「ウェブ時代をこう生きてみたい」

 せっかくの機会なので,これまでの自らの取組みをまとめてみる。アップしてきたエントリーをつなげた感もあって,たいへん長文になってしまったけど。それなのに,ほんの一部のことしか書き表せていない気がするけど。さらには,議論の筋道が大雑把な感じがしなくはないけど。しかし,そうしたことは置いといて。
 法科大学院の修了も視野に入ってきたことだし,これからの展望も含めて。



「ウェブ時代をゆく」欲しい!



1.「人生をうずめる」対象としての「地方自治の本旨

 私には,ただただ面白いし,好きだという想いから,人生をうずめたいと考えているテーマがあり,2003年からコツコツと,そのテーマに関わる具体的な取組みを行っている。ちょっぴり,かたぐるしい表現でいうと,日本国憲法92条に掲げられる「地方自治の本旨」に関わる取組み,具体的には,「パブリックコメント」に関わる取組みである。

 ここで「地方自治の本旨」について,少しばかり型どおりの説明をしておくと,この概念には,「住民自治」と「団体自治」の2つの要素があるとされる。前者の「住民自治」とは,地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素のことであり,後者の「団体自治」とは,地方自治が国から独立した団体(たとえば,都道府県や市町村のこと)に委ねられ,団体自らの意思と責任の下でなされるという自由主義的要素のことである。

 日本における「地方自治」には,2000年の地方分権一括法施行を契機とした大きな流れがあるが,この一連の改革のほとんどが,機関委任事務の廃止など「団体自治」の強化を図るものであった。「地方自治の本旨」に資するためには,もちろん「住民自治」の拡充にも努めなければならないが,それは制度改革による全国画一的なものではなく,個々の都道府県や市町村,そして,地方議会や住民自身の具体的な取組みに委ねられるべきということであろう。


 社会経済の成熟に伴い,「全国画一的な格差のないサービスによる基盤の整備」から,「地方ごとの事情を考慮した個性のあるサービスによる付加価値の供給」へと,行政目標が変化した今日では,行政が「住民全体のために」とだけ考えて行動するとは限らない。そもそも今日は,「住民全体の利益とは何か」との問いに,明確な答えを出しづらい時代であろう。そうした時代であるにも関わらず,行政に対し,意思を表明したり,働きかけを行おうとするアクターが,既得権益を持つものに限られているようであれば,行政の裁量が,その既得権益の保護に偏るという癒着や不公正につながりかねない。

 こうした不公正を防ぐためのひとつの方策が,「行政が一面的な視点で立案する政策等に対し,多面的な視点からの意見・検討・知恵を導入するため,住民が意見等を提出する」という「パブリックコメント」と呼ばれる制度及び取組みである。つまり,住民から行政へ意見を提出する手続を確立し,実際に多種多様な住民からの意見が提出されることによって,強大な権限を有する行政の裁量をできる限り少なくすることが必要と考えられるのである。

 現在(平成19年11月2日時点),日本のウェブ界において多くの注目を集めている話題が,「ダウンロード違法化」等に係る「私的録音録画小委員会中間整理」に対するパブリックコメントである。このパブリックコメントに対するウェブ上における様々な取組みなどは,多面的な視点からの意見・検討・知恵を導入するための,まさに絶好の事例ということができるだろう。

2.パブリックコメントという制度

 この「パブリックコメント」について,私が「なぜ,人生をうずめられるとまで考えているのか」を説明すると,次のような理由による。

 まず,「パブコメ」と略称したときの語感がよい。「パブ」で「コメ」である。「パブコメ出した?」,「パブコメ,まだ出してへん。」といった感じで,気軽に口に出してみたくなりそうなほどである(なお,法律上の用語としては,「意見公募手続」と呼称されるが,その気軽な略称は考えつかない。)。それゆえ,人びとが関心を抱きやすいであろう,という理由である。

 次に(,というか,ここからが本題だが),パブリックコメント制度においては,「具体的な関係資料等が公表されるため,争点を理解しやすいこと」及び「政治家等を仲介せず,直接的に提言できること」といった「参加コストの低さ」がある。このことは,不特定多数のものが,大量の情報を,どこに居ようが,自由に閲覧することができるウェブ時代の恵みが,多大に関係しているということができるだろう。それゆえ,非常に大きな拡がりが期待できるという理由である。
 なお,2005年2月に人力検索はてなでアンケートを実施した際には,46.8%の人びとが,パブコメに「何らかの関心を抱いたことがある」との結果が出ており,ひとつの参考になる。同じように,2007年11月にアンケートを実施したところ,56.8%の人びとが,パブコメに「何らかの関心を抱いたことがある」と回答しており,1000日経過して,10%の伸びがみられた。

 また,パブリックコメント制度は,特定の個人や団体から「聞くだけ」に終始した従来の審議会等の制度とは異なる。つまり,不特定多数のものが提出した意見等について,行政が「どのように取り扱ったか,そして,その理由は如何なるものか」まで公表する仕組みとなっている。このことが,意見等を提出した者が感じる「満足度の高さ(若しくは満足度が高くなりうる可能性)」をもたらすことも,大きな大きな要素である。


 これらの理由をふまえたうえで,さらに,私には,「パブリックコメントの有用性は,何らかのサービスを提供する団体や個人等の全てに共通するはず」との夢想かつ確信がある。
 どのような団体や個人であれ,その活動がサービスというものである限り,そのサービスの利用者から意見を聴取することにより,一層充実した運営を行いうると考えられるのではないか。たとえ,場合によっては,有意義な意見が聴取できなくとも,「利用者から,どんな意見が提出されるかわからない」から仕組みがあるからこそ,最善のサービスを提供しようとする緊張感にもつながりうるのではないか。そして,これらのことは,利用者のニーズがあってこそのサービスの提供であるとするならば,当然のことだと言えるのではないか。
 この夢想かつ確信は,単なる直感に過ぎないものではあるが,特に,地方行政というサービス提供の場面では,「住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素」として説明しうるものである。

 往々にして,これまでの行政は,情報をできるだけ隠そうとすることが慣わしであった。そして,住民側も,そうした行政を批判することに終始する対立アクターとして活動することが多かった。しかし,行政は,基本的には信頼するに足りる組織であるはずだし,そうであってほしい。
 だからこそ,「外部からの情報・意見・批判を受け付けない組織・制度に,公正なものはありえない」との考えを前提に,「パブリックコメント」制度が,「住民自治」に資する制度として,よりよく構築され,よりよい運用がはかられることを期待したい。そして,その実現に向けた建設的な取組みこそが,私の「地方自治の本旨」に関する取組みなのである。



3.【情トラ】/情報トライアングル/情報循環という取組み

 それでは,そのような私の取組みとは,具体的には一体いかなるものか。次に掲げるところが,現時点で中心的なものである。これらの取組みは,すべてウェブ時代だからこそ可能な取組みであり,そして,はてなのサービス群があったからこそ,発想し,実現しえた取組みでもある。

  • 【情トラ】メルマガ


 なお,これらの取組みでは,私のはてなidでもあるjoho_triangle(情報トライアングル),それを略した【情トラ】,そして,「情報循環」という語をキーワードとして用いており,それらの意味するところを一種のフロー図として示せば,次のようなものとなる(現時点で行っている取組みは,(2)及び(3)に該当する部分である。)。

  • (0) 私が主体となって取り組みたいと考えている,行政機関における「情報取扱い」に関する制度設計(情報共有が行政実務担当者間だけで実現されるのではなく,できうる限り一般住民も参照できるような仕組みで実現するような制度設計)

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  • (1) 行政が主体となって行う,行政と住民・議会等との間の対話の前提となる「情報公開」

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  • (2) 私が主体となって取り組んでいる,個別にある公開情報を,その情報発信元の協力も得つつ,網羅的に集約する「情報集約」

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  • (3) 私が主体となって取り組んでいる,集約した個別情報を,同種の情報が比較可能となるように,一覧化して共有する「情報一覧」

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  • (4) 住民,議会等が主体となって行う,情報公開・情報一覧から得た情報を理解し,咀嚼する「情報共有」

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  • (5) 住民等が主体となって行う,情報共有をもとにして,意見・情報等を提供する「情報提供」

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  • (6) 住民や行政,議会等が,情報提供をもとにして、議論し,意見・情報等を提言する「情報提言」

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  • (7) 行政や議会等が,情報提言をもとにして、政策立案や政策運用に反映させる「情報循環」

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  • (1) 行政が主体となって行う,いかに政策立案や政策運用をしたのかにつき,行政と住民・議会等との間の対話の前提となる「情報公開」

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  • (2) 「情報集約」

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  • (3) 「情報一覧」

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  • (7) 「情報循環」

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4.ウェブ時代をこう生きてみたい
 (ア) 私のキャリアについて
 私には,「地方自治の本旨」に関わる取組みに「人生をうずめる」ことも考慮して,法科大学院に入学し,これまで学んできたという経緯がある。つまり,法曹資格を得ることも含めて,これまで充分なリーガル・サービスが存在していない分野であり,かつ,私が関心をもつ分野において,「飯を食っていけないか」と考え,努力してきたわけである。
 具体的には,地方自治体におけるガバメント・ガバナンス(私の造語。企業におけるコーポレート・ガバナンスに対応する語であり,リーガル・サービスの一分野。上記フロー図でいえば,(0)に該当する部分を含む。)や,地方議会に対する専門的リーガル・サービスが,その目指すところの分野である。管見の限りでは,これらの分野に外部の独立した専門家はあまり存在していないし,これらのリーガル・サービスを提供するには,単に法曹資格を持っているというだけで足りるものではない。

 そのような状況のもと,私がこれまで取り組んできた「(2) 情報集約」ないし「(3) 情報一覧」の実践は,法曹資格を得た後において,ガバメント・ガバナンスないし議会に対するリーガル・サービスに奉仕するための,ひとつの強みになるはずである。そして,こうした強みは,次に掲げる取組み事例が示すように,ウェブ時代だからこそ経験し,ノウハウを蓄積してこれたという側面もある。


 もっとも,厳しい現状もないわけではない。たとえば,国においては,2006年4月からパブコメに関する法律上の定めが施行されているにも関わらず,地方自治体においては,同様の規定を条例で定めている例はまだまだ数少ない。
 こうした現状に対して,やっぱり「行政は変わらないし,変えたくないんかな」と悲観的にとらえるのか,やっぱり「ガバメント・ガバナンスが,世の中必要とされてるんやな」と楽観的に考えるのか。私は,後者でしかありえないので,ただただ努力あるのみということになるだろう。

 そして,果たせるかな,私の努力が実現できたならば,自らが関与したガバメント・ガバナンス等の取組みについては,各地方自治体に関する情報アーカイブとして,ウェブ上に「情報集約」ないし「情報一覧」化したいとも考えている。私が,それらの情報をウェブ上に掲出することにより,当該情報を,不特定多数のものが,大量の情報を,どこに居ようが,容易に相互参照・相互比較できるようになって,各地方自治体間の相互競争を促す契機にもなりうるはずである。その結果,多くの地方自治体によりよい影響を及ぼし,よりよい情報循環ができたら,との想いからの目標なのである。


 (イ) パブリックコメント提出意見の第三者評価制度への取組みについて
 パブリックコメントへの取組みの発展としては,外国の事例ではあるが,パブコメに提出された意義深い意見には報奨金をだすこともあるとのことである。これに関連して,「ウェブ時代における『投げ銭』の発想で,何らかの評価制度ができないか」と従来から考えているところである。
 そこで,人力検索はてなのシステムを用いて,次のような取組みにもチャレンジしている。

 このような取組みが,多くの人びとの関心を抱くところとなり,これまた,よりよい循環がうまれたら,と希望する次第である。


【追記】
 このエントリーは,もちろん例の「欲しい」キャンペーンを「せっかくの機会」として,まとめたものです。自らを省みるという面が大きいので,あんまり「強い印象を残」すことはできないかな,とも思いつつ,つらつらと書き記してみた次第。ところどころ,「ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)」の目次から表現等をお借りしながら。

 ともあれ,id:umedamochio さんから,はてなスターをつけていただいたようで,嬉しい限り。ありがとうございまスター


【追々記】

 「ウェブ時代をゆく」サイン本をいただけるとのこと。先般の「はてなスター・ウォーズ - 【情トラ】附゛録゛」では,惜しくも一歩及ばずじまいだったこともあり,嬉しさ倍増。


 なお,本エントリーは,2年ほど前,「(行政が実施する)パブリックコメントに関すること」について,id:jkondo さんに少しばかりお話しさせていただいたことを,エイヤッとまとめあげた側面もあることを付記しておきます。

*1:回答がなかったので,キャンセルとなりました。