幸福追求権

■居住・移転の自由の意義とその制限
 憲法22条1項*2の保障する居住・移転の自由は、経済的自由の一環をなすものであるとともに、奴隷的拘束等の禁止を定めた憲法18条*3よりも広い意味での人身の自由としての側面を持つ。のみならず、自己の選択するところに従い社会の様々な事物に触れ、人と接しコミュニケートすることは、人が人として生存する上で決定的重要性を有することであって、居住・移転の自由は、これに不可欠の前提というべきものである。らい予防法は、伝染させるおそれがある患者の隔離を規定しているのであるが、いうまでもなく、これらの規定は、この居住・移転の自由を包括的に制限するものである。
■らい予防法の隔離規定と憲法13条*4の人格権
 ただ、らい予防法の隔離規定によってもたらされる人権の制限は、居住・移転の自由という枠内で的確に把握し得るものではない。ハンセン病患者の隔離は、通常極めて長期間にわたるが、たとえ数年程度に終わる場合であっても、当該患者の人生に決定的に重大な影響を与える。その影響の現れ方は、その患者ごとに様々であるが、いずれにしても、人として当然持っているはずの人生のありとあらゆる発展可能性が大きく損なわれるのであり、その人権の制限は、人としての社会全般にわたるものである。このような人権制限の実態は、単に居住・移転の自由の制限ということで正当には評価し尽くせず、より広く憲法13条に根拠を有する人格権そのものに対するものととらえるのが相当である。
■公共の福祉による合理的制限の逸脱と違憲
 このような患者の隔離がもたらす影響の重大性にかんがみれば、これを認めるには最大限の慎重さをもって臨むべきであり、伝染病予防のために患者の隔離以外に適当な方法がない場合でなければならず、しかも、極めて限られた特殊な疾病にのみ許されるべきものである。つまりは、人権制限は、全く無制限なものではなく、公共の福祉による合理的な制限を受ける。

*1:ハンセン病は、らい菌によって引き起こされる慢性の細菌感染症であるが、現在では、外来治療によって完治し、感染の発見が遅れて障害を残した場合でも、その障害を最小限に止めることができるとされている病気である。

*2:何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

*3:何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

*4:すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。