囲か
 もっとも、国会が、行政機関組織編成の全てを法律で定めなければならないというわけではない。行政の効率性や専門性等を鑑みた場合、政令等に委任することも許される。
 具体的には、少なくとも、憲法72条及び74条に基づき、内閣総理大臣及び国務大臣が、それぞれ分担する行政事務を行うために直接指揮監督する行政機関である省については、その設置及び廃止、そして、その権限等についても、法律で定める必要があろう。なお、このことは、「法の支配」の原則や、「国会中心立法の原則」等からも、導き出される結果であるともいえる。



text

  • 1.内閣の組織及び行政機関の組織のあり方等について

 日本国憲法は、65条において「行政権は、内閣に属する」と定め、その内閣の組織のあり方は、66条1項で法律事項としている。そして、72条が規定するように、内閣を代表する内閣総理大臣が、行政各部を指揮監督することとする。さらに、74条により、その行政各部に対しては、主任の国務大臣が分担して権限を行使することが予定されていると考えられる。
 このように内閣の組織のあり方及びその権限等については、憲法上に明確な規定が置かれる。しかし、その統轄の下に置かれる国の行政機関の組織のあり方及びその権限等に関しては、どこまでが憲法41条の「立法」に含められて国会が制定する法律として定められるべきか、または、どこまでが内閣の自律的権限に属するかは明らかではない。
 以上をふまえて、本問が仮定する「内閣の下に置かれる国の各種行政機関の設置及び廃止を、政令の定めるところによる」とする法律が、憲法上いかなる問題点を含むかについて、以下、検討する。

  • 2.憲法41条の「立法」が意味するところは何か

 まず、憲法41条に規定する「立法」の意味内容とは、如何なるものか。
 これについては、形式的意味での立法を指すとの見解がある。しかし、国会が制定する法が法律である以上、それは同義反復でしかない。また、国会が憲法59条の手続を経て議決さえすれば、どのような内容であれ、法律になってしまいかねない。
 したがって、憲法41条に規定する「立法」とは、実質的意味での立法のことであり、法律の所管事項を意味するものと考えられる。それでは、その法律の所管事項とは、いかなる事項を指すのか。
 これに対して、法律の所管事項を確定する際には、法律で定めなければならない範囲を明らかにすべきとの主張がある。この主張のうち、伝統的なものは、直接又は間接に国民を拘束し、あるいは国民に負担を課す新たな法規範は、法律で定めなければならないとする。しかし、このように、法律の所管事項は、国民の権利制限・義務賦課に関する事項であるとすると、果たして国会は、その国民の権利制限・義務賦課以外のことを立法できないのかという疑問が生じる。
 また、法律の所管事項を確定する際には、法律で定めてはならない範囲を明らかすべきとの主張もある。この主張のうち、有力なものは、特定の人や団体の権利義務を、直接的具体的に規律する法規範は、法律で定めてはならないとする。しかし、このように、法律の所管事項は、特定の人や団体に対する直接的具体的な規律を除く事項であるとすると、法律の所管事項が余りにも広範になるため、果たして国会は、実効的な立法をできるのかという疑問が生じる。
 そこで、これらのいずれにも配慮したうえで、憲法41条の「立法」の意味内容を定める必要があると考えられる。つまり、①国民の権利制限・義務賦課に係る規律は、必ず形式的意味での立法をしなければならないこと、そして、②それ以外のことであっても、特定の人や団体に対する直接的具体的規律でなければ、形式的意味での立法ができること、しかし、③そのことは、必ずしも形式的意味での立法をしなければならないということではなく、その内容によって要不要の判断をすべきであること、などが国会に求められるとするのである。
 ただし、上記③に掲げた形式的意味での立法が可能である領域において、何をもって立法の要不要の判断基準とすべきかについて、明確な根拠規定はない。このことは、必ず形式的意味での立法をしなければならない領域を、どこまで拡張すべきか明らかではないという問題と同義でもある。

  • 3.形式的意味での立法が必要とされる事項に行政機関編成権は含まれるか

 では、この拡張された実質的意味での立法に、内閣の統轄の下に置かれる国の行政機関の組織のあり方及びその権限等を定めることは含まれるか。
 これについては、行政機関設置等の組織編成に関する規範も、必ず形式的意味での立法をしなければならないとの見解がある。その理由は、行政機関が、国民の権利を規律する処分等を直接的に行使するからというものである。しかし、全ての行政機関が、国民の権利義務等を直接的にまたは間接的であれ、規律しているかといえば、そうではなく、行政機関内部だけを規律するのみという組織も含まれる。このことからすると、国民の権利等の規律を根拠として、行政機関を編成する権限を、拡張された実質的意味での立法に含むことは難しいと考えられる。
 また、憲法73条4号を根拠に、法律で定めなければならないと憲法上に規定されていると解釈する見解もある。この見解によると、国の行政機関の組織のあり方及びその権限等は、法律で定めなければならないとされる。しかし、同号においては、あくまで「官吏」と規定していることもあって、行政機関の編成も意味するのではなく、公務員の任用に関することだけを指すと考えることが適当であろう。それゆえ、行政機関編成権に関して、憲法73条4号を、形式的意味での立法が必要とされる憲法上の直接的根拠規定とすることはできないと解される。
 ただし、この憲法73条4号の趣旨を類推して適用することは可能である。憲法73条4号の趣旨とは、憲法15条において、公務員の選任の根拠が国民にあることが定められ、その具体的な実現として、公務員制度の基準を法律によって定めなければならないとすることにある。すなわち、形式的意味での立法が必要とされる事項に、国民主権の原理からの民主主義的要請がある事項が含まれるとの趣旨を、憲法73条4号は有するといえよう。
 このことからすると、行政機関の編成についても、同じように民主主義的要請からのコントロールが求められるとするのが自然である。つまり、行政機関の基本構造を決める編成権も、その本質が民主的正統性を確保すべきものであるため、多元的な見解を統合し、公開性に優れるといった機能を備えた国会において、審議し決定するのにふさわしい事項だと解されるのである。
 以上のような考え方は、国家の基本決定には、国会が行わなければならないという本質に着目するものである。そして、この立場を採れば、行政機関の組織編成についても、国家の基本決定であるとして、形式的意味での立法が必要とされるといえよう。

  • 4.政令に委任できるの事項はどのような範囲か

 もっとも、行政機関の組織編成が実質的意味での立法にあたり、形式的意味での立法が必要とされるとしても、国会が、行政機関の詳細な組織編成から、その個々の権限に至るまで、その全てを法律で定めなければならないというわけではない。行政の効率性や専門性等を鑑みた場合、ある程度、政令等に委任することが許されなければならないだろう。
 そもそも政令とは、内閣が、法律の実施に必要な規則や法律が委任する事項を定めるために制定する行政規則である。この点、内閣の統括下におかれる行政組織のあり方に関する編成権限は、あくまで行政組織内部に係る事項であるから、内閣が制定することができるとして、すべてを政令に委任することができるとする考え方もありうる。
 この考え方においては、本問が仮定する法律が「政令の定めるところによる」と委任を明示していることにより、憲法73条6号の規定に基づく政令の制定であるとして、特に憲法上問題となるようなことはないと解しうるところである。
 しかし、行政機関の果たす役割が大きな今日では、行政機関そのものの活動が、実質的に国民に対して拘束力をもつ場合がありうる。また、それだけではなく、行政機関は租税を財源として一定の公共的サービスを提供している。それゆえに、国民主権の原理及び民主主義的要請からは、少なくとも、行政機関の基本的構造については、法律で定めるべきだといえる。
 具体的には、少なくとも、憲法72条及び74条に基づき、内閣総理大臣及び国務大臣が、それぞれ分担する行政事務を行うために直接指揮監督する行政機関である省については、その設置及び廃止、そして、その権限等についても、法律で定める必要があると考えられるところである。
 なお、このことは、国家権力が個人の自由を制約する場合には、一般的抽象的ルールを法律の効力をもたせて制定しなければならないとする「法の支配」の原則や、国民の民主的コントロールが及ばない機関による立法を排除しなければならないとする憲法41条に基づく「国会中心立法の原則」等からも、導き出される結果であるともいえる。

  • 5.結論

 以上により、本問において、その制定を仮定した「内閣の統括の下に置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、政令の定めるところによる」という趣旨の法律は、省の設置及び廃止までを政令に包括的に委任したことが、憲法41条に定める「立法」の範囲を逸脱しており、国会中心立法の原則に反すると考えられる。

*1:この解答案は、【情トラ】が作成したものであり、その内容については無保証ですので、ご注意ください。