物権法/第3講 物権変動の原因と時期

<1>物権の発生・取得には、他人が有する物権に基づいて物権を取得する「承継取得」と、他人が有する物権に基づかずに独立して物権を取得する「原始取得」がある。
■そして、その「承継取得」には、他人が有する物権をそのまま取得する「移転的承継」と、他人が有する物権の一部を取得する「設定的承継」がある。前者の例としては、当事者の意思に基づく「法律行為による移転的承継」と、死亡したという事実から法律に基づく「相続による移転的承継」である(民法896条*1)。
■また、「原始取得」には、所有者のいない物についてはじめて所有権を取得する「新規発生型」と、すでに所有者のいる物について新たに物権を取得する「旧物権消滅・新物権発生型」がある。前者においては、動産の場合のみ所有権を取得することができ(無主物占有(民法239条1項*2)、不動産の場合は取得することはできない(民法239条2項*3)。
■そして、「旧物権消滅・新物権発生型」においては、次のような場合がある。

    • 遺失物拾得…遺失物*4は、その拾得者が所有権を取得する(民法240条*5)。
    • 埋蔵物発見…埋蔵物*6は、その発見者が所有権を取得する(民法241条本文*7)。ただし、他人物のなかでその所有者以外の者が埋蔵物を発見した場合は、発見者とその物の所有者が折半する(民法241条但書*8)。
    • 添付…所有者の異なる2個以上のものが結合して分割できなくなった場合を「附合・混和」といい、他人の者を加工して新たなものを生じた場合を「加工」という。附合については、所有者を異にする2個以上の物が結合して、これを分離すれば社会経済上不利益をもたらすと考えられる場合は、当該不動産の所有者は、その不動産の従物として附合した物の所有権を取得することになる(民法242条本文*9)。
    • 取得時効…20年間所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の者を占有した者は、その所有権を取得する(民法162条1項*10)。また、その占有の始めから善意無過失であるときには、10年間でその不動産の所有権を取得する(民法162条2項*11)。

■物権の変更とは、物権の同一性は変わらない程度で内容が変更される場合をいい、例として、地上権の存続期間の変更や抵当権の順位の変更があげられる。<2>物権の消滅・喪失には、まず、物権の客体が消滅するという「目的物の滅失」がある。
■また、自己の有する物権を消滅させるという意思表示による「放棄」がある。これは、原則として物権は消滅する(参考として民法268条1項本文*12)が、他人の権利を害する場合は、放棄は許されない(参考として民法398条*13)。
■そして、所有権以外の財産権は、20年間これを行使しなければ消滅するという「消滅時効」がある。
■さらに、2つの並存させておく必要のない法律上の地位が同一人に帰属するにいたった場合には、次に掲げるところとなる。

    • 所有権と制限物権が同一人に帰属した場合…原則として、当該制限物権は消滅する(民法179条1項本文*14)。ただし、その物が第三者の権利の目的である場合は、所有権と制限物権が同一人に帰属したからといって当該制限物権が消滅してしまったら、当該制限物権よりも下位であった、その第三者の権利が当該制限物権を有していた者の権利より優先してしまうことになるので、当該制限物権を存続させる。また、混同した制限物権が第三者の権利の目的である場合は、所有権と制限物権が同一人に帰属したからといって当該制限物権が消滅してしまったら、当該制限物権に設定していた第三者の権利までも消滅してしまうことになるので、当該制限物権を存続させる(民法179条1項但書*15)。
    • 制限物権とこれを目的とする他の権利が同一人に帰属した場合…原則として、当該制限物権を目的とする他の権利は消滅する(民法179条2項前段*16。ただし、当該制限物権が第三者の権利の目的である場合は、当該制限物権とこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したからといって当該制限物権を目的とする他の権利が消滅してしまったら、当該(他の)権利よりも下位であった、その第三者の権利が当該(他の)権利を有していた者の権利より優先してしまうことになるので、当該(他の)物権を存続させる。また、混同した当該制限物権を目的とする他の権利が第三者の権利の目的である場合は、制限物権とこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したからといって当該制限物権を目的とする他の権利が消滅してしまったら、当該(他の)権利に設定したいた第三者の権利までも消滅してしまうことになるので、当該(他の)権利を存続させる(民法179条2項後段*17)。
    • 占有権の場合…占有権は物の所持という事実状態をあらわすものであって、物の価値は関係ない権利であるので、混同には関係ないものである(民法179条3項*18


<3>物権変動に関しては、物権変動が生ずるには一定の形式を備えることが必要だとする「形式主義」と、物権変動が生ずるには意思表示のみがあれば足りるとする「意思主義」がある。前者の「形式主義」は特に取引安全の確保に資する考え方であり、登記の有無によって物権変動の存否を判断することが可能とする。対して、後者の「意思主義」における取引安全への対処は「対抗要件主義」が採用されている。これは、意思表示によって物権変動の効力は生じるが、それを第三者に対抗するためには登記が必要という考え方である(民法177条*19)。
■日本の民法では、「意思主義」を採用(民法176条*20)しているが、この「意思表示」の意味をどう解するかという問題がある。
■ひとつの考え方としては、日本の民法がパンデクテン・システムを採用していることを理由として、物権行為と債権行為を区別し、民法176条の「意思主義」の意味を物権行為のみを指すという「独自性肯定説」がある。これは、物権行為が債権行為とは別に独立した行為として行われるという、形式主義を採用するドイツ法に影響を受けている。
■しかし、日本はドイツと異なり、意思主義を採用している。それゆえに物権行為と債権行為を区別した上で物権行為の独自性を否定する「独自性否定説」が通説となっている。この説においては、例えば、売買契約という1つの法律行為のなかに、物権行為と債権行為が同時に含まれているとみるのである。<4>物権行為の無因性とは、物権行為の効力は債権行為の有効・無効によって影響を受けないというものである。この考えを肯定する「無因性肯定説」では、土地の売買において錯誤があり、債権行為が無効となっても、物権行為は有効であるとするが、これは対第三者関係における取引の安全を考慮したことによるものである。
■しかし、この考え方には、悪意の第三者までが保護されるという問題点を含んでおり、また、債権行為に瑕疵があるのだから物権行為自体も瑕疵をおびる可能性があるとして、無因性を否定する見解もある。この「無因性否定説」においては、第三者の信頼保護の可能性は、民法94条2項*21類推適用*22によって検討することとなる。<4>物権変動の時期に関しては、契約時を原則とし、例外的に、物権変動に障害がある場合はその障害がなくなった時点で移転する*23という「契約時移転説」がかつての判例等にみられた。
■しかし、そもそも民法176条*24は、物権変動の「原因」は何かということを規定しているだけであって、「いつ」変動するかということは規定していない。それゆえに、意思表示によって物権変動の時期も決めることが可能と考えることが正しい考え方であろう。つまり、当事者の意思が解釈によってもはっきりしない場合は、物権は契約時に移転するものとするのが、契約時移転説の本来的意味だといえる。
■ただ、デフォルトが契約時だとするのではなく、代金支払い時だとする「代金支払い時原則説」もある。これは有償性原理という法原理を用いたものであり、相手方から対価としての給付が行われない限り、自分も給付しなくてもいいという同時履行関係を認め、物の所有権の移転と代金の支払いがその対価関係だと考えるものである。
■だが、代金支払い以外のことは何ら効果がないのかという疑問も提示され、例えば、代金の支払い前に目的物を引き渡したり、登記を移転したりしたときには、相手方を信用して、同時履行関係を放棄したとみて、所有権移転の意思があったとする見解もある。

*1:相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

*2:無主ノ動産ハ所有ノ意思ヲ以テ之ヲ占有スルニ因リテ其所有権ヲ取得ス

*3:無主ノ不動産ハ国庫ノ所有ニ属ス

*4:占有者の意思によらないでその所持を離れた物であって、盗品でない物

*5:遺失物ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ公告ヲ為シタル後六个月内ニ其所有者ノ知レサルトキハ拾得者其所有権ヲ取得ス

*6:土地その他のもの(包蔵物)のなかに埋蔵されていて、誰が所有者か判別しにくい物

*7:埋蔵物ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ公告ヲ為シタル後六个月内ニ其所有者ノ知レサルトキハ発見者其所有権ヲ取得ス

*8:但他人ノ物ノ中ニ於テ発見シタル埋蔵物ハ発見者及ヒ其物ノ所有者折半シテ其所有権ヲ取得ス

*9:不動産ノ所有者ハ其不動産ノ従トシテ之ニ附合シタル物ノ所有権ヲ取得ス

*10:二十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ物ヲ占有シタル者ハ其所有権ヲ取得ス

*11:十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ不動産ヲ占有シタル者カ其占有ノ始善意ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動産ノ所有権ヲ取得ス

*12:設定行為ヲ以テ地上権ノ存続期間ヲ定メサリシ場合ニ於テ別段ノ慣習ナキトキハ地上権者ハ何時ニテモ其権利ヲ抛棄スルコトヲ得

*13:地上権又ハ永小作権ヲ抵当ト為シタル者カ其権利ヲ抛棄シタルモ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得ス

*14:同一物ニ付キ所有権及ヒ他ノ物権カ同一人ニ帰シタルトキハ其物権ハ消滅ス

*15:但其物又ハ其物権カ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス

*16:所有権以外ノ物権及ヒ之ヲ目的トスル他ノ権利カ同一人ニ帰シタルトキハ其権利ハ消滅ス

*17:此場合ニ於テハ前項但書ノ規定ヲ準用ス

*18:前二項ノ規定ハ占有権ニハ之ヲ適用セス

*19:不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

*20:物権ノ設定及ヒ移転ハ当事者ノ意思表示ノミニ因リテ其効力ヲ生ス

*21:(相手方ト通シテ為シタル虚偽ノ意思表示→)前項ノ意思表示ノ無効ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

*22:本人X、相手方Y、第三者Zとした場合、①外観の存在=X→Yの移転登記、②Xの帰責性、③Zの善意(無過失)

*23:例として、「不特定物売買」の場合は「特定時」、「他人物売買」の場合は「所有権の調達時」と考える。

*24:物権ノ設定及ヒ移転ハ当事者ノ意思表示ノミニ因リテ其効力ヲ生ス