夕張市の一時借入金

 時事ネタに反応することにもままならぬ日々ですが,一応,確認的メモとして。

 北海道夕張市後藤健二市長は20日開会した市議会で、財政再建団体の指定を国に申請する方針を表明した。
(中略)
 市によると、負債の多くは、会計上の回転資金である「一時借入金」が占める。市は15年ほど前から、単年度決算を「黒字」とするため、前年度決算を整理する「出納整理期間」(4月1日〜5月31日)に一時借入を毎年行い、決算上の収支不足を補っていた。
 しかし、長期の地方債より金利が高く、長年にわたって借り換えを繰り返すうちに、借金が膨らんだ。財政再建団体の指定を受けるため策定する財政再建計画では、歳入、歳出が厳しく見直され、公共料金などの引き上げで住民負担は増加する。
(2006年6月20日18時49分 読売新聞*1

 先般からの夕張市の問題につき,「では,いままで決算上の収支の帳尻合わせ(?)をどのようにしていたのか」と気にはなっていたのですが,「出納整理期間」において,「一時借入金」を借り入れることなどで対応(?)していたようですね。


 ということで,以下,地方自治法の解釈等に関するメモ。ただし,詳細な事実関係は把握していないこともあって,単なる想像にすぎませんので,その旨はご留意を。

地方自治法
 (一時借入金)
第二百三十五条の三 普通地方公共団体の長は、歳出予算内の支出をするため、一時借入金を借り入れることができる。
2 前項の規定による一時借入金の借入れの最高額は、予算でこれを定めなければならない。
3 第一項の規定による一時借入金は、その会計年度の歳入をもつて償還しなければならない。

 地方自治法235条の3の規定により,普通地方公共団体の長は,「その会計年度の歳入をもつて償還しなければならない」借入金として,「一時借入金」を借り入れることができる。この「一時借入金」は,あくまで「その会計年度」内で,「借入とその償還」を行わなければならないものであるので,その借入と償還は,次のような感じになるはず(このような頻繁な借入と償還の繰り返しは,実際上はありえないでしょうが,極端な例として掲げておきます。)。

  • (1) 平成10年10月に「一時借入金」を借り入れる
    • 平成11年3月までに要償還
  • (2) 平成11年1月に,(1)の「一時借入金」償還のため,新たな「一時借入金」を借り入れる
    • 平成11年3月までに要償還
  • (3) 平成11年2月に,(2)の「一時借入金」償還のため,新たな「一時借入金」を借り入れる
    • 平成11年3月までに要償還
  • (4) (3)の「一時借入金」償還のためには,もはや新たな「一時借入金」はできない
    • 平成11年3月に,(3)の「一時借入金」償還のため,新たな「一時借入金」を借り入れようとしても,それも,平成11年3月までに要償還であるはずなので,もはや新たに借り入れることはできないはず

 つまり,この「一時借入金」は,それを「会計年度をまたぐことができない」と定めているからこその「『一時』借入金」であるはずであって,地方自治法235条の3第3項は,「『一時借入金』を『新たな一時借入金』に借り換えること」を規制する規定だと考えることもできそう。
 とすると,夕張市では,「一時借入金」を,「長年にわたって借換えを繰り返すうちに、借金が膨らんだ」とあるので,地方自治法235条の3第3項違反の行為を繰り返していたのか?
 この疑問に関しては,そうではないと回答できなくもない。その根拠は何かといえば,次の規定。

地方自治法
(出納の閉鎖)
第二百三十五条の五 普通地方公共団体の出納は、翌年度の五月三十一日をもつて閉鎖する。

 この規定により,地方自治法235条の3第3項で定めていたはずの「一時借入金」を「新たな一時借入金」に借り換えることへの規制が,何ら役に立たないものになるよう解釈することも可能となる。次のように対応することで。

  • (1) 平成10年10月に「一時借入金」を借り入れる
    • (235条の5の規定により)平成11年5月末日までに要償還
  • (2) 平成11年4月に,(1)の「(平成10年度)一時借入金」償還のため,新たな「(平成11年度)一時借入金」を借り入れる
    • 平成12年5月末日までに要償還
  • (3) 平成12年4月に,(2)の「(平成11年度)一時借入金」償還のため,新たな「(平成12年度)一時借入金」を借り入れる
    • 平成13年5月末日までに要償還
  • 以下,15年間繰り返し

 しかし,当然のことながら,「一時借入金」とは,「その会計年度の歳入をもつて償還しなければならない借入金」である。これを,「会計年度」と「出納の閉鎖」のズレを利用することによって,「『一時ではない』借入金」とするような対応は,地方自治法235条の3第3項の趣旨からすると,単なる脱法的解釈であり,同項違反といえるのではないか。


※以上のメモを作成するにつき,夕張市役所及び北海道庁のWebサイトにも,何かしらの詳細な情報がないか,探してみましたが,発見することはできず。。このような状況下において,如何なる情報公開を行うのかということは,大きな大きな課題ではないかとも個人的には感じる次第。
 とりあえず,次のような規定があることも,掲げておきまする。お住まいの自治体に「財政状況の公表」につき尋ねてみると,どのような対応がなされるのか,どーぞ確認してみてはいかがでしょうか?

地方自治法
 (財政状況の公表等)
第二百四十三条の三 普通地方公共団体の長は、条例の定めるところにより、毎年二回以上歳入歳出予算の執行状況並びに財産、地方債及び一時借入金の現在高その他財政に関する事項を住民に公表しなければならない。
2 普通地方公共団体の長は、第二百二十一条第三項の法人について、毎事業年度、政令で定めるその経営状況を説明する書類を作成し、これを次の議会に提出しなければならない。
3 普通地方公共団体の長は、第二百二十一条第三項の信託について、信託契約に定める計算期ごとに、当該信託に係る事務の処理状況を説明する政令で定める書類を作成し、これを次の議会に提出しなければならない。


【追記】
【主張】夕張市財政破綻 決算制度の改革が必要だ@Sankei Web(cache)


【追々記】
 取り急ぎ,bewaadさんによる引用を受けて,いわゆる機種依存文字(丸付き数字)を書き換えておきました(それとともに数字の誤りも正しました。)。


【追々々記】
 id:nationfreeさんも,同様の,そして,より詳細なエントリを掲げられていました。
ある地方公務員の子育て日記/実態解明?−ジャンプ方式


【追々々々記】
 ちょっと気にしていることの一部ですが,メモとして追記。金融機関も商売なので,夕張市の借入額が増えるにしたがい,また,借入先金融機関の数が増えるにしたがい,それぞれのリスク判断から貸付金利を上げたりすることはなかったのか,などということも考えたりしています。もし,一定の金利で変化がなかったということであれば,自治体融資だからリスクゼロと考えていたのかもしれませんが,今後,夕張市の事案をうけて,他の自治体融資において,何らかの厳しい審査がされたりすることもあるのか(それとも,もともと厳しい審査がなされているのか?),などということも,気になったりもしたりして。
 あと,類似の処理をしている他の自治体が存在しないかどうかも,気になるトコロ。


【参考】